えっ、クリスマスの過ごし方ですか?あんまり、私には縁がないものですからね……。
考えたこともなかったなぁ。私はクリスマスの時期はほとんど中で暮らしていますから。というより、ほぼ一年外に出ることもないですからね。
あっ、チラッとくらいは見たことありますよ。寒そうに帰る人とか、楽しそうにしている人とか。
あとはあそこのもみの木さんなんかは得体の知れない光ってる拘束器具を外されて『ようやく解放された』なんて安堵している姿とかは毎年見ますね。
仲良いってわけじゃないんですけどね、毎年この日はバトンタッチじゃないけどなんか同志みたいな気になるんです。
『戦友』って言葉なんかしっくりきますね!別に一緒に行動してるわけではないし、戦ってるわけでもないんですけどね。
この国のイベント事を担っているという点では彼とは『戦友』なのかもしれないですね。
あっ、そろそろ出番のようです。ここから年始にかけては私が頑張る番ですからね。行ってきます!
今年のクリスマスももう終わり、街灯の木々からは数人の作業員によって電飾が外されていった。
その傍ら、街のあらゆるお店では門松が飾られ始めていた。
「いや、参ったなぁ……」
「どうしましょうか?」
大量のプレゼントを前に、俺と先輩は途方に暮れていた。
「まさかこの時期にトナカイ達がストライキ起こすとは思いませんでしたね」
12月の中旬を過ぎた頃、獣労働組合から全世界のサンタ事業所に通達が届いた。要約すると、トナカイに対する強制労働と違法薬物(実はレッド◯ルなのだが)の摂取をやめさせることがそこには書かれていた。
「もう飛脚かクロネコかa→zに頼みませんか?さすがに物理的に無理ですよ」
「そんなことできるか!」
先輩は荒々しく反論した。
「イブの夜にはトナカイ乗って、煙突から各ご家庭にお邪魔をしプレゼントを届けるって昔から相場が決まってるんだよ!」
先輩は先祖代々サンタを生業にしている名門出のサンタだ。いわばサラブレッド。こういう昔からのしきたりや伝統を守るのが使命だと思い込んでいる。
「先輩、お言葉ですが……」
「なんだよ」
「クリスマスイブのイブは元々、イブニングから取られたものでイブの夜って言うと二重ことばになってしまいます。焼いた焼き魚みたいに」
「それ教えたのオレだろ……、お前モテないだろ?」
「モテてたら5年連続先輩の下でこうしてサンタやってないですよ」
今年のイブは長くなりそうな予感がした。
「鳥のように自由に空を飛びたい」
なんていうけれど、ヤツらはたまたまこの世に生を落とされたとき鳥だっただけで、ヤツらから見たら
「あぁ、人のように自由に地面を走り回りたい」とか
「あぁ、人のように言葉を巧みに操り異性にプロポーズしたい」だとか
あるいは「満員電車に揺られてぎゅうぎゅう詰の感覚を味わってみたい」とか思ってんじゃなかろうかね。
最後のはないか……
でも季節によって住む場所変えて、その度に長い距離を移動する。
果たして、それが自由かね?
「なぁ、聞いてるのか?」
飼い猫は飼い主の戯言をあくびをしながらかわしている。
「お前のようにこたつで丸くなって寝ていたいよ、オレは」
仕事行きたくない……
そんな俺の気持ちとは裏腹に今日の空は晴々としている。
「もうすぐです」
そう教祖と名乗る男が言うや否や、ベルの音が村中に鳴り響く。どこからともなく鳴ったその音は心地よくもあり、同時に心の奥から不安を呼び起こす不思議なものだった。
「数十年ぶりだ……」
隣にいた老人は誰に言うでもなく呟いた。村の一番の高所であるこの丘に住人全員が集まっていた。どの顔も見知った顔で、ただ一人除いては知らないものはいない。
数日前にふらっと現れ村人たちにお告げを吹聴していった人物。俺たちの前で両手を天に掲げ何やら呪文めいたものをブツブツと唱えている。なんでも東国の方のおまじないというが嘘くさい。
「姿も何もかもお変わりなく、また私たちをお助けくださいましてありがとうございます」
村長が怪しい男に頭を下げる。同時に年配の村人たちもこうべを垂れた。
「どうした、お前らも頭をさげんか!」
俺を含めた若い衆も渋々お礼を示す。
何のために?
誰もが思う疑問を口にはしなかった。
こうして起きるかどうかわからない災いはこの村に起こらなかった。
「ねぇ、ここの縦の10って何?」
僕らの静寂をやぶったのは彼女の問いだった。どうやら新聞についてくるクロスワードを解いていたらしい。週末恒例行事だ。
「どういう問題なの?」
「"寂しい"の対義語だって。はい、雑誌を閉じる」
雑誌を読むことを強制的にやめさせられた。いかなる手段のカンニングも許さない。
そんな真面目さを彼女は持っている。
「"たのしい"じゃないの?」
「違う」
彼女がいるソファの横に座るやいなや即答された。
「"に"から始まるの」
彼女の左手にある日曜版の新聞を覗き込む。新聞は片手で持ちやすいよう、縦に二回たたまれた形になっていた。
「その"に"が間違ってるんじゃない?」
「海にいます。イガイガしてます。だって」
「"うに"だね」
「"うに"でしょ」
縦の10の始めの言葉は"に"で決まっていた。彼女の右耳にはクロスワード専用のボールペン。悩む姿は競馬場で予想をしているおじさんのようだ。
そんなオチャメさも彼女は持っている。
「だったら"にこやか"かなぁ」
「それは違うでしょ」
今回は根拠もなく否定された。
「わからないから調べてみよう」
僕には雑誌を閉じさせたのに、自らスマホを取り出した。ルールを簡単に変えていく。
そんなおおらかさを彼女は持ち合わせている。
「"にぎやか"だって……納得いかない」
「へぇ、''寂しい"の反対は"賑やか"なんだね」
「いま私たち賑やか?」
「賑やかというには落ち着いてるよね」
「寂しい?」
「寂しくない」
「納得いかない」
自分の考えにそぐわないことを否定する。
そんな頑固さを彼女は持っている。
そんな彼女といる生活は賑やかではないけれど"寂しく"はない。