Namimamo

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2/9/2025, 1:09:55 PM

昔持っていたティーンズ小説に「彼の背中を抱きしめたい」というタイトルのものがありました。

主人公が好きになったのはバイクに乗る男の子。
ラスト、想いが成就し彼の背中をぎゅっとしてタンデムするシーンは挿絵も美しく、海辺を走るバイクに二人の重なるシルエット、靡く髪。恋愛に疎い私でも
「ほうほう、これはさぞときめくシチュエーションであるのだろうな」
と想像をかきたてられながら読んだものです。

さて時は経ち、大学時代の彼氏はバイクに乗る人だったので、デートの際に私もバイクの後ろに乗ることと相成りました。
後部に跨り、彼の背中にぎゅっと抱きつくと、エンジン音と共にバイクが発進します。
今、あのときめきシチュエーションが現実に!さあティーンズハートの世界観よ、我が身に降り注げ!!


──結論としましては。


背中に抱きついてバイクに乗るのはちっとも快適ではなく、ときめきどころではありませんでした。
振動が余計に伝わるし、暑いし、風で目が痛いし、髪は乱れるし、楽な体勢とも言い難い。
身をしっかりと起こして後ろのバーを掴み、もう片方の手は運転者の腰かシートに軽く添えるだけ。これが正解なのです。

現実はえてして物語のようにロマンチックには出来ていないものだと知った、19歳の出来事でした。


その彼氏は数年ののちに私の背の君となりました。
通勤でバイクに乗る背の君の背中。抱きつくことはないけれど、明日もいってらっしゃいと見送るのです。


──────────────
背の君とは古語で夫のこと。
背の君の背中。
字面だけ見るとちょっぴり回文みたいで面白いですよね。

2/9/2025, 1:03:55 AM

小学生の頃、父の転勤で引っ越すことになった。

新しい土地では上手く馴染めなかった。
「どこから来たの?」
「◯◯県」
「それってどこ?」
「すごく遠く……」
「ふーん。ねえなんで持ち物がみんな違うの?変なの!」

一人歩く帰り道はいつも引っ越す前の日々を想った。あそこには楽しい思い出があって、仲良しだった幼馴染がいる。それだけが幼い私の支えだった。


時は経ち、成長し、友達もできて、引っ越し先がすっかり「地元」になった頃。
大学生の私はふと思い立ち、かつて住んでいた場所を訪れることにした。

電車に乗って1時間。記憶もおぼろげだが懐かしい土地に降り立ってやっと気付く。
「1時間で着いた?!!」

それもそのはず。引っ越し先は隣の県だったのだから。私が大学へ通うのと同じくらいの時間で行けてしまう距離である。

幼馴染に再会して「こんなに近かったんだね」と笑い合う。

それでも幼い私にとって、そこは二度と会えなくなるくらいの、間違いなく遠い遠い場所だったのだ。

2/8/2025, 1:38:21 AM

誰も知らない秘密、なんて言うと大層なことのように聞こえるけれどさ、意外としょうもないことが多いんじゃないかな。
誰もが知っている秘密の方が怖いよ。
誰もが知ってるなら秘密じゃないって?みんな知ってるのに言えないこと、世の中には結構あるんだよ。残念ながらね。

って、マックで隣の席の女子高生が言ってた

2/6/2025, 12:07:12 PM

静かな夜明けを私は知らない。

だって、夜明けは意外と騒がしい。

一番に聞こえてくるのは新聞配達のバイク音。
空がうっすら白み始める頃に耳を擽る小鳥の鳴き声。
更に、明るくなるにつれてなんとなくザワザワし始める街の空気。

これが、という明確な音ではない。

それは、遥か遠くの道をゆく車の走行音。
それは、向こうの山で眠っていた動物が顔を上げる音。
それは、夜露に濡れた植物が水滴を落とす音。
それは、家の中の私が寝返りをうった音。
そしてすべての生き物が呼吸をする音。

朝の光を受けて動き出す、ありとあらゆる物の発する微かな音が世界を満たし、空気に乗って伝わり、今日を告げるのだ。

静かな夜明けを、私はまだ知らない。

だけど。

She is Kana, you are Ken

を流暢に発音すると、静かな夜明け に聞こえると思ったんだ。







2/5/2025, 12:25:26 PM

heart to heart

心から心へ、か。
今宵はまた一段とロマンチックなお題だな。私はスマホへボチボチと入力を開始した。

『目から目へ、手から手へ、そして心から心へ。貴方への想いを最短距離で伝えるには、どのルートを辿れば良いのだろう──』

とかなんとかかんとか。

意味があるようで特にないポエミーな言葉を連ね、悦に入ったところでふと手を止める。

お題は英語である。
私の現在の英語レベルは高く見積もっても高校受験程度。念の為に調べた方が良い。絶対に。


結果。

heart to heart
「お互いに腹を割った話し合い、率直な」



──瞬間、私の脳内に旅館の浴衣姿の大泉洋が現れた。そしてそこへ
「腹を割って話そう!」
パーン!と腹を叩きながら同じく浴衣姿の藤村Dが突入して来る。

ああもう駄目だ。わかる人にはわかるだろう。水曜どうでしょうの始まりだ。
貴方への想いがどうたらどころではない。
水曜どうでしょうの名ゼリフに勝てるポエムなどこの世には存在しないのだから。


heart to heart 〜腹を割って話そう〜

まあ、英語の慣用句を一つ覚えたので良しとしよう。

脳内にどうでしょうを繰り広げたまま、私はアプリを閉じた。

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