我妻和泉

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「もうすぐです」
 そう教祖と名乗る男が言うや否や、ベルの音が村中に鳴り響く。どこからともなく鳴ったその音は心地よくもあり、同時に心の奥から不安を呼び起こす不思議なものだった。
「数十年ぶりだ……」
 隣にいた老人は誰に言うでもなく呟いた。村の一番の高所であるこの丘に住人全員が集まっていた。どの顔も見知った顔で、ただ一人除いては知らないものはいない。
 数日前にふらっと現れ村人たちにお告げを吹聴していった人物。俺たちの前で両手を天に掲げ何やら呪文めいたものをブツブツと唱えている。なんでも東国の方のおまじないというが嘘くさい。
「姿も何もかもお変わりなく、また私たちをお助けくださいましてありがとうございます」
 村長が怪しい男に頭を下げる。同時に年配の村人たちもこうべを垂れた。
「どうした、お前らも頭をさげんか!」
 俺を含めた若い衆も渋々お礼を示す。
 何のために?
 誰もが思う疑問を口にはしなかった。
 こうして起きるかどうかわからない災いはこの村に起こらなかった。

12/21/2023, 5:39:18 AM