潮風に飛ばされないように麦わら帽子を押さえる君を、真っ白なカンバスに書き写す。体が弱い君はよく海に行きたいと駄々をこねて泣いていた。自分の体の弱さを呪うほどに。
今日は念願の海だ。君は子供みたいにはしゃぎまわって楽しそう。この日を忘れないようにとこの瞬間を切り取るのだ。
また来年来ようね!と笑うその顔が、いつか来る日に失われる前に。
28.『麦わら帽子』
最終電車に乗り込んで終点の君の元へ。
二人だけの秘密の時間。始発までの数時間。
駅のホームへ足を落とせば、涼し気な風が頬を撫でる。早足に改札まで行くと君が手を振って出迎えてくれた。
だけど時間は過ぎていく。止まってくれと願いながらも。
早く君を連れ出すから、それまで待っていて。約束だよ。
27.『終点』
夏休みの宿題である自由工作に頭を抱える君。どうやら上手くいかなくて不服な様子。
本当はこう作りたいの!!と駄々をこねて料理中の私に泣きつく。
それは難しいよね、だって作ろうとしてるのは仕掛けのある貯金箱。少しでも形が違ったら正しく動かない。
えんえん泣いてる子どもを抱き上げ、一緒にやろうねと移動しようとしたら、帰宅したばかりの夫が声をかけた。
「お!かっこいい貯金箱じゃないか!これ一人で作ったのか、すごいな!!」
とたんに子どもは、でも動かないもん!と反論。外側だけ褒められても困るよね。
「ママはおいしいごはん作ってくれてるからこっちおいで、パパと一緒に作ろう」
そういって子どもを抱き上げて、慰めながらリビングへ。その後キャッキャと楽しそうな二人の声が聞こえてきた。
ありがとうパパ。と思いながら家事へと戻る。
うまくいかなくても、家族と作るという工程を楽しむことができればそれだけで十分だと、大人になった今は思う。
26.『上手くいかなくたっていい』
私達は双子の兄妹。双子なのに似てないねってよく言われるけれど、それはそうだと思う。
私は勉強も運動も、才能すら何もかも兄の下だから。
兄は常に学年一位の成績で、バスケ部に入っている。趣味でギターも弾けて、歌もうまい。顔立ちも整っているからすごく女子に人気だ。
一方の私は成績は中の下、運動が苦手でいつも絵ばかり描いていた。それも評価される程でもなく、クラス内ではいつも隅っこで本を読んでるか絵を描いてるかの、漫画で言うタダのモブ。
そんな両親は幼い頃から秀でた兄を蝶よ花よと育てていた。そんな姿を見ていたから、私には何も期待していないのは分かっていたため、今もこうして自由に生きている。
誰も見向きはしない、近づいてくる人もいるけれどその大半が兄が目的だ。
私と仲良くなって兄とお近づきになろうって魂胆で。
⸺私はなんで生まれてきたんだろう。
いつしかそれが口癖になっていた。兄を横目に自分が幽霊のような扱いを受けることが嫌になり始めて、自傷行為に走ったりなんかして。
でもそんな私を兄は見ていてくれた。私が傷ついたら助けてくれたり、死ぬな生きろと喝を入れてきたり、勉強も運動も全部教えてくれる。
だからもう少しだけ生きてもいいかな、なんて安直な事考えていよう。
本当はドジで馬鹿な引き立て役の私がいなくなるのが嫌なだけでしょ。
そうだよね? お兄ちゃん。
25.『蝶よ花よ』
君は僕だけのもの。それは生まれる前から決まってることなんだよ。それなのにどうしてそんなに泣いているの?
あんなやつと一緒にいたら君が傷つき続けるだけだ。僕といるほうが絶対に幸せだよ。君を一番に愛しているからね。
だからそんなに泣かなくていい。君の幸せはここにあるって最初から決まっていたんだからさ。
24.『最初から決まってた』