'25年4月21日 ささやき
近所の商店街へ買い物に行き、たまに立ち寄る化粧品店の前を通りかかると店員さんに呼び止められたの。
「新商品のサンプルが入ったから試してみませんか?」
休日で特に急ぐこともなかったから、それじゃあとお店の中へ。
新商品の美容液や新色のリップを見せてもらった後「ネイルも新しくなったんですよ」
普段から爪は短く切り揃えるのが好きでネイルはもう何年もつけてなかったの。
この色なら指に馴染んで綺麗ですよ、と持ってきてくれたネイルを試しに小指にだけ塗ってもらったんだけど、ホントに指の色と同じでその上艶があっていい感じ。
この色ならはみ出ても目立たないから塗るのも難しくないですよ、と言いながら店員さんはいつの間にか両手の指に塗ってくれたの。
何年ぶりかにつやつやした自分の指先を見た時に(たまには家事を休んで自分の手を綺麗にしてあげるのもいいんじゃない?)と美の女神様のささやきが聞こえたような気がしたんだよね。
そうか、そうだね、休日くらいならいいか。
塗ってもらった同じ色のネイルを購入して帰った後も、何度も自分の指を見ては満足気にニヤニヤしている休日の私でした。
'25年4月20日 星明かり
上級生が全員帰るまで1年生は帰れないのが暗黙の了解。
最後の2年生が校門を出たのを確かめるとやっと練習が終わるの。
1年生だけの部室は緊張が解れて、それぞれ今日の練習曲の難しかったところや先輩達への愚痴なんかをしゃべりながら自分の楽器の手入れを始めるんだよね。
そして部室を掃除して鍵を職員室へ返す頃には、日が暮れて真っ暗になることもしょっちゅうあったな。
星明かりに照らされながら仲間と駅まで歩く。
コンクールの予選までは毎日朝練もあったから、明日も早いなぁと言いながら今日も無事に終わった安堵で星より明るいみんなの笑顔。
当時は大変だったけれど大人になった今でも昔話で盛り上がるのは1年生の頃のこと。
若かったから、仲間が居たから、乗り越えられたと思うんだよね。
すごく仲が良いとか親友とかじゃなくて「戦友」という言葉が当てはまる。
あの頃にしか巡り合えない貴重な経験でした。
'25年4月19日 影絵
学生の頃は真面目なキャラで通していた。
元来そういう気質もあったし人見知りで積極的に友達を作るのも苦手だったし。
大勢でワイワイ騒いだり体育祭や文化祭で盛り上がるのも出来なかったけれど「あの子は真面目だから」で通ったので都合が良かった。
みんなの嫌がる裏方も表が苦手な私には好都合。
陽気な友達の影絵のようだった。
社会に出ると学生の頃のように集団に合わせないといけないことが減ったように感じた。
良い意味でお互いに干渉し過ぎないし、自分の仕事をちゃんとしていれば問題なかった。
仕事を進めるには社内でのコミュニケーションも必要だったから、少しずつ日陰から太陽の下ににじり出てきた。
周りを気にせず自分のペースで仕事も人付き合いも出来るようになると、あんなに苦手意識を持たなくても良かったんだなと、今は思う。
'25年4月18日 物語の始まり
預かっていた鍵を鍵穴へ差して右へ回す。
カチャリと音がすると同時に、古びた木製のドアはドアノブを回さなくてもひとりでに開いた。
「こんにちは、お邪魔します」
誰も居ないのはわかっていたけれど声を掛けながら玄関を上がる。
電気の消えたリビングへ入ると奥の和室に明かりが灯っていた。
消し忘れかな。
そう思い和室へ入ると目の前の箪笥の上には懐かしい写真。
出会った頃よりも前の、少しふっくらした柔らかい笑顔が私を見つめる。
そうだ。
食器棚から一番綺麗なコーヒーカップを取り出し、持っていたペットボトルの緑茶を注いで写真の前に置く。
お久しぶりですね。
手を合わせ心の中で話しかける。
あれからもう5年も経つんですね。
懐かしい日々と優しい笑顔を思い出す。
* * * * * * * * * * * * *
人生で一番の恩人との物語の始まり。
続きはまた次の機会に。
'25年4月17日 静かな情熱
今まで私は、本は「読むもの」だと思ってたの。
それが拙いながらも自分で文章を書くようになって、みんなはどんな風に書いた文を発表してるんだろうか、調べるようになったのね。
そうして初めて「ZINE」というものを知ったんだよね。
いつか本物を手に取ってみたいと思っていたら、少し離れた街の小さなお店でZINEを展示販売するイベントがあることを見つけたの。
たまたま時間が空いた平日に行ってみたら、お客さんは誰もいなくて私一人。
こんにちは、と控えめに声を掛けながらドアを開けると、色とりどりの小さな本のミニチュア達。
お店の方が出てきてショップカードをくれた後、すぐに奥へ戻って行ったから、貸し切り状態。
平日に来て良かったぁ。
お店の方も私がゆっくり見れるようにしてくれたんだろうな。
私は本当に全てを一冊ずつ手に取りパラパラ捲ったりじっと見入ったり。
自分の体験談を書いたもの、歴史的建造物を精密に模写したもの、海外の国を写真とイラストで紹介したもの、等々。
どれも拘りの詰まったものばかり。
作者の静かな情熱が伝わってくるようだった。
お店に来る前から直感で選ぼうと思ってたんだけど、まさに表紙が気に入り、中を見てすぐに欲しいと思ったものが一冊あったの。
一応他のものも全部見たけどやっぱりそれが気に入ったから購入したよ。
中は漫画のような絵本のような不思議で個性的な絵とお話で、一気に読んでしまうのが勿体なくてじっくり味わって読むことにしよう。
その日見たZINE達は同じものが二つと無くて、気軽で自由で拘りがあってその人にしか書けないもの。
私ももしかしたら作れるかも知れない、という夢を抱かせてくれるものだったの。
本は「読むもの」から「書くもの」へ。
私も静かな情熱の持ち主になれるかも知れない。