我妻和泉

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「野球ってありますよね?スポーツの」
 公園のベンチで日向ぼっこをしながら、子どもたちがボールをおいかけ回っているのを見ていた時、不意に話しかけられた。いつの間にか隣には初老と思しき男性が座っていた。
「アレいつも思うんですけど、腑に落ちないんですよ……ワタシ」
 こちらの考えなど意に介さず、男は続けて話してくる。
「なんで打たれる可能性があるのをわかっていながら投手は球を投げるんですかね?」
 そういうルールだからだろうに。
「ルールだからって言ってしまえば確かにそうなんですけどね。でも、打たれたくないなら投げなきゃいいのにって思いません?」
 この男は何故、野球の話を俺にしているのだろう。そんなことはお構いなしになおも続けてくる。
「そもそも、変ですよね。互いのチームが別のことをやるスポーツって野球くらいじゃないですか? ほら、他のスポーツ。例えばサッカーとかは互いが互いのゴールを目指してボールを奪いあったり、バレーとかだったら互いの陣地にボールを打ち込む。野球だけじゃないですか? それぞれが違うことやってるスポーツって」
 言われてみれば確かにそうかもしれないが。
「あのスポーツ。時間決まってないから、平気で延長とかするでしょ? 今でこそテレビで中継なんて滅多にないから別にいいんですけど、そのせいでみたかったテレビ番組が後ろ倒しになっちゃったりするじゃないですか」
 もっともな意見である。小さい頃に好きだったアニメ番組が潰されたことに腹を立てた記憶もあるし、みたかった番組が深夜帯に流れて見れなかったこともある。
「そもそも非効率なんですよ。1回終わるごとに攻めと守りが代わるとか」
 いつの間にか先ほどの子どもたちの姿は見当たらない。公園にはオレとオッサンと群れからはぐれたハト一羽。
「そうそう、腑に落ちないといえばフィギュアスケートとか体操とかのあの得点の基準ってなんなんですかね?」
 たわいもない話は今もなおつづく。

12/18/2023, 2:48:57 AM