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12/18/2022, 4:03:45 PM

物語には僕1人で十分だ。

この本には冬が閉じ込められている。辺りに積もりまだやもうとしない潔白の雪に隠れるように咲く冬の花たち。空は濁っている。そこに立つ僕はまるで冬に取り残されたよう。実際僕は取り残された。もう春には行けぬだろう。
だがそれでいい。こんなに寒くて冷たくて孤独な場所なら何人いたって同じだ。閉じ込められるのは僕だけでいい。この物語だって僕1人で完結させてやる。そしてこの本を情景描写だけのつまらないものにしてやる。


お前もこれがつまらない話になるまで待つといい。

12/17/2022, 11:48:42 AM

僕は不思議な世界に立っている。

辺りには色とりどりの植物がある。優しい色の桜の横には炎のように過激な紅葉。高いもみの木には朝顔が伝っている。目が焼けるようなイチョウとアブラナと向日葵に垣間見える赤黒い空。蛾と蝶の交尾があまりにも滑稽である。
地を埋め尽くす薔薇を見下ろせば1頭の牛が死んでいた。

嗚呼、目眩がする。

12/16/2022, 3:23:08 PM

風邪で死ねたらいいのに

風邪を引いた。でも風邪は僕を殺す気はないようだ。じゃあなんで僕は風邪を引いたのだろう。きっとなにか悪いもの、悪魔か妖か呪いか。なにかが風に乗って僕の体に入ってきたんだろう。大きな鳥が羽ばたいた時の風だろうか。それとも小さな蝶の羽ばたきだろうか。
僕が風邪を引いても死なないのはきっと、僕がかれらの存在を信じているからだろう。だから少しだけイタズラをするんだ。なんとも愛らしいこと。僕もはやく人間なんかやめて彼らみたいになりたいんだ。

12/15/2022, 4:49:05 PM

この街の冬は遠い昔に何者かに盗まれたらしい。

僕が生まれたこの街はすこし変わっているらしい。暖かな春が来たらだんだん暑くなり、桃色は緑色に変わって空の青が深い夏が来る。最後には肌寒くなって緑色は紅色になる。そしてまた春が来る。
僕は物心ついた時からルースおじさんと二人暮しだった。綺麗好きで博識でいつも身なりが整っている紳士的で優しい人だ。
僕はいつも通りルースおじさんと僕の分の朝食を作ってテーブルに並べる。おじさんは朝から窓際で読書に耽っていた。
「ルースおじさん、朝食にしよう」
「わかったよ。ありがとう、ディア」
彼はいつもは自分の書斎で本を読んでいる。だけど、毎年この季節、秋が終わり、1年が終わりを迎えるこの季節は窓際にずっといる。
「今年も冬ってやつを待つの?」
「ああ、今年こそは帰ってくるかもしれないからね」
ルース おじさんは毎年こう言う。だが、僕は冬を見た事は未だに1度もない。だが、何度も話を聞いた事があるからどんなものかはだいたい知っている。
「ゆき、だっけ。ルースおじさんが好きなの」
「そう、雪だ。もう一度でいいから見たいんだ。」
僕には雪の美しさが分からないけれど、冬だけにある特別なものらしい。ルースおじさんは何年も冬を、雪を待っている。
「冬を盗もうだなんてなんて傲慢な者がいたものだ」
「今年は犯人が見つかるといいね」
毎年恒例の会話。だが、僕もルースおじさんとゆきを見てみたいと心底思う。

12/14/2022, 2:05:30 PM

「イルミネーション」
唐突にその言葉を思い出した。意味は、覚えていない。

僕はもうどのくらい経ったのか分からないほど長い間この空間にいる。僕1人しかいない暗い空間。ここがどこなのか、一体いつからここにいるのか、僕はなぜここにいるのか、なにも分からない。ただ一つこの空間に特徴があるとすれば、よく分からないものが時々現れるということだけだ。
今、僕の前に現れたのは大きな木とそれを縛るように巻き付く光たちだ。光は様々な色で光っていて真っ暗なこの空間では眩しすぎた。なんて迷惑なものだ。なんだかこれを見ていたら腹が立ってきた。まるで僕のようだったから。大きな木は僕で、光は僕を縛って弄ぶこの空間で、何も出来ない僕を嘲笑っているよう。憎々しい。
「イルミネーション」
そうだ、これはイルミネーションというものだ。どうしてこんなものを知っているのか不思議だが、いつもの事だ。イルミネーション。嗚呼、なんて憎いものだ。その言葉の意味は分からないが。きっと忌み嫌われ、穢らわしい存在に違いない!

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