『コノ世カラ去リ』
花びらが揺れ落ちるのが見えた。
少し、変だ。
言葉では表せないけれど、見れば一目でわかる。
やがて花びらは着地する。
すると地面が波打つようにうごめいた。
まるで生き物のように。
なぜか地面から太陽が見えた。
その不思議な光源はゆらゆらと朧気に揺れている。
地面じゃなかった。
土だと思っていたものは、地面ではなかった。
むしろ対極と言ってもいい。
水面だった。
あれ?じゃあ今私が立っている場所は……?
下を見ると、私が見えた。
まるで水鏡のように、私がゆれていた。
『重み』
君の制服の袖をつかむ
君が振り向くと同時に、君の名前を呼ぶ
そうすれば君は、驚いて名前を呼んでくれるだろう
でも…。
私には、そんな勇気ない
君の背中を追いかけるだけで精一杯で、喉はカラッカラに乾いている
ほんのちょっと
あとほんのちょっとの勇気があれば、この想いは届いたのかな
まだ諦めたくない。
残された時間は少ないけれど、いつか上手くいく
君が私の名前を呼んでくれるまで、私は何度でも手をのばすよ。
セミの音が、ぼくの意識を現実に戻した。
首筋にはじんわりと汗をかいていて、それでいままでなにをしていたか思い出した。
恋い焦がれていた。
ずっと前から、きみを欲していた。
これを青春って言うのかなぁ。
視線の先には、きみの自転車がある。
きみの、面影がある。
ぼくは思わず手をのばしてしまった。
しかし、触れる勇気はなくて、手は宙をかいただけだった。
それを感じたぼくの意識はまた、暗い思考へと落ちていった。
それと同時に、セミの声も聞こえなくなっていった。
あいさつなんてしたことない。
LINEはいつもぼくから始める。
目が合うことは結構あるけど、知ってる顔がいたらそりゃそっちを見るだろう。
それがぼくらの"普通"のはずだった。
話したこともほとんどない。
きみの返信はあっさりとしていて。
声をかけようと思ったことは何度もあったけど…
結局、かけなかった。
…結局、今日も逃げた。
もっと見てほしいと思ったのはいつからだろう。
こんなこと、思っちゃダメだとこらえても、心はどこまでも正直らしい。
ぼくは今日も、きみからの一件のLINEを待っている。
『夜景』
夜景って、綺麗だよね。
知ってる?
夜景ってのは、残業をしている人たちがいるから見えるんだよ。
美人なひと、かっこいいひと、モテるひと。そんなのはいっぱいいる。
何故だと思う?
努力をしてるからだよ。
人よりもいろんなところで苦しんで、
人よりもたくさんのことで悩んで…。
つらいことだってたくさんあったんだ。
でもそれを乗り越えたから、いま、"憧れるひと"になれたんだよ。
街の明かりは、そんな努力はいらない。
会社とは違うんだもん。
ズルいよね、ぜんぶ家の明かりだよ。
これで共感できちゃったら、"憧れるひと"にはまだまだ遠いかもね。