神様が舞い降りてきて、こう言った。
「悪魔になりなさい。」
意味がわからなかった。だいたい私は神様なんてもの信じる質では無い。それに私は自分の人生の中で良いことをしてきたつもりだった。それなのに、悪魔?なぜ悪いことをするようなやつに?なりたいわけがない、ふざけるな、とそう思った。
だが神様はそんな私を見透かしたように目を細めてまた言った。
「あなたは自分の善が他人の善になっていると思っているのですか?」
はっとした。確かに私は自分がいいことをしたと思っていたことが相手の迷惑になっていたことがある。
ーーー
それは私がまだ学生で、夏の事だった。
よくあるものだが、うちは落ちこぼれ学校だった。
いじめはあるが、誰も止めない。
先生だって停めやしない。
腐りきったものだ、と当初は思っていたものだ。
私はそれを毎日止めていた。
何故か、それはいじめられる側が可哀想であったからだ。
毎日毎日何もしていないのに、理不尽に怒鳴られ無視され虐められる。可哀想だと。
私はいじめられる側の助けに、役に立っていた、つもりだった。
今思えば私が私の善を疑いはじめたのもこの頃からだったと思う。
それはいじめられる側に、言われたことがきっかけだった。
あんたが毎日毎日、毎回、毎秒、止めてくるせいで、こっちはもっとひどくいじめられるようになってんだ!あんたさえ止めなければ俺は耐えられたのに!あんたは良いことだと思ってんのか知らないが!自分の善を他人に押し付けるな!いい迷惑なんだ!!
と。
そして次の日その子は学校に来なくなった。自分のせいだ、と悔やんだものだが、人がしてやったことを仇で返すとはなんて人間なんだ、とも思った。
神様はまた言った。
「自分の善が他人の善になると思い、自分勝手に行動する。それをただのエゴだとも知らずに。」
「善だと信じてやまず、他人にエゴを押し付ける人間に悪魔は相応しい。」
そういって笑った。
7/28/2024, 6:00:54 AM