おへやぐらし

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3/13/2024, 12:36:23 PM

私の隣で眠る彼を見つめる
彼とはじめて出会ったのは少し前のことだ

私の家にはよく人が訪れた
彼らは無断で家に侵入しては
動画を撮ったり落書きをしたり
散々荒らして騒いで満足したら帰ってゆく

ここへ来る輩はほとんどがくだらない連中だ
彼を除いて 思えば一目惚れだったのかもしれない

険しい顔をしている彼を仲間の一人が冷やかした
「おまえびびってんのw?」
「違う、ここ本当にまずい。早く帰ろう」

彼の顔も彼の目も彼の声も彼の魂も
私の心を捉えて放さなかった
彼の事をもっと知りたい
それから私は彼についていった

気づいて欲しくてわざと物を動かしたり
彼の体に跡を付けてみたりした
起きてから鏡を見た時の彼の表情が忘れられない

ある日のこと 彼はお寺へ赴いた
「なんとかなりませんか」
住職は私の方をちらりと見た後に目を伏せた
「…できるかぎりの事はしてみます」

それから儀式のようなものが始まった
正座になり目を瞑る彼とブツブツと何かを唱える住職
私はこの空間がどうにも落ち着かなかった

住職は額から汗をかきながら私に語りかけた
「彼を解放してやりなさい」

なぜ?どうして?そんなのいや
彼と離れたくない 彼のそばにいたい
もう一人になりたくない!

気が付けば住職は床に倒れていて
冷たくなった住職の傍らで彼は呆気にとられていた

それからも私はずっと彼のそばにいる
日に日にやつれていく彼の横顔を見つめた
あぁ そんな顔も素敵

多くは望まないから どうか
これからもあなたの隣にいさせて

お題「ずっと隣で」


3/12/2024, 1:04:45 PM

隣の席のMは無口だ
笑いかけても話しかけても
挨拶しても冗談を言っても遊びに誘っても
いつも無反応・無表情

そんなMのことを気味悪がるやつらもいた
ほんの出来心からそいつらをけしかけて
ちょっとした悪戯を試してみることにした

Mの持ち物を隠したり
わざとぶつかってみたり
聞こえるように陰口を囁いたり
けれどもMは気にした素振りも見せずに
いつも澄ました顔をしていた

ある日のこと放課後の準備室で
MとN先生が二人きりでいるところを目にした
仲間のいないMをずっと気にかけていたN先生
先生といる時のMは今までにないほど
穏やかな顔をしていて自分の中で何かが弾けた

それから暫くしてN先生は学校に来なくなった
色々な噂が立ったけど結局のところ
本当のことは誰もわからずじまいだった

夕暮れが差し込む準備室
後ろ手に鍵をかけながらMに話しかけた
相変わらず無表情なMは準備室に隠されていた
上履きを持ちながらこちらをじっと見つめた

「先生どうなったか知ってる?」

N先生の名前を出した途端
Mの瞳の奥がわずかに揺れた気がした

それを見た瞬間
Mの方へ手を伸ばしていた

┈┈┈┈┈┈┈
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

あの時見たMの表情が今でも忘れられない
あんな顔も出来るんだ
Mのこともっと知りたい
知らぬ間に口元が笑みで歪んでいた

お題「もっと知りたい」

3/9/2024, 12:01:02 PM

急募:魔物の討伐

"ヤツ"の倒し方がわからない
いくら考えても解決策が思い浮かばないんだ

あの時一体どうすればよかったのか
考えれば考えるほど"ヤツ"に飲み込まれそうになる
出口のない迷路を永遠に回り続けているような感覚だ

"ヤツ"から意識を逸らすことが大切だと聞いた
睡眠、食事、趣味、お酒、薬…
けどそれも根本的な解決にはならない

今はまだ眠っているが
またいつ起きて襲ってくるかわからない

早急に対応を求む

お題「過ぎ去った日々」

3/7/2024, 7:16:24 PM

私の親友は美人だった

昔は美人に生まれたら人生イージーモードだと
思っていたけど、彼女と出会ってから美人には美人
なりの苦労があることを知った

それは不特定多数の人間から向けられる感情
好奇の眼差しや嫉妬や望まぬ好意など
そういったものを常に浴びせられる

彼女はよく「かえりたい」とこぼした
外にいる時だけではなく家の中でも

「どこにかえりたいの?」と聞けば
「月にかえりたい」と彼女は言った

それはとある月夜の晩だった
彼女の家で寛いでいると
風もないのにカーテンが揺れた

次の瞬間、部屋の電気が消えて、代わりに窓から
入ってきた青白い月の光が辺りを照らした

「お迎えにあがりました」
月の光と共にやってきたのは風変わりな
衣服を纏った者たちだった

私は固まって動けずにいると、
月からやってきた使者の一人が親友の肩に
羽衣をふわりと被せた

すると彼女は凛とした姫のような顔になり
使者たちに導かれるまま部屋を後にした

唖然とした顔でその様子を見つめていると
彼女は私の方へ振り向いた

「一緒に行かない?」
私が首を横に振ると、彼女は悲しそうに目を伏せて
「そう」と小さく呟いた

「さようなら」
こうして彼女は月へ帰って行った

お題「月夜」

3/2/2024, 4:48:46 PM

「必ず迎えに行くからね」

そう言って涙を流しながら
あたしを抱きしめてくれた
彼女の顔が今でも頭から離れない

男手ひとつであたしたちを育ててくれた
お父さんが事故で亡くなった

まだ幼くて頼る大人もいなかった
世間知らずのあたしたちにできることは
かぎられていて

あたしたちは離れ離れになった

一日中働いて酷いこともたくさんあった
でも悲しいことがあった日は楽しかった頃を
思い出すと元気が湧いてくる

彼女の笑顔 彼女の眼差し
彼女の匂い 彼女の温もり

お金をためてここを出て彼女を探しに行くんだ
それがあたしの唯一の希望だから

お題「たった1つの希望」

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