「先生はサンタさん信じてますか?」
銀行に行くなどと適当な言い訳で学校を抜け出した際に買ってきた小さいケーキを美味しそうに食べながらそんなことを言った貴方。
純白の真っ白のケーキは貴方みたいで俺には少し眩しい。
だが、最初の言葉は聞き捨てならない。
もしかして俺、サンタを信じて夜な夜な夜更かししてる子供と間違われてる?
俺もう結構いい歳なんだけど。貴方絶対分かってない。
どっちかと言うとその言葉は俺の言葉だろうに。
「んー、小さい頃は信じてたよ。どんな顔してるのか一目見てみたくて朝まで起きたことがあったぐらいだしね」
結局朝まで起きたのにサンタを目撃することは叶わなかったけれど。
その後拗ねてふて寝していたら枕元にプレゼントがあったっけ。懐かしいなあ。
「ふふ、先生可愛いですね」
そういって笑う彼女の顔が妹の顔に重なって酷く懐かしい気分になる。
よくクリスマスソングを英語で歌ってみたいの!って泣きつかれたっけ。
英会話を習っていた俺は渋々妹に付き合ってよく歌ってあげたものだ。
「……There is just one thing l need…、」
「、need…?」
「ほら、All l want christmas is youってしらない?定番のクリスマスソングだよ。プレゼントは貴方がいい、って結構ロマンチックじゃない?」
「聞いたことあります!へぇ〜そういう意味なんですね。それに先生すっごい好きそう、」
ふふっと笑った彼女をジトリと見つめれば、バカにしてないですからね!?なんて焦ったように付け足してた。
別にそんなつもりじゃなかったけど貴方が楽しそうだからなんでもいいか。
「サンタさんくるかなぁ、」
「はい!きっと来ますよ。先生とってもいい子ですから」
はにかむ彼女を見ていたら、布団にくるまって聖なる夜を待ち望んで眠りにつくのが楽しみになった。
サンタさん、クリスマスに多くは望まないから。
俺が欲しいものはたった一つ……
2023.12.24『イブの夜』
「先生っ!めりーくりすますです!」
両手に大荷物を抱えた私を見た先生は驚いたように目をギョッと大きくしたあと、直ぐに重いでしょって特段と重かったバックを持ってくれた。
そういう気遣いができる大人なところがすきだ、とまた好きなところが増えてしまう。
あぁ、先生ってば罪な人。
そんな仕草で私の心を無意識にも乱して堪らなくさせる。
「……Merry Xmas。貴方にプレゼント、」
突然そういった先生は私の前に小さい箱を見せてくれた。
ベロアの生地でできた箱は指輪なんか入ってそうなやつで、先生にプロポーズされる女性は羨ましいなぁなんて頭の片隅でぼんやり考えていた。
やけに冷静になってしまうほどこの状況が信じられない。
「あ、え……私に、…?」
「うん、女の子はこういうの好きかなって。あぁ、でも気に入らなかったら全然……ぇ、泣いてる!?」
ポロポロなんて可愛い表現で足りないほど涙が溢れて止まらない。
だって、だって先生が私のために時間とお金をかけてくれたのがうれしくて。
こんな素敵なプレゼントしてくれるってことは少なくとも嫌われてはないってことでいいのかな。
先生にこんなにも大事にされて自惚れてしまいそう。
「だ、だって…嬉しくて…っ、先生ありがとう…。家宝にする……。」
「もう、やっぱり大袈裟なんだから。」
くすっと笑った先生は私の手からネックレスをとって、後ろへ回った。
先生の手の中で黒が揺れる。
「つけてあげる。きっと貴方によく似合うよ」
先生の柔らかい指先に髪の毛をすくわれる。
細い腕が首にまわって胸元に落ちた黒が陽の光をうけて眩く光る。
「ほら、やっぱり似合う。綺麗、」
「ありがとう、…ございます……。」
ニコニコとそれは嬉しそうに笑う先生が可愛くて好きが溢れてしまいそうでぎゅっと口を噤む。
いま口を開いたら余計なことまで口走ってしまいそうだったから。
「その宝石には厄除けの効果があるからきっといい方向に導いてくれるはずだよ。」
お願いね、と私の胸元の黒に小声で話す先生に言葉に言い表せないほどの愛しさが込み上げた。
ばくばくと心臓が嫌な音を立ててこの空間が落ち着かない
どうしよう、この人のことがどうしようも無いぐらい好きだ。
「じゃあ、貴方も来たことだしケーキでも買いにいく?」
「…はいっ!私ショートケーキがいいです!」
純白の生クリームは苦手だけど、醜い私の気持ちを隠す白いクリームが今無性に食べたい。
汚い想いを隠して先生の隣に並ぶ私を許して先生、
2023.12.23『プレゼント』
この季節になると母の趣味でお風呂場の浴槽が黄色に染まる。
バラ風呂とかみかん風呂とかいろいろ試した母だったけれど最終的にはゆず風呂に落ち着いたらしい。
「先生もつかってくれたりする、かな……」
先生のお家のお風呂と私の家のお風呂、同じものを湯船に浮かべているのはちょっぴりロマンチックだ。
まるで、離れている恋人どうしが同じ月をみて愛を語りあうような……。
ほら、貴方がみている月と私の視界に映る月はおなじなのね…、みたいなさ?
見た目に反して夢見がちな先生のことだからこの話をしたらちょっぴり笑って、でもいいねって言ってくれそうだ。
そう思ったら何の変哲もないゆず風呂も豪華なものに思えてきた。やっぱりいい匂い。
今日のゆず風呂はいつもより甘酸っぱい匂いがした。
『ゆずの香り』
午後の授業が何となく面倒になって不良のように授業をサボってた午後14時。
いつもは真面目に受けるしサボったりはしないけど、今日は電池が切れたようにぷつんとやる気がなくなった。
とうとう座ることも億劫になってゴロンと硬いコンクリートに寝転がる。
「…かたっ、」
もちろんふかふかなはずもなく。
ごちん、と鈍い音がした後に頭部に鋭い痛みがはしった。
今日は何だかツイてない。
もういっその事帰ってしまおうか。
あ、でも放課後に先生に会いに行くルーティンが崩れるのはちょっといやだ。
「どーしようかなぁ〜」
「なにが?」
「へぇっ!?!?」
独り言で呟いた言葉にまさか返事が来るとは。
慌ててドアの方を見れば、珍しく白衣を着た先生。
国語系の先生なのに白衣を着てるのは未だに謎。
「貴方こんなところで何してるのよ、」
全て見透かしたような笑みを零した先生は手から何かをこちらに投げた。
慌てて両手でそれを受け取る。
それは紙パックの苺ミルクだった。可愛いチョイス。
「…まぁ、サボりたい日もあるよね。今日は特別、俺もサボっちゃおうかしら」
「……先生は働かなくちゃダメですよ」
「えぇ、横暴!ほら、生徒を見守るのも教師の仕事ってことでさ!」
よく分からない理論を展開した先生は私の隣に座ってそのまま横にころがった。
上から見下ろす先生もめちゃめちゃにかっこいい。
気の抜けたような表情をする先生が好きだ。
私にトクベツに優しい先生が好き、だ。
「先生、月が綺麗ですね」
「………雨がやみませんね、」
ぽつりと零した先生の声は少し震えていた。
その日の大空は嫌になるほど眩しい快晴だった。
2023.12.21『大空』
街を歩けばどこもかしこもうかれたハッピーな雰囲気。
リンリン、と可愛いベルの音に聞きなれたクリスマスソング。
この時期になると格別幸せな雰囲気に包まれるこの商店街が好きだ。
全てが私を祝福してくれているようで嬉しい。
この上なく幸せだ。
「ふんふんふーん、」
先生との約束が嬉しくて鼻歌だけでなくスキップまでしてしまいそうだ。
だって、クリスマスの日学校の当直を任されたのが先生だったから。
それに舞い上がってつい、「先生に会いに行ってもいいですか」なんて図々しいお願いをしてしまった私に先生は優しくもちろん、と返してくれた。
それだけでも嬉しいのに先生は途中で抜けてケーキを買いに行こうねと約束してくれて、今日は私が泣いてしまいそうだった。
「…先生ちょっとは私の事……、なんてね。」
十分幸せだから自惚れるのはやめよう。
だってこの幸せが逃げてしまったら困るから。
先生へのクリスマスプレゼント何にしようかな。
手袋、お花、手紙、キーホルダー、色々考えてみたけれどどれもピンと来ない。
先生とのデート(勘違いしたもん勝ちだ)までにプレゼントを決めなければ、と緩んだ頬もそのままに浮かれた気分で街を歩いた。
2023.12.20『ベルの音』