『酸素』
私はいつも周りを気にするタイプだった。
ある女の子が悪口を言っているのを見かけたり、ある男の子が誰かの容姿について悪口を言っているのを見かけると、私のことなんじゃないかと思って不安になった。
だから学校では常に周りの人の反応や顔色を窺いながら生活していた。そのせいか学校では息をしている気がしなくていつも息苦しかった。唯一、家では酸素という名の空気を吸い込むことができたから自分が生きていると実感することができた。
ある日、近所にある家族が引っ越してきた。その家族は私と同年代ぐらいの男の子を連れていた。
私はその家族から彼は病気がちで体が弱いから自然が豊かで静かなこの地に越してきたのだという。
私は、いつの日か歳が近いこともあってその子の家に遊びに行くことになった。
彼が挨拶に来た時、私が体調が悪そうだったのに気づき部屋で休むように言った時から何故か彼の母親が時々家に招いてくれるようになった。
後で体調が回復した彼から聞いた話だが、今まで住んでいた地では誰も彼を私のように気遣ってくれる人はいなかったのだという。
彼の家に行き、彼と話すようになってから私にある変化があらわれたのだ。
それは、彼と一緒にいると体内に酸素を取り込めるようになった。つまり、息が出来るようになったのだ。
彼が穏やかな人だから居心地が良いのかと思ったけれど、少し違った。
彼は何に対しても、誰に対しても悪意のある話し方をしないのだ。
彼の話し方が、彼の優しさが、私に酸素を巡らせてくれているのだ。
私は家以外で、息苦しくないこの時間が好きだ。
彼がこの地に来てくれたから、私は息をしていられる。体に酸素を取り込むことが出来る。嫌な学校生活にも耐えることが出来るのだ。
あと何十年、いや…あと何年でいいからもう少しだけ彼のそばに……。
5/14/2025, 12:03:03 PM