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この街の冬は遠い昔に何者かに盗まれたらしい。

僕が生まれたこの街はすこし変わっているらしい。暖かな春が来たらだんだん暑くなり、桃色は緑色に変わって空の青が深い夏が来る。最後には肌寒くなって緑色は紅色になる。そしてまた春が来る。
僕は物心ついた時からルースおじさんと二人暮しだった。綺麗好きで博識でいつも身なりが整っている紳士的で優しい人だ。
僕はいつも通りルースおじさんと僕の分の朝食を作ってテーブルに並べる。おじさんは朝から窓際で読書に耽っていた。
「ルースおじさん、朝食にしよう」
「わかったよ。ありがとう、ディア」
彼はいつもは自分の書斎で本を読んでいる。だけど、毎年この季節、秋が終わり、1年が終わりを迎えるこの季節は窓際にずっといる。
「今年も冬ってやつを待つの?」
「ああ、今年こそは帰ってくるかもしれないからね」
ルース おじさんは毎年こう言う。だが、僕は冬を見た事は未だに1度もない。だが、何度も話を聞いた事があるからどんなものかはだいたい知っている。
「ゆき、だっけ。ルースおじさんが好きなの」
「そう、雪だ。もう一度でいいから見たいんだ。」
僕には雪の美しさが分からないけれど、冬だけにある特別なものらしい。ルースおじさんは何年も冬を、雪を待っている。
「冬を盗もうだなんてなんて傲慢な者がいたものだ」
「今年は犯人が見つかるといいね」
毎年恒例の会話。だが、僕もルースおじさんとゆきを見てみたいと心底思う。

12/15/2022, 4:49:05 PM