「せんせ、せんせぇ!みて、今日振袖の案内が届いて先生に選んで欲しいなっておもって持ってきちゃった!」
昨日の帰り、家の郵便ポストを覗いたら振袖の案内が入っていた。
私の地域では18歳ではなく20歳で成人式を行うらしいから、もちろん振袖を着れるのはあと数年かかるが。
どうせなら好きな先生に色だけでも選んでもらおうというそういう魂胆であった。
「振袖…?へぇ〜最近のってどれも可愛いのね」
そう言って私が持ってきた振袖のカタログを捲った。
そこには色とりどりの振袖を着てにこやかな笑みを称えている少女たちが写っていた。
今の”可愛い”に振袖を着た女の子の事が入っていない純粋な振袖だけの感想であれ、と願った。
「あ……これなんてどう?黒と白のボカシの地に牡丹とか桔梗とか日本ぽくて可愛んじゃない?」
先生が指さしたのは黒と白が基調の振袖だった。
帯までオシャレで、これに身を包んで門出の日を先生に祝って欲しいとおもった。
「黒は他の誰にも染まらないって意味があるし、きっと貴方によく似合うよ。…あれ、聞いてる?」
成人式、絶対黒い振袖を着よう。
……でも、先生と付き合えたりなんかしちゃったら白い振袖でもいいかもしれない。
あなたのいろに染まります、なんて先生が好きそうな言葉だなあ、なんて考えていた。
2024.1.10『20歳』
「…もしもし、どうした?」
携帯に見慣れない文字がならんで着信を知らせる。
休みを挟んで会えないのが寂しいなんて言われてつい連絡先を教えてしまった。
だらだらとたわいも無い話をしたり、こうして時々電話をしたりして俺もなんやかんやいいつつその時間を楽しんでいる。
「今日は月がとっても綺麗ですよ、先生もみえますか?」
そう言われて、慌ててベランダへと向かった。
窓を開けて空を見上げれば眩い月が輝いている。
綺麗にかけていて今日は三日月だろうか。
「うん、雲ひとつない月だねぇ」
「じゃあ私が見てる月とおなじですねっ、」
突然そんなことを言う貴方がおかしくて思わず笑った。
だって、月は1つしかないんだから、貴方が見てる月と同じにきまってるじゃないの。
「ねえ貴方、月はひとつしかないよ」
「え、ぁ……たしかにっ、」
そんな子供らしいところも可愛いなぁって思う俺は相当毒されているみたいだ。
へへ、なんてはにかんだような笑い声が聞こえて電話する度に顔を見て話したいな、なんて考えてしまってる。
「先生、起こしちゃいましたか?」
「ううん、読書してただけよ。貴方は?」
「……先生のこと考えてたら声、聞きたくなって…、思わず電話を……」
語尾がどんどん小さくなって最後は消えちゃいそうなほどか細くなった声。
きっと照れてるんだろうな、なんて想像しただけで口角が上がって頬が緩むのが自分でもわかる。
「ふふ、明日も学校だし早く寝なくちゃダメよ?」
「はぁい……おやすみなさいせんせぇ、」
「うん、おやすみ、」
ぷつん、ときれた電話にちょっぴり寂しくなった。
また空の上の三日月を眺める。
明日もあの子にあえますように、とそっと手を合わせた
2024.1.9『三日月』
少し前を歩く先生が空を見上げる。
急に足を止めたものだから、つんのめって先生の背中に軽くぶつかってしまった。
やっぱり背が高い、いい匂いがする、かっこいい、
気を抜くとそんなことばかりかんがえてしまう。
「先生?どうかしました……?」
「ねえ、貴方もみて……雪だ、」
そう言われて慌てて顔を上げた。
確かに、雪が空を舞ってひらひらと夜空を彩っている。
頬に冷たい感覚がして頬を触ってみると、体温で溶けた雪が頬を濡らしていた。
「ふふ、貴方頭に雪が……」
そう呟いた先生の声は雪にかき消されることなく私の耳に届く。
私へ視線を向けて、頭に乗ってしまった雪を払ってくれたようだ。
指先が触れるだけで心臓が痛い。あぁ、辛い。
「ありがとう……、ございます…」
「いーえ、風邪ひいちゃったら困るしそろそろ学校に戻ろうか、」
私の頭から手を離した先生はすぐに歩き出す。
先生の一挙手一投足にドギマギしているのになんとも思われていないような態度はちょっと傷つく。
「ま、まって!!」
「ん?どうかした?」
「……まだ、…帰りたくないかも、です、っ」
言ってしまった。めんどくさいって思われるかも。
わがままな女の子とか先生嫌いそうだし。
でも、言ってしまったものは取り返せない。
「ふはっ、そっかぁ…じゃあ、もうすこしデートしよっか?」
「……でーと……で、デート!?」
「あれ、違ったぁ?ふふ、…なあんてね。貴方の反応が可愛くてつい、」
「も、もう!……いじわるです…、」
「ごめんね。お詫びに貴方の好きなケーキ、沢山買って帰ろう?」
「……わかりました。ゆるしましょう、!」
私の気持ちに気づいているならいじわるだし、気づいていないとしたら先生はとんでもなく小悪魔なんじゃないか。
先生の新しい一面を見れたことと、デート、?なんて甘い響きの言葉を口にしてくれた先生にまた好きなところが増えてしまったある冬の日。
2024.1.7『雪』
「せんせぇ、本当に良かったんですか?」
隣を歩くいつもとは違う貴方。
紺色のセーターといつもよりちょっと短いスカート。
セミロングの髪の毛はふわふわに巻かれていて、贔屓目なしにもやっぱり可愛いんじゃない?
生徒を可愛いと言ってしまうのは色々良くない気がするけど今日ばかりは許して欲しいものだ。
「良くは無いけれど、まぁ…貴方ならいいかなって。」
またまた会った初詣の帰り、お昼に誘われた。
普段の俺なら生徒からのお誘いなど絶対に断るが彼女となると話は変わってくる。
もし断ってしまったら悲しそうな顔をするのは目にめえているので、新年からそんな顔をさせてしまうのは可哀想だな、なんていう半分親みたいな気持ちで承諾した。
「先生とお昼御一緒できてうれしいですっ!」
「俺も嬉しいよ。貴方は何が食べたい?」
「オムライス、!私大好きなんです、」
「じゃあ……貴方が嫌じゃなければだけど……、俺が作ろうか?」
彼女のキラキラした瞳に見つめられて変なことを口走った自覚はある。
何言ってんだおれ、なんて思っても後の祭り。
「せんせいの手料理……!?幸せすぎてしねる……、」
「っ…大袈裟、……じゃあ家おいでよ、」
もう回避する方法はないようで、
俺だってこの子が生徒でなければ喜んで家に呼びたい。
……まぁ、家ぐらいいいか。弁えているちゃんとした子だし、なんて自分を納得させてそう返事をした。
2024.1.6『君と一緒に』
人は自分が幸せであるうちは自分が幸せと気づかない生き物なのである。
俺はそれを罪深いとも思うし、人間らしいなぁと思ったりもする。
目の前の幸せがいつまでも続くなんて思うのはなんだか呑気なものだ。
そんな日常のなかで、理屈とか屁理屈をとっぱらって貴方だけはどうか幸せでいて欲しいと願うばかり
2024.1.4『幸せとは』