Namimamo

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小学生の頃、父の転勤で引っ越すことになった。

新しい土地では上手く馴染めなかった。
「どこから来たの?」
「◯◯県」
「それってどこ?」
「すごく遠く……」
「ふーん。ねえなんで持ち物がみんな違うの?変なの!」

一人歩く帰り道はいつも引っ越す前の日々を想った。あそこには楽しい思い出があって、仲良しだった幼馴染がいる。それだけが幼い私の支えだった。


時は経ち、成長し、友達もできて、引っ越し先がすっかり「地元」になった頃。
大学生の私はふと思い立ち、かつて住んでいた場所を訪れることにした。

電車に乗って1時間。記憶もおぼろげだが懐かしい土地に降り立ってやっと気付く。
「1時間で着いた?!!」

それもそのはず。引っ越し先は隣の県だったのだから。私が大学へ通うのと同じくらいの時間で行けてしまう距離である。

幼馴染に再会して「こんなに近かったんだね」と笑い合う。

それでも幼い私にとって、そこは二度と会えなくなるくらいの、間違いなく遠い遠い場所だったのだ。

2/9/2025, 1:03:55 AM