遠くに住む家族と会った日の別れ際
友人達との集まりを途中でお暇しないといけないとき
私の大好きなあの子が知らない誰かと仲良くしている昼休み
大切に使っていた付箋の最後の一枚を使う瞬間
私しかいないと思っていた役割を他の誰かが担うような転機
そんなとき
胸の真ん中からころんと何かが転げ落ちて
ぽっかり空いた穴に何か小さな重たい物が残るのだ。
それが寂しさ
行き交う人々を窓から眺める。
寒くても、暑くても私はここに立って待つしかできない。
遊ぶ金欲しさに働いているはずが、遊ぶ時間がどんどん減っていくのは現代のリアルに潜むバグだ。
ふと、棚の間からこちらをみる女性と目があった。
女性はそそくさと目を逸らし棚の向こうに隠れてしまった。
ははあ、なるほど。
私はにやりと笑って店の奥にも響くような声で叫んだ。
「肉まん蒸し上がりましたあ!ご一緒にいかがですかあ!」
言い終わるより早く、さっきの女性がレジに向かってきた。
「あの、これと…肉まん一つください」
こんなに寒いと肉まん、食べたくなるよな。
冬のお買い物の際にはご一緒に肉まんいかがですか?
どんよりと曇った空。
たまに吹く木枯らしがすぐ側で枯れ葉をくるくる回す。
冬だ。
ほぅと吐く息は真っ白で、鼻は真っ赤に冷たくなっている。
寒い。
つい、と視線を空にやった。
ねずみ色の雲が静かに蠢いている。
ほぅ、とまた息を吐いた。
私はこの雲を知っている。
毎年この時期になると空を覆う分厚い雲。
もうほんの少し寒くなれば空からちらちらと埃みたいな雪が落ちてくるのだ。
そうすればなんとなくこの寒さが和らぐ気がした。
早く落ちてこい。
早く、ここに。
駅の改札を出たら、なんだかいつもより足元が明るく感じた。
釣られるようにロータリーの真ん中に目をやる。
あ、もうそんな季節。
いつの間にか現れた大きなモミの木に色とりどりの電球が巻き付いてチカチカしている。
そう言えば帰り道の商店街ではジングルベルが流れていたような気がする。
私が小さい頃、この時期になると母は私を車に乗せて少し遠くにある高級住宅街に連れて行った。
隣近所と競い合うように家を飾る派手なイルミネーションを見るためだ。
豪華なご馳走も、たくさんのプレゼントも用意できない貧乏な家で母が私にクリスマスを味わわせるために考えたせめてもの作戦だった。
今では自分でケーキもチキンも、プレゼントだって買える。
それでも私のクリスマスは、この色鮮やかな小さいライトがなくては始まらない。
私はいつも足りなかった。
胸の真ん中のみぞおちよりも少し上に小さなガラスのコップがあって、それはいつも満たされない。
多分どこかにヒビだか穴だかがあるんだろう。
母に抱きしめられても、父にプレゼントをもらっても、友達の称賛も、大人たちからの賛辞も…
ほんの一瞬コップを満たすだけですぐに中身はどこかへ行ってしまう。
欲しいのはそんなものじゃない。
私だけが一番。私だけ、私以外はいらない。
そんな愛が欲しい。
私が失敗しても、醜くなっても、お金がなくても、赦してくれる無償の愛が必要なのだ。
ヒビの入ったコップを常に満たしてくれるような愛を。
お願い。どうかお願いします。
もっともっと
溢れて溺れてしまうくらい
愛を注いで