無名

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8/6/2024, 4:02:57 PM

太陽は照らす。
人々を照らす。
太陽に照らされたものは皆明るい。
人々は太陽のような光を好む。
但し光に居すぎると焼かれてしまう。


太陽に照らされると影ができる。
影は暗い。
影は人々の傷を癒す。
人々は影に憩う。
しかし影に蝕まれればそのうち呑み込まれる。


光と影、並存するにはあまりにも難しい。

8/2/2024, 3:42:47 AM

「明日、もし晴れたら遊園地にでも行こう。
いろんな乗り物に乗ろう。そして君とクレープを買って半分こするんだ。

君は何を頼むのかな。やっぱり甘いもの系かな。もしかしてご飯系頼んじゃったりするのかな?」


「いや、でも最近、外は物騒だからね。家の庭で花を育てたりしてみようかな?」



そういうと君はとても怒ったような顔をして私に言う。





何を考えているの!って、馬鹿じゃないの!って、





酷いものだ。たった一人の恋人にそんな言葉をかけなくてもいいじゃないか。


全く少しは素直になってくれてもよいのだが。ツンケンしてばかりだとそのうちみんな居なくなってしまうよ。


そう思っていると君は俯きながら口を開く。




「私は、貴方さえいればいいもの。」




君の突拍子もないその言葉に、私は少し驚いてしまった。



「おや、嬉しいね。甘えてくれているのかい?」



私が問うと君は答える。



「だって、もう、貴方は、死んでしまうじゃない。素直になれる機会だって、もう、」


そういうと君は涙ぐむ。
私はその先を言わせまいと言葉を被せる。


「私は死なないよ。君の記憶の中で生き続けるからね。人の死は二度くるというだろう?」


涙ぐんだ君が少し嘲笑的に言う。


「それ、貴方が貸してくれた本にそのまま書いてあったわ。」




「ふふ、読んでくれたのかい?じゃあ、」


もう大丈夫だろう?、そう言おうとした。





「でもね、記憶の中だけじゃ寂しいの。あなたが隣にいなきゃ意味ないのよ。」




「だから、この事件の証拠を集めて貴方が無罪だってこと、証明しないといけないの。貴方と一緒に生きていたいから。冤罪なの、私は知っているから。だからね、もう少しだけ待っていて。貴方を救い出すから。」



「ふふふ、」


必死な君のその言葉に私は思わず笑ってしまった。

君の言葉は嬉しいけれど、これは上の立場の人間が関わっているから、君一人じゃ太刀打ち出来ないというのに。

それに、これに踏み込むと君が死んでしまう。


あぁ、この分厚いガラス窓さえなければ君に触れられるのに。




「な、何笑ってるの。こっちは真剣に!」


怒った君にまた私は言う。


「いやはや、私は幸せものだなあと思って。」


そういう私に君は少し怪訝そうな顔をする。










あぁ、もっと自由に君と生きていたい。



明日、もし晴れたら、君と共に。

8/1/2024, 3:01:38 AM

「だから、一人でいたい。」


君はそういって寂しげに笑う。
見たことがない顔だった。私が教室で本を読んでいる時にも話しかけてくるいつも笑顔な君とは違っていた。
いつも君は皆の輪の中にいて、楽しげな顔をしている。
少なくとも皆と話している君は幸せそうだ。
なのに何故?


そう思った矢先、君は私の心を見透かしたようなことを言う。


「目に見えるものが全てじゃないってよく言うでしょう?私もそれの1つってだけ。」



それを聞いた時、私に一つ疑問が湧いた。

「ならなぜ君は皆にそう伝えないんだ?君が言えば皆、快く承諾してくれるだろうに。」



そう言うと君は笑った。


「あっはは!確かにね!その通りだと思う。 けどね、話しかけてくれる人が居るのって嬉しいことでしょう? 皆から“自分の話を伝えたい人“、いわゆる“何かを共有したい人“の一人に当てはまっているの、名誉なことじゃない?だからなるべく一緒にいたいと思ってるんだよ。」


「それに、伝えちゃってあっちが遠慮し始めちゃったらちょ〜っと気まずいかなってさ!」




そう言って笑う君は、君は、



「優しいんだね。」



私がそう言うと君はまた、悲しげに笑う。




「どこが〜?自分の意見すら真っ当に言えない人間だよ〜?私のことを好いてくれている子に。これってある意味裏切りな気もするよね〜」

「だからね、一人でいたいの。一人でいたら寂しいけど楽に感じるから、」


少しの静寂が流れた。

そこでまたずっと思っていたことを一つ質問をする。




「…なぜ君はそれを私に質問したんだ?私は君とあまり関わることもないのに。」



君は答える。

「だからこそだよ。だからこそ貴方に、貴方だけに言ったんだ。」


俯いていて顔が見えない。今君はどんな顔をしているんだ。


君の考えていることが分からない。










「てか、私の事優しいって思える君が優しいんだよ〜?」


君は顔を上げて話す。

少し冗談混じりに言う君の笑顔はいつもと同じはずだった。


7/28/2024, 12:35:15 PM

お祭り、それは夏の風物詩である。私はちょうど近くで開催されているお祭りに恋人と来ている。


恋人は浴衣を着ていた。

「どうかな、?」


すごく綺麗だった、とても。この世の全てに勝るほどの美しさ。


「いいんじゃないか。」


それだけを伝え祭りの屋台へ進む。がやがやと賑わっているお祭りに蝉の声。このお祭りの醍醐味は間近で見える花火だという。花火なんぞに興味はないが、恋人があまりにも期待した顔でいうものだから来てしまったのだ。人混みが苦手な私を連れてきた恋人は申し訳なさそうに言う。


「ごめんね、こんなにいっぱいだとは思わなくて。」


そんなことで謝らなくてもいい、君とここに来れて私は十二分に嬉しい。


そう言おうとしたが、何だか照れくさくてやめてしまった。








わたあめ、りんご飴、ラムネ、どれもが宝石かのとように目を光らせる恋人は本当に、本当に愛らしい。



「もうすぐ花火上がるんだって。」



あぁ、もうそんなに時間が経っていたのかと感じる。楽しい時間は流れが早い。私たちは花火がよく見える場所に移動した。そこに着くとすぐにアナウンスが始まった。





『皆さんおまたせしました〜!もうすぐ花火が打ち上がりま〜す!それではカウントダウン!』



『5!』


『4!』


『3!』


『2!』


あぁ、もうすぐで打ち上がる。その時だった。恋人が私の前に立ちこう言い放った。


「私と別れてください。」











時が止まったかのようだった。いつの間にか花火は打ち上がっていた。打ち上がったと同時に走り去っていく恋人。何が起こった?なぜ?なにか至らないところがあったのか?



走り去る恋人を追いかけ手を掴んだ。


「ま、待ってくれ。至らないところがあるのなら直す。だから、頼むから、別れるなんて言わないでくれ。」


必死だった。ただ単に他に好きな人間ができたのか、私に飽きたのか、ぐるぐると思考を働かせる。


私がそう言うと恋人はこう言った。


「私、疲れたの。何も言ってくれない貴方に。前からもそうだったけれど、今日だってそう。浴衣、いいんじゃないかって、それだけなの?恋人なら可愛いとか、綺麗だ、とかもうちょっと何かあってもいいんじゃないの?私、貴方の為にすごくすごく今日も頑張って可愛くなったのに。」


言葉に詰まった。事実であったからだ。自分の恥じらいが勝ち、恋人に伝えたいこと、伝えなければならないことのひとつも言えていない。



「私、それなら貴方の恋人じゃなくてもいいんじゃないかって。だって、貴方のその言葉は恋人以外にも言えるでしょう?」




何か返す言葉を、何か、何か、






「・・・別れ際にだって可愛いの一言すら言えないのね。」





「さようなら。」

7/28/2024, 6:00:54 AM

神様が舞い降りてきて、こう言った。

「悪魔になりなさい。」

意味がわからなかった。だいたい私は神様なんてもの信じる質では無い。それに私は自分の人生の中で良いことをしてきたつもりだった。それなのに、悪魔?なぜ悪いことをするようなやつに?なりたいわけがない、ふざけるな、とそう思った。

だが神様はそんな私を見透かしたように目を細めてまた言った。

「あなたは自分の善が他人の善になっていると思っているのですか?」



はっとした。確かに私は自分がいいことをしたと思っていたことが相手の迷惑になっていたことがある。










ーーー






それは私がまだ学生で、夏の事だった。
よくあるものだが、うちは落ちこぼれ学校だった。

いじめはあるが、誰も止めない。
先生だって停めやしない。

腐りきったものだ、と当初は思っていたものだ。
私はそれを毎日止めていた。
何故か、それはいじめられる側が可哀想であったからだ。
毎日毎日何もしていないのに、理不尽に怒鳴られ無視され虐められる。可哀想だと。

私はいじめられる側の助けに、役に立っていた、つもりだった。


今思えば私が私の善を疑いはじめたのもこの頃からだったと思う。

それはいじめられる側に、言われたことがきっかけだった。

あんたが毎日毎日、毎回、毎秒、止めてくるせいで、こっちはもっとひどくいじめられるようになってんだ!あんたさえ止めなければ俺は耐えられたのに!あんたは良いことだと思ってんのか知らないが!自分の善を他人に押し付けるな!いい迷惑なんだ!!

と。


そして次の日その子は学校に来なくなった。自分のせいだ、と悔やんだものだが、人がしてやったことを仇で返すとはなんて人間なんだ、とも思った。

















神様はまた言った。

「自分の善が他人の善になると思い、自分勝手に行動する。それをただのエゴだとも知らずに。」

「善だと信じてやまず、他人にエゴを押し付ける人間に悪魔は相応しい。」


そういって笑った。

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