美味しかったよ。
君に出会ったのは神社の掃除をしている時。裏の山で僕が喀血した時、君が山から現われた。日を知らぬような白い肌にしなやかな体は妖美で、言いようのない高揚感を知った。
「君、体が悪いんだね。可哀想に。私が力になってあげるよ」
参った。声までこんなに美しいなんて。僕はその甘美な声に勝手に体が動いてしまった。
気づいたら僕は君を瓶詰めにして溺れ殺していた。もうこれではあの声が聞けないと思うと涙が出てきた。しかし僕はそれを呑んだ。
和尚が言っていたことを思い出した。
「蛇は神の化身である。」
これはこれは、死後が楽しみだな。
僕が彼奴の髪を切ってしまったのも、爪を剥がしてしまったのも、睫毛を抜いてしまったのも、内に秘める宝石を踏み砕いてしまったのも、全部僕の内の宝のままに体を動かした僕のせいだということは分かっているんだ。
だが、僕の苦悩も分かってくれないか。彼奴が視界に入る度に怒りと嫉妬で、白目をむくほど、鼻血が出るほど、不快な気分になるんだ。言い訳だとは思わないでくれ。君に理解はできないだろうが、事実だから。
彼奴の脳は僕が食べたいと思う。
僕の眼球は雲で覆われてしまった。
僕の眼球を包む雲は日に日に濃くなっていった。眼球の近くにあるものしか見ることが出来ない。
ある日僕の好きな虫の囁きがして、その虫を捕まえることが出来た。僕はどんな虫が見るために眼球に近づけたら呆気なく刺されて左目が失明してしまった。
全ての物に、人に雲がかかっているのはなんだか世界の狭さが、間抜けさがわかるような気がしてなんだか愉快だった。
右目を刺されてしまった。人間か虫か分からなかったけど、嬉しく思う。
何かを創ってみようとおもう。
まずは綺麗な花を咲かせよう。
そして優しい生き物を作ろう。
天は青い色で隠そう。
少しだけ怖い生き物もいた方が面白いだろう。
少し死んで生まれ変わったら、僕の創ったものは赤く染って汚くなっていた。どうやら僕は失敗したようだ。やり直そうかな。
僕は少しずつ体を喰われている。
僕の体を食べる7匹の化け物は、横たわる僕を少しずつ食べている。抵抗はしない。なんだか僕が罰を受けているような気がして抵抗する気力が湧かない。
「君たち、名前はなんて言うんだい?」
僕は聞いてみた。すると化け物は
「今日」
と同じ言葉を発した。彼らは皆同じ名前らしい。
そろそろ彼らの牙が僕の心臓に触れそうだ。