昔持っていたティーンズ小説に「彼の背中を抱きしめたい」というタイトルのものがありました。
主人公が好きになったのはバイクに乗る男の子。
ラスト、想いが成就し彼の背中をぎゅっとしてタンデムするシーンは挿絵も美しく、海辺を走るバイクに二人の重なるシルエット、靡く髪。恋愛に疎い私でも
「ほうほう、これはさぞときめくシチュエーションであるのだろうな」
と想像をかきたてられながら読んだものです。
さて時は経ち、大学時代の彼氏はバイクに乗る人だったので、デートの際に私もバイクの後ろに乗ることと相成りました。
後部に跨り、彼の背中にぎゅっと抱きつくと、エンジン音と共にバイクが発進します。
今、あのときめきシチュエーションが現実に!さあティーンズハートの世界観よ、我が身に降り注げ!!
──結論としましては。
背中に抱きついてバイクに乗るのはちっとも快適ではなく、ときめきどころではありませんでした。
振動が余計に伝わるし、暑いし、風で目が痛いし、髪は乱れるし、楽な体勢とも言い難い。
身をしっかりと起こして後ろのバーを掴み、もう片方の手は運転者の腰かシートに軽く添えるだけ。これが正解なのです。
現実はえてして物語のようにロマンチックには出来ていないものだと知った、19歳の出来事でした。
その彼氏は数年ののちに私の背の君となりました。
通勤でバイクに乗る背の君の背中。抱きつくことはないけれど、明日もいってらっしゃいと見送るのです。
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背の君とは古語で夫のこと。
背の君の背中。
字面だけ見るとちょっぴり回文みたいで面白いですよね。
2/9/2025, 1:09:55 PM