私の想いはいつでも一方通行
あなたが必要で、触れたくて
穏やかに受け入れてほしくて
そっと、そーっと慎重に指先を近付けた
あなたとの距離が少しずつ縮まってゆく
あと5センチ
今日こそはと信じている
あと3センチ
緊張感が高まってゆく
あと1センチ
ああ、ついに……!
──パチン!と音が鳴り、青く小さな稲妻が走った
指先にはただ鋭い痛みだけが残されている
ああ、今日も駄目だった
私の想いはやっぱり一方通行
あなたはいつでも静電気で私を弾くの
ねえ、職場のロッカー
いつになったらあなたに穏やかに触れるの
まだ見ぬ景色を見た瞬間に
それは見たことのある景色になってしまうから
見ないままでいたいの
そんな風に生きていたいの
基本的に夢見が悪い。
歯が抜けたり、小さい生き物を死なせてしまったり、過去に私に嫌がらせをしてきた人間と仲良くなろうと努力する夢だったり。
目覚めた瞬間「うわ!夢で良かった!」と思うのは少し得をしたような気がしないでもないが、やはり寝ている時くらいは穏やかな夢で脳と体を休めたいものだ。
だからこそ、ごく稀に見る良い夢はよく覚えている。
まだ十代の頃だっただろうか。ものすごく面白い漫画を読んでいて、爆笑する夢を見た。寝ている私は実際に笑っていて、なんと自分の笑い声で起きた。
そして「えっ、夢?!」と思った瞬間にその面白い漫画の内容は遥か彼方へと吹き飛び、面白かったという記憶だけを残して消えた。
嫌な夢は起きた後でもしっかり覚えているというのに、なんたる理不尽!
あの漫画の続きをもう読めたら、と今でも願うことがある。十代の私が面白かった作品を今の私が読んでも面白くないかもしれないけれど、それでも良いと思うくらい夢見悪い界隈ではセンセーショナルな体験だったのだ。
なんと言ってもそれを生み出したのは私の頭なのだから、可能性はあるのではないか?
ああ私の脳よ、今夜こそあの夢のつづきを見せて
布団、あたたかいね
もう出たくないね
食器洗いしたくないね
未来への鍵、なんて随分大袈裟な響きがあるけれど、
私たちは何度もそれを手にしてきたのだと思う。
例えばこの世に生を受けた瞬間。
例えば生涯の伴侶と出会った日。
例えば何気なく選んで開いた本の1ページ。
例えば見知らぬ土地で偶然曲がった曲がり角。
如何にもそれらしく光り輝いているわけではなく
恭しく手渡される訳ではなく
鍵の形をしているとも限らないそれは、
未来に来て初めて鍵だったと気付くのだ。