ざざなみ

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5/14/2025, 12:03:03 PM

『酸素』

私はいつも周りを気にするタイプだった。
ある女の子が悪口を言っているのを見かけたり、ある男の子が誰かの容姿について悪口を言っているのを見かけると、私のことなんじゃないかと思って不安になった。
だから学校では常に周りの人の反応や顔色を窺いながら生活していた。そのせいか学校では息をしている気がしなくていつも息苦しかった。唯一、家では酸素という名の空気を吸い込むことができたから自分が生きていると実感することができた。
ある日、近所にある家族が引っ越してきた。その家族は私と同年代ぐらいの男の子を連れていた。
私はその家族から彼は病気がちで体が弱いから自然が豊かで静かなこの地に越してきたのだという。
私は、いつの日か歳が近いこともあってその子の家に遊びに行くことになった。
彼が挨拶に来た時、私が体調が悪そうだったのに気づき部屋で休むように言った時から何故か彼の母親が時々家に招いてくれるようになった。
後で体調が回復した彼から聞いた話だが、今まで住んでいた地では誰も彼を私のように気遣ってくれる人はいなかったのだという。
彼の家に行き、彼と話すようになってから私にある変化があらわれたのだ。
それは、彼と一緒にいると体内に酸素を取り込めるようになった。つまり、息が出来るようになったのだ。
彼が穏やかな人だから居心地が良いのかと思ったけれど、少し違った。
彼は何に対しても、誰に対しても悪意のある話し方をしないのだ。
彼の話し方が、彼の優しさが、私に酸素を巡らせてくれているのだ。
私は家以外で、息苦しくないこの時間が好きだ。
彼がこの地に来てくれたから、私は息をしていられる。体に酸素を取り込むことが出来る。嫌な学校生活にも耐えることが出来るのだ。
あと何十年、いや…あと何年でいいからもう少しだけ彼のそばに……。

5/13/2025, 12:01:06 PM

『記憶の海』

ある日、交通事故に遭った。家族と一緒に遠出をして帰路についた時だった。
反対車線から突っ込んできた車と正面衝突をした。
その日から僕は記憶喪失になった。
医者が言うには、頭を強くうってしまったせいらしい。一時的なものだけど、すぐに戻ることもあれば、一生戻らないこともあると聞いた。
僕は記憶を失っていたので何とも思わなかったけど、それを聞いた家族は泣き崩れていた。
僕が入院してから数日後、幼なじみだという女の子が会いに来た。
その子は僕の両親から僕の記憶を取り戻す手伝いをして欲しいと頼まれたのだそうだ。
その子は来てそうそうに、僕の反応を見て
「私の事も覚えていないと思うから、とりあえず何か会話しない?日常であった些細なことでもいいから」
と優しく微笑みながらそう言った。一瞬だったけど僕はこの子の笑顔を知っている気がした。
その日から僕は、彼女が毎日病室に来ては、些細なことや何の変哲もないことを話してしばらくすると帰って行くという日々を繰り返していた。
ある日の夜、夢を見た。幼い頃の僕と彼女が何かいい事があったのかお互いに笑い合っている夢だった。
―――あぁ、思い出した。幼い頃、僕はいつも何かと無茶をして怪我ばかりしていたからよく彼女に怒られていた。でも、結局は最後に“ しょうがないなぁ”と言いながら笑って許してくれるのだ。
翌日。
彼女に少しだけ記憶が戻ったことを伝えるといつもの笑顔で微笑みながらとても喜んでくれた。
記憶がなかった頃の僕はまるで深い海の底にいるような感じがした。
息が苦しくて、視界も何処を見ても真っ暗で心細かった。
どれだけ記憶を取り戻そうとしても靄がかかったみたいに何も思い出せずにいた。
そんな空虚な世界から彼女は僕を救いあげてくれた。
昔から変わらないその笑顔でこの真っ暗な記憶の海から。


5/12/2025, 1:22:34 PM

『ただ君だけ』

私は生まれつき目が見えなかった。
そのせいで白杖をついて歩いていると、同級生から馬鹿にされることがあった。
私はその度に静かに何度も涙を流していた。
家族には心配をかけてはいけないとどんなことがあっても言わないことにしていた。
だから、誰が見ても私が隠れて泣いているということは気づかれていないと思っていた。
でも、ただ一人、こんな私の変化にも気づいている人がいたのだ。
それは私がよく気にかけていた近所に住んでいる耳の聞こえない少年だった。
私はお母さんに仲良くしてあげてほしいと紹介されて初めて男の子であり、耳が聞こえないことを知った。
ある日、点字で書いた紙をその子がくれた。そこに書かれていたことに私は驚いた。
“ 余計なお世話だったらごめんね。辛くない?我慢してない?もし困っていることがあるなら力になるよ”
その内容を点字で読んで私は久しぶりに大声をあげて泣いた。
その子はただ静かに優しく背中をさすってくれた。
私は、その子に口を開けてゆっくりと“ あ、り、が、と、う”と言った。
その子の表情は見えなかったけど優しく手を握ってくれたから喜んでいるのだと感じた。
あぁ、誰にも言えなかったことを、私が苦しんでいることをこの子は感じてくれていた。
ただ君だけが私を救ってくれたのだ。

5/12/2025, 7:37:05 AM

『未来への船』

私には幼い頃から一緒にいた幼なじみがいる。
私たちはいつも一緒にいて、周りからは仲がいいとまで言われていた。
だから、ずっととまでは言わないけど高校を卒業するまでは一緒にいれると思っていた。
でも、ある日突然彼に病気が見つかった。しかも運の悪いことにその病気は難病と言われていてしっかりとした治療法がないと言うのだ。
つまり、病気が進行するのを待つしかないのだ。
私は、密かに彼に想いを寄せていたからとてもショックだった。
その日から私は変わり果てたように笑わなくなった。
大好きな彼と会話をしている時も、家族と話している時も、クラスメイトにさえ笑顔を見せなくなった。
ある日、そんな私を見て彼が言った。
『船を流してみない?』
私は船なんてないよと言うと、彼は瓶を船代わりにするのだと言った。
いわゆる、ボトルメールをするつもりなのだろう。
彼は手紙に将来、お互いに伝えたいことを書こうと言った。
そう言われて私は迷わず彼への想いを伝える手紙を書いて流した。
彼はなんて書いたのか教えてくれなかったけどただ一言だけとても素敵なことを書いたのだと言った。
2ヶ月後、彼は静かに息を引き取った。その日は身体中の水分がなくなるのではと思うほど泣いた。
そんな日から数日後、彼のお母さんから彼が書いていたという日記帳を渡された。
もし、自分が死んだら渡して欲しいと言われていたものらしい。
日記帳を読んでいると、紙にうっすらと消した跡のようなものがあった。私はなぜかそれが気になって持っていたペンで黒く塗ってみた。
私はそこに書かれていたことを見て静かに涙を流した。
“ ずっと君のことを好きでいさせて”
たった一言、それを見た瞬間私は彼の言っていたとても素敵なことの意味が分かった。
彼はボトルメールに私への想いを託したのだ。
未来への想いを未来への船に乗せて。

***

自分でもよく分からない文章になっていまいました。すみません。

5/10/2025, 12:19:32 PM

『静かなる森へ』

僕は以前、人間に助けられたことがある。
その日は食料を探しに人里に降りた。
でも、食料探しに夢中になっていたせいか人間の仕掛けた罠に気付かず僕は脚に怪我を負った。
そしてそのまま動けなくなっていたところにある人間が現れた。
その人間はとても綺麗な顔立ちをしていてほとんどの人間は僕に忌み嫌う様な視線を向けてくるのにその人間だけは僕に優しい瞳を向けてくれた。
そして僕が人間を怖がっていることに気づいたのか脚に必要な治療を施して去っていった。
あのような人間には初めて会った。
数日後、僕はあの人間にお礼が言いたくて木の実を口に咥えてあの人里へと向かった。
あの人間を見つけた時には、その人間の周りにたくさんの人間が集まっていた。
どの人間も笑顔で僕はその様子を見てその人間は愛されているのだと悟った。
その人間の迷惑にならないよう、僕が罠にかかった場所にお礼を置いて人里を離れた。
さぁ、帰ろう。静かなる森へ。

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