近所の高校生が眉毛を剃って退学になったらしい。
近所の噂話で聞いた。
ああ、先月から残業の帰宅時に真っ暗の公園に少年がいたのはそういうことかと私はひとりでに納得した。
危ないので何度か声をかけようともしたが、夜中に知らないおばさんに声をかけられるのも一緒かと思い、何となく遠慮していた。
それに残業帰りはそんな余裕がやっぱりなかった。
眉毛なんてそんなしょうもない校則無くせばいいのにとも思うし、校則は守らないととも思う。
独身で子供もいないが、子供が自由に育ちうる環境を守ろうと思って日々の過重労働をこなしている身としては、こんなのは泣きたくなる話だった。
イケない子を見つけたら、私は君たちのために頑張ってるんだから、そんなことしたら駄目でしょうと叱ってしまいたくなる。
本当は、それこそ子供の自由を奪っているのだけど。
嘆きたい夜の風は冷たい。
ちょうど公園を過ぎるとき、いつもの場所に彼を見つけた。
やっぱり今日も知らんふり。
残業帰りの日はダメだ。叱ってしまいたくなるから。
真っ直ぐ進むと、いつもの如く後悔で喉が詰まる。
彼の家庭環境は知らないけど、
この世ってそんなもんだよねと世の中の悪口を一緒に言ってくれる大人がいなくていいのかな。
また残業帰りに会っても、きっと声は掛けれない。
でももしいつか、休日の眠れない夜の散歩で彼と巡り会えたら、その時は温かい缶のポタージュを持って傍に行ってみようかな。
崩壊の果てに、
ぼろぼろの船で何光年もの間
暗闇を彷徨って
僕らはついに星を見つけた。
ガラス玉みたいに輝くこの星で
僕らはまた奇跡を起こせるだろうか。
冷たい空気の中にふぅっと白い息を吐いた。
彼は、二階の窓から売り払った肥沃な畑を眺めながら、夕飯の具材を考えていた。
人参、じゃがいも、玉ねぎ、ベーコン。
ちょうど、小麦色の少年たちが畑にやってきて片手に虫取り網を持って駆け回る。
遠目でも見える赤とんぼの群を追いかけていた。
作物のない土壌はもの寂しいが、彼の孤独を慰めた。
1人になってから一年。
彼は、色葉散る寒い夜にはポトフを煮込もうと決めていた。
眠れない夜が続いている。
電球に始まり、空飛ぶ物体やテレビやスマホ。
僕らは夢みたいな道具を発明し続けてきた。
快適で誰もが幸せになる幻を追い求めて。
いつだっただろうか。
誰も望んでいなかった時代が訪れたのは。
人々は科学の力を他人を傷つけるために使い始めた。
兵器だけでは無い。
誰もが使えるスマホだって日常に不幸をもたらすようになりつつある。
今やいじめや詐欺はそこら中にある。
地球もびっくりしてるだろうな。
自分よりもはるかに小さい人間という生き物に存続の危機を脅かされるなんて。
温暖化も核兵器もたった一人の力ではどうしようもできないほど膨れ上がってしまった。
鬱社会って言うのかな。
なんだか最近の世界は妙に暗い気がする。
逃れられない責任が人々を覆っている。
一人一人間違いなくそれぞれ何か責任を感じているんだろう。
そんな中でも誰も僕らを責めたりはしない。
なんせ科学者は快適で理想の社会を先陣きって創り上げてきたのだから。
けれども気づいている。
誰も責めなくたって、僕らが僕らを責めるから。
偉大な発明は人間の醜悪に大きく加担した。
幸せを願う発明が不幸を導いてしまった。
抱えきれない重圧を背負って僕らは生きていく。
これから先、僕らはこの現状を打ち破る何かを発明しなければならない。
もしそれが最悪の結果を招くものになってしまったらどうしよう。
僕らはきっと明日も眠れない。
静寂に包まれた部屋で、
君の目が覚めるのを待っていた。
日中は騒がしい教室も6時を過ぎると嘘みたいに静かだった。
木曜日の放課後は私にとって特別なもの。
だってサッカー部は休みなんだもん。
アイツは君とは帰らない。
友達に連行されていっちゃうからね。
そいう時こそデート行くんじゃない?
やっぱりあんな男辞めときなよ。
本当はそう言いたかった。
でも言わない。
アイツの話をする時の君がすごく幸せそうだから。
私から君との時間を奪った罪は相当重いけど、毎週のこの時間に免じて許してあげる。
君はトモダチ。それでいい。
でも君の一番はやっぱり私が良かった。
小さく揺れる君の寝顔に私の心も合わせて揺れる。
私の心はちっとも静かではなかった。