空恋……?
昔、恋空という携帯小説がありましてね。
主人公は金髪の同級生と恋に落ち、金髪の元カノに嫌がらせを受け、妊娠し、流産し、別れ、再会し、金髪がガンになっており、結婚し、死に別れ、みたいなドラマチックな不幸全部詰めみたいな話でしてね。
それの真逆をやれば空恋になりますかね。
つまり主人公は真っ当な黒髪の同級生と恋に落ち、順調に交際を重ね、結婚し、家庭を築いて幸せになります。
いいじゃん、空恋。
「波音に耳を澄ませて」
ずっと夜の海に憧れていた。
波音が奏でる美しいBGMのもとに、一人海辺に佇む私を想像する。
波打ち際を軽やかに歩きながら、沖合の船の数をかぞえる。
遠くの島の微かな灯りを見つけて、いつか行ってみようと思ったりして。
いつまでも夜空に浮かぶ月を眺めるのだ。
それはどんなにかロマンチックなことだろう?
──そして今、私は夜の海を前に立ち尽くしている。
波音に耳を澄ませて慄いた。
ザザ……ンという一定の心地よい波音の向こう側には、ドウドウ、ゴウゴウと深く重い音が常に轟いている。
とてつもなく質量のあるものが動く気配を前に、自分という存在の小ささを思い知らされる。
今あの大きな力が気まぐれに揺らいだら、私の命など簡単に飲み込まれてしまうだろう。
波打ち際の波の動きはまるで私を引きずり込もうとするかの如くで、私は必死に逃げた。
沖合の船を見つけた。沈んでしまわないか心配になる。
遠くの島に微かな灯りを見つけた。あそこまで行くにはこの海を越えなくてはならない。
怖い。
夜の海は怖い。
そして、美しい。
ロマンチックとは程遠い感情を持て余しながらも、ここから離れられない。
海には魔物が住んでいる、とは何かの小説の言葉だったろうか?
その通りだと思った。
そんな風に、いつまでも夜空に浮かぶ月を眺めていた。
今日は地球が滅亡する日らしかった。
青い風が吹き
赤い炎に包まれ
黒い海が荒ぶり
白い大地がひび割れる
そんな日になると思っていた。
今、
青い空を眺め
赤い夕日に照らされ
黒いアスファルトを踏みしめ
白い雲を数える
そんな日常がここにある。
滅亡するらしかった私がここにいる。
ありがたいことじゃないか。
遠くへ行きたい
地球の裏側くらいずっとずっと遠くへ
見たこともない美しく壮大な景色をこな目に映したいんだ
嘘だ
遠くへなんて行きたくない
そんな長距離の移動には耐えられない
むしろ壮大な景色がこっちに来ればいい今すぐに
その時
地面が揺れて景色が割れた
見たこともない景色が僕を飲み込んでいく
叶えられた高慢な望みはひたすらに恐ろしかった
ああ僕は今から遠くに行くのかと思った
昔は家にも、学校にも、会社にも、とにかくどこにでもクリスタルのでかくて重い灰皿があって、おじさんたちが我が物顔で煙草をスパスパ吸っていたものでした。
それを女性や子どもが片付けさせられていたのです。
さて、クリスタルの灰皿は重さといい形状といい凶器として最適で、2時間サスペンスなどでもバールのようなものに続いて人気の凶器でした。
そっちの使い方をしなかった沢山の人々は、偉い。