「ふふ、俺も好きだよ、」
甘いはちみつを溶かしたみたいな声色でそう言われた。
ふわふわで幸せで非現実的な空間である。
瞬時に理解した。これは夢だ、と。
先生と短い電話をしてベッドに入り込んだはいいものの、どきどきとはやる心臓の音が間近で聞こえてまったく眠れる気がしなかった。
でも、先生が早く寝なさい、なんてこと最後に言うから。
なるべく何も考えないようにして目を閉じたらこの有様である。
目の前にはすごくリアルな先生。
夢でもかっこよくて笑った顔がわんこみたいに可愛くて、なんてなんだか狡いなぁ。
うっとりするような瞳を暫く見つめ続けた。
「ねえ、最近キャンプハマっててね?だからあなたも今度一緒に行かない?」
あなたの好きな物俺が作るからさあ、だめ?なんて捨てられる直前の子犬みたいな顔した先生が視界に映る。
いちいちあざとくて心臓がうるさい。
これは夢だってば。夢、ゆめ、
「うぅ……分かりました。」
返事をするとぱあっと顔を軽くした先生はぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。
あ、どうしよう、死んじゃいそう。幸せすぎて。
そう思ったところでぷつんと視界が白んだ。
あぁ、やっぱり夢だった。
もう寝れる気もしないし、早く起きてしまおうかと考えてベッドからでた。
いつもの準備室にて。
話題は最近ハマっている趣味についての話になった。
先生、夢の中ではキャンプにハマっていると言っていたけれど、実際はどうなんだろう。
思ってしまったら聞かずにはいられず気づいたら声に出ていた。
「先生はキャンプハマってるんですよね、?」
「う、うん…あれぇ?俺、貴方にその話したかなあ……」
「え、あ〜、そ、うなんですね、」
不思議だねえ、なんて笑った先生。
夢の中の先生に教えて貰った話だし、なんて思って言ってみたらまさかのまさかだ。
動揺で何だか日本語も覚束無い。
もしかして……、
あれって本当に夢だったんだよね?
2024.1.13『夢を見てたい』
「恋の共犯者になれるよ、俺。」
不敵に笑われて先生らしいな、と思った。
一人では持てない気持ちを、二人なら持てるから。
私が燻ったままのこの気持ちさえも先生となら。
そうやってずっとこのまま生きていきたい。
2024.1.12『ずっとこのまま』
「さむ……」
今日は起きた時から肌を刺すような寒さに襲われた。
最近だんだんと寒さが厳しくなってベッドからでるのが億劫になる。
最近習慣になってきたバランスボールに乗りながら白湯を飲んだ。
家を出た途端また寒さが身に染みる。
いったい何度寒いと言えばいいのかわからないほどだ。
ぐっと首元のマフラーを引き上げた。
数分歩くと突然ふわり、といい匂いがした。
甘い花みたいな匂い。嗅ぎなれた匂い。
「せんせー、おはようございますっ、!朝から会えるなんてラッキー……、」
「…うん、おはよう。」
突然後ろから声をかけられるのもこうして生徒と学校までの道のりを歩くのも随分慣れたものだ。
努めて普通に返したつもりだったけれど、緊張して声が上擦ったかも。
ああ、かっこ悪い、いい所だけ見せたいのに。
寒い日はモコモコにうずまった彼女がとても可愛くみえて困る。
可愛いだなんて感情、生徒にもつには間違っているのだろうけれど。
あー寒い日なんて嫌だ。思ってはいけない感情だ。
わかってるけど、…たまにぐらいなら許されるかな。
2024.1.11『寒さが身に染みて』
「せんせ、せんせぇ!みて、今日振袖の案内が届いて先生に選んで欲しいなっておもって持ってきちゃった!」
昨日の帰り、家の郵便ポストを覗いたら振袖の案内が入っていた。
私の地域では18歳ではなく20歳で成人式を行うらしいから、もちろん振袖を着れるのはあと数年かかるが。
どうせなら好きな先生に色だけでも選んでもらおうというそういう魂胆であった。
「振袖…?へぇ〜最近のってどれも可愛いのね」
そう言って私が持ってきた振袖のカタログを捲った。
そこには色とりどりの振袖を着てにこやかな笑みを称えている少女たちが写っていた。
今の”可愛い”に振袖を着た女の子の事が入っていない純粋な振袖だけの感想であれ、と願った。
「あ……これなんてどう?黒と白のボカシの地に牡丹とか桔梗とか日本ぽくて可愛んじゃない?」
先生が指さしたのは黒と白が基調の振袖だった。
帯までオシャレで、これに身を包んで門出の日を先生に祝って欲しいとおもった。
「黒は他の誰にも染まらないって意味があるし、きっと貴方によく似合うよ。…あれ、聞いてる?」
成人式、絶対黒い振袖を着よう。
……でも、先生と付き合えたりなんかしちゃったら白い振袖でもいいかもしれない。
あなたのいろに染まります、なんて先生が好きそうな言葉だなあ、なんて考えていた。
2024.1.10『20歳』
「…もしもし、どうした?」
携帯に見慣れない文字がならんで着信を知らせる。
休みを挟んで会えないのが寂しいなんて言われてつい連絡先を教えてしまった。
だらだらとたわいも無い話をしたり、こうして時々電話をしたりして俺もなんやかんやいいつつその時間を楽しんでいる。
「今日は月がとっても綺麗ですよ、先生もみえますか?」
そう言われて、慌ててベランダへと向かった。
窓を開けて空を見上げれば眩い月が輝いている。
綺麗にかけていて今日は三日月だろうか。
「うん、雲ひとつない月だねぇ」
「じゃあ私が見てる月とおなじですねっ、」
突然そんなことを言う貴方がおかしくて思わず笑った。
だって、月は1つしかないんだから、貴方が見てる月と同じにきまってるじゃないの。
「ねえ貴方、月はひとつしかないよ」
「え、ぁ……たしかにっ、」
そんな子供らしいところも可愛いなぁって思う俺は相当毒されているみたいだ。
へへ、なんてはにかんだような笑い声が聞こえて電話する度に顔を見て話したいな、なんて考えてしまってる。
「先生、起こしちゃいましたか?」
「ううん、読書してただけよ。貴方は?」
「……先生のこと考えてたら声、聞きたくなって…、思わず電話を……」
語尾がどんどん小さくなって最後は消えちゃいそうなほどか細くなった声。
きっと照れてるんだろうな、なんて想像しただけで口角が上がって頬が緩むのが自分でもわかる。
「ふふ、明日も学校だし早く寝なくちゃダメよ?」
「はぁい……おやすみなさいせんせぇ、」
「うん、おやすみ、」
ぷつん、ときれた電話にちょっぴり寂しくなった。
また空の上の三日月を眺める。
明日もあの子にあえますように、とそっと手を合わせた
2024.1.9『三日月』