我妻和泉

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12/19/2023, 7:38:11 AM

 そうですねぇ……、我々の仕事って冬だけ稼働するみたいなイメージが強いんですけどね。実際は春夏秋冬どの季節も業務はしてるんですよ。
 かれこれ40年近くこの仕事してましたけど、去年で引退しようと思いまして。
 えぇ、もちろん後継の育成もやってきましたので今年以降もしっかりと皆さんのもとには届きますよ。それは断言します。
 とはいえね、私の先輩の代。1回目の東京オリンピックの時なんかは苦労したみたいですね。まだ日本やアジアが世界的に地位がなかったと言ってもいい時代でしたから。今や協会では時差が早いところから配り始めるなんてきまりもできましたけど、その頃は欧米諸国から口うるさく言われてたなんてことも聞きますよ。
 でもその頃は今よりも我々のことを望んでくれる子たちがたくさんいたんだろうなと。それが引退を決意した理由ではないですけどね。
 引退した理由ですか?本来だったら、私くらいの年頃がね、この仕事の適齢期なんて言われたりもしますからね。いえね、孫に「ジィちゃん、冬も一緒にいれると良いなぁ」って言われたんです。
 本人としては何気なく言った言葉だと思うですけどね、私気づいたんです。息子や娘たちにも同じ思いをさせてたんだなって。今更、遅い気もしますけど孫たちの側にいてやることで少しでも彼らの心に私の想いが届けられれば良いなと。
 次の仕事ですか?協会の方には残らせていただけるそうなので、トナカイの世話や飼育をしていこうかなと考えてますよ。彼らも大事なパートナーなんでね。

12/18/2023, 2:48:57 AM

「野球ってありますよね?スポーツの」
 公園のベンチで日向ぼっこをしながら、子どもたちがボールをおいかけ回っているのを見ていた時、不意に話しかけられた。いつの間にか隣には初老と思しき男性が座っていた。
「アレいつも思うんですけど、腑に落ちないんですよ……ワタシ」
 こちらの考えなど意に介さず、男は続けて話してくる。
「なんで打たれる可能性があるのをわかっていながら投手は球を投げるんですかね?」
 そういうルールだからだろうに。
「ルールだからって言ってしまえば確かにそうなんですけどね。でも、打たれたくないなら投げなきゃいいのにって思いません?」
 この男は何故、野球の話を俺にしているのだろう。そんなことはお構いなしになおも続けてくる。
「そもそも、変ですよね。互いのチームが別のことをやるスポーツって野球くらいじゃないですか? ほら、他のスポーツ。例えばサッカーとかは互いが互いのゴールを目指してボールを奪いあったり、バレーとかだったら互いの陣地にボールを打ち込む。野球だけじゃないですか? それぞれが違うことやってるスポーツって」
 言われてみれば確かにそうかもしれないが。
「あのスポーツ。時間決まってないから、平気で延長とかするでしょ? 今でこそテレビで中継なんて滅多にないから別にいいんですけど、そのせいでみたかったテレビ番組が後ろ倒しになっちゃったりするじゃないですか」
 もっともな意見である。小さい頃に好きだったアニメ番組が潰されたことに腹を立てた記憶もあるし、みたかった番組が深夜帯に流れて見れなかったこともある。
「そもそも非効率なんですよ。1回終わるごとに攻めと守りが代わるとか」
 いつの間にか先ほどの子どもたちの姿は見当たらない。公園にはオレとオッサンと群れからはぐれたハト一羽。
「そうそう、腑に落ちないといえばフィギュアスケートとか体操とかのあの得点の基準ってなんなんですかね?」
 たわいもない話は今もなおつづく。

12/17/2023, 8:33:23 AM

風邪をひいて学校休んだ時、家のテレビで3chの15分番組を見るのが楽しかった。自分だけ特別のことをしている気がして、学校にいるみんなはこの瞬間にはテレビを見れないのに自分だけ見れてる。番組の内容が面白いとかそんなのは関係なくて、ただただ日常という空間で非日常を堪能しているただ一人の自分に酔っていた。