おへやぐらし

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私の親友は美人だった

昔は美人に生まれたら人生イージーモードだと
思っていたけど、彼女と出会ってから美人には美人
なりの苦労があることを知った

それは不特定多数の人間から向けられる感情
好奇の眼差しや嫉妬や望まぬ好意など
そういったものを常に浴びせられる

彼女はよく「かえりたい」とこぼした
外にいる時だけではなく家の中でも

「どこにかえりたいの?」と聞けば
「月にかえりたい」と彼女は言った

それはとある月夜の晩だった
彼女の家で寛いでいると
風もないのにカーテンが揺れた

次の瞬間、部屋の電気が消えて、代わりに窓から
入ってきた青白い月の光が辺りを照らした

「お迎えにあがりました」
月の光と共にやってきたのは風変わりな
衣服を纏った者たちだった

私は固まって動けずにいると、
月からやってきた使者の一人が親友の肩に
羽衣をふわりと被せた

すると彼女は凛とした姫のような顔になり
使者たちに導かれるまま部屋を後にした

唖然とした顔でその様子を見つめていると
彼女は私の方へ振り向いた

「一緒に行かない?」
私が首を横に振ると、彼女は悲しそうに目を伏せて
「そう」と小さく呟いた

「さようなら」
こうして彼女は月へ帰って行った

お題「月夜」

3/7/2024, 7:16:24 PM