安らかな瞳
ある程度の仕事が終わったのだろう。背伸びをしてからこちらに向き直り報告をした。もう用は無いので立ち上がると彼女に引き留められ
「そろそろティータイムにしない?」
と言われた。3時間も人の事を放置しておいてこうも笑顔で話せる彼女は凄いと思う。自分は簡単に報告する癖にあれに関してはしょうがないのはわかっているがどうにももやもやする。そもそもティータイムなんて何時しない癖に習慣かの様に言っているのはどういう風の吹き回しなのだろうか。無言の抗議をして居ると彼女は笑った。
「何が可笑しい事でも?」
不満を隠そうともせずに言い放つと彼女は笑うのをやめて
「いや?別に何でもないけど。笑っちゃってごめんね。それで、どう?時間は大丈夫?」
「えぇ、時間は大丈夫ですが。」
嘘をついてもすぐにバレるのは明白なので素直に言う。すると良かったと笑顔で言って彼女は立ち上がる。続けて立ち上がると
「いいよ、座ってて。それじゃ持って来るね。丁度新しい茶葉が手に入ったからお菓子を用意して誰かと飲んで見たかったんだよね。」
と制止された。それにしても、なるほど。そういう事だったのか。彼女は割と気分屋なので納得がいった。納得がいった所で意識を現実に戻すと彼女の姿が見えた。ウキウキしながら準備をしている彼女をみてため息を吐く。これからティータイムが始まるんだと分かってはいたが覚悟が決めきれてなかったのか腹痛がした。彼女の笑顔はどこか裏がある。このティータイムでも何かしらの探りを入れられるかも知れない。警戒はしておいて損はしないだろう。
「お待たせ。用意できたよ。」
暫くすると彼女が戻ってきた。今この時も笑顔を浮かべているがこれにどれだけの本心が込められているのかは分からない。けど彼女も本心は解らずとも笑顔を浮かべているのだ。私もとりあえず笑顔を浮かべておく。さて、探り合いはどれくらい持つだろうか。彼女の安らかな瞳にもう既に見入ってしまいそうになりそう持たないであろう事はもちろん探り合いにも負ける事を直感で感じ取った。
ずっと隣で
『追いつく事の出来ない努力と才能の差』
中学の頃まで私は水泳に自信があった。高校生になって直ぐにそんな事は思えなくなった。彼女は輝いていた。どんなに足掻こうが必ず彼女には負けた。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。惨敗だった。絶望感、こんな事今まで無かったのに。練習だっていつも頑張ってたし力を抜いてなんか無かったのに。全てが徒労だったと気づいたのは入部してから暫く経った頃だった。私は疲れてしまって練習の時手を抜く様になった。顧問の先生にはどうしたんだと最初は心配していたが最近ではもう怒られるばかりだ。褒められた時にも心配された時でも思わなかったが怒らた時顧問の先生が初めて私の方を向いた気がした。中学生の時の私の言葉がふと頭によぎった。
「ゆっくりじっくりこつこつ堅実にやれば報われるから!」
違う。そんな簡単な話じゃない。それでも報われない圧倒的な才能の差があるのだから。努力なんかで埋められない。期待の超新星だって羨まれてるらしい。でも彼女はそんな言葉で表せない。所謂モンスターという奴だろう。
そんな彼女は性格も良い。こんな捻くれた私と仲良くしてくれて居る。彼女が笑ったり話しかけて来る度に辛くなってくる。彼女は余りにも眩しくて太陽の様で妬ましくて嫌いだって、でも友人と言ってくれた事に嬉しさもある。狭間で揺れて訳がわからなくなっていく一つ確かな事があるとするならば私自身の方が嫌いであるという事だ。それにしても良い子みたい、実際良い子だが彼女の言葉が信用ならない。何というか、
「大体それって何の意味があっ
「どうしたの?」
「えっ!ああ何でも無いよ!大丈夫!」
「そう?それでさ、良ければ今日新作が出たって言ってたし買いに行かない?勉強続きで疲れたでしょ。無理ならそれで全然良いけど気分転換にどうかなって!」
純粋な笑顔で笑う彼女。何処までも私は彼女に負け続ける。そもそも水泳は個人競技だからその人の努力や才能で決まる。それに疲れて勝手に彼女から離れたら彼女は悲しがる。これからも私は一番近くでずっと隣で彼女という太陽に焼かれ続けていくんだろう。
「参りました。」
今度こそ彼女に聞こえない様にそっと話す。
チャイムの音でかき消された声は誰にも届かず消えた。少し前で彼女が帰ってきた途端に集まるクラスメイトの姿が見えた。
『憧れのあの人』
私には憧れの人がいる。泳ぐ姿や堂々としていて凛とした表情はかっこよくって笑っている所は可愛い。同い年とは思えなかった。水泳に興味を持ったのは彼女がいたから。あの人みたいになりたいって思って彼女みたいになれる様にって頑張った。高校は彼女と同じ所にたまたま入れた。部活もクラスも一緒だったから仲良くなる事が出来て嬉しかった。そんな彼女が最近様子が可笑しい。何か考え事をする様になって、少し態度がよそよそしい気がする。これだけなら何も思わないがあんなに真剣に取り組んでいた水泳の練習に手を抜く様になった。何があったのか、それは分からないけどいつか教えて貰える様にずっと隣で支えてあげられたらいいな。
もっと知りたい
「足りない、もっと、もっと。この世の中には分からない事が多すぎるのだ、気になる。まだ見ぬ叡智に出会いたい。全てを知り尽くしたいんだ。」
彼の研究室を覗き込むと何時もの様に彼はモンスター片手に作業をしていた。ノックをして入ってきてかれこれ数分。よっぽど疲れていたのだろう。この様子だと徹夜していたのだろう。健康に悪いから辞めて欲しいものだ。
「お食事持って来ましたよ。」
この様子だと永遠に作業しかねないので、声をかけてみた。すると興味なさげな様子、いや実際興味がないのだろう彼が面倒臭そうに言う。
「ん?ああ君か。ありがと、それじゃもう行っていいよ。」
「はい、それでは失礼しました」
私は彼についてあまり知らないし彼も私の事を知らないだろう。私は彼の事なんて読書や研究が好きな男性である位しか分からないけどそのひたむきに頑張っている姿が好きなのだ。しかし彼の興味が私に向く事なんて有り得ない。
「はぁ、またあんな態度とっちゃったなぁ。ほんと辛い。」
眠たいと良くテンションが低くなって、あんな態度しか取れない。通常でもあまり話せてはいないのだが。まあそもそもあまり寝ないから通常の状態の方が珍しいのだが。彼女はきっと気づいていない。俺の好意が彼女に向いている事に。勘違い、させちゃったよな。元々俺の事とか好きじゃないだろうし別にいいか。彼女の事について知っている事は殆どない。
「「はあ、もっと彼(彼女)について知りたいな」」
道はきっとまだまだ長い。
平穏な日常
「やめて!来ないでよ、、」
今日もこれだ。今でも勝手に涙が出てくる。不安を消す様に酒を探して見つけるや一気で飲み干す。それを繰り返して酔いが回って来た頃ようやく落ち着いた私は失笑する。こんな事してないと不安で半狂乱になる私が情けなくって。
「ごめんね、情け無い親友で。」
もう謝る相手はこの世に居ないのに。彼女の居なくなった世界何て嫌だ。辛い。でも死ねない。彼女は怒り悲しむから。この日常はきっといつまでも続くんだ。事故に巻き込まれて死にたい。でもきっと無理なんだって分かってる。今日もこの先も平穏な日常は続いて、その度に私は半狂乱で生きていくのだろう。この地獄の様な世界で。
お金より大事な物
私は才能が無い。
中学生の頃は勘違いをしていただけだった。
売れない私はお金もあまり無いけど。
それでも、私にとってはお金よりも夢を追って見た くって。
だって私にとってはお金よりも大事な物だから。