おへやぐらし

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私の隣で眠る彼を見つめる
彼とはじめて出会ったのは少し前のことだ

私の家にはよく人が訪れた
彼らは無断で家に侵入しては
動画を撮ったり落書きをしたり
散々荒らして騒いで満足したら帰ってゆく

ここへ来る輩はほとんどがくだらない連中だ
彼を除いて 思えば一目惚れだったのかもしれない

険しい顔をしている彼を仲間の一人が冷やかした
「おまえびびってんのw?」
「違う、ここ本当にまずい。早く帰ろう」

彼の顔も彼の目も彼の声も彼の魂も
私の心を捉えて放さなかった
彼の事をもっと知りたい
それから私は彼についていった

気づいて欲しくてわざと物を動かしたり
彼の体に跡を付けてみたりした
起きてから鏡を見た時の彼の表情が忘れられない

ある日のこと 彼はお寺へ赴いた
「なんとかなりませんか」
住職は私の方をちらりと見た後に目を伏せた
「…できるかぎりの事はしてみます」

それから儀式のようなものが始まった
正座になり目を瞑る彼とブツブツと何かを唱える住職
私はこの空間がどうにも落ち着かなかった

住職は額から汗をかきながら私に語りかけた
「彼を解放してやりなさい」

なぜ?どうして?そんなのいや
彼と離れたくない 彼のそばにいたい
もう一人になりたくない!

気が付けば住職は床に倒れていて
冷たくなった住職の傍らで彼は呆気にとられていた

それからも私はずっと彼のそばにいる
日に日にやつれていく彼の横顔を見つめた
あぁ そんな顔も素敵

多くは望まないから どうか
これからもあなたの隣にいさせて

お題「ずっと隣で」


3/13/2024, 12:36:23 PM