BL&微グロ 意外と読めはするよ!
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小さな幸せ
「翔、何食べたい?」
「……なんでもいい」
「じゃあ適当に作るね」
狭いワンルームのアパート。翔はソファに寝転び、スマホをいじる。隣のキッチンでは、佑斗がカチャカチャと鍋をかき混ぜていた。
この生活も、もうどれくらい続いているだろう。翔はバイトを辞め、ほぼヒモのような生活。佑斗が細々と稼ぎ、翔を養っていた。
「ほら、できたよ」
出されたのはいつものカレー。翔はスプーンを手に取った。
「……味薄くね?」
「え?」
「てか、最近お前の飯まずいんだよな」
佑斗の手がピクリと動く。だが、何も言わずにカレーをすくった。
「そうかな」
「そうだよ。てかさ、お前って俺がいないと生きていけないんじゃね?」
翔はニヤリと笑う。佑斗は困ったように笑い返す。
「そうかもね」
翔は面白くなかった。佑斗はなんでも許してくれる。どんなに酷いことを言っても、笑って受け入れる。翔はそれが気に入らなかった。
「俺、もうお前に飽きたわ」
唐突に、そう言った。佑斗はスプーンを止める。
「……なんで?」
「別に。つまんねぇし」
佑斗は黙り込んだ。少しして、静かに口を開く。
「……誰か好きな人でもできた?」
「まあね」
適当に答える。そんな人いない。ただ、佑斗を試したかった。
佑斗はしばらく翔を見つめ、それからふっと笑った。
「……そっか」
そして、すっと立ち上がり、キッチンへ向かう。翔はスマホを見ながら、適当に飯をかき込んだ。
次の瞬間、視界の端で銀色の光が揺れる。
「え?」
冷たい感触が腹に突き刺さった。
翔は息を呑む。見下ろすと、佑斗が包丁を握っていた。翔の腹に、深く突き立てられている。
「……は?」
痛みが遅れてやってくる。内臓が焼けるように熱い。
「……飽きたって、嘘でしょ?」
佑斗は優しく微笑む。
「だって、翔がいなくなったら、俺どうしたらいいの?」
翔は声にならない悲鳴をあげた。だが、佑斗は容赦なく包丁を引き抜く。そして、もう一度、突き刺した。
「翔がいないと、俺はダメなんだよ」
ザクッ。
「だから、翔も俺がいないとダメになって?」
ザクッ。
「俺のこと、好きでしょ?」
ザクッ、ザクッ。
翔の口から血が溢れる。視界がぼやける。
「ねぇ、翔。言って?」
佑斗が微笑む。翔は震える指で、佑斗の頬に触れた。血まみれの唇を開く。
「……あ、い……し……」
佑斗は満足げに微笑み、そっと翔の髪を撫でた。
「うん。僕も、翔が大好きだよ」
翔の目から光が消えた。
佑斗は静かに、翔の冷たくなった体を抱きしめる。
――これで、ずっと一緒だね。
部屋には、カレーの匂いが微かに残っていた。
- END -
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『春爛漫、散りゆく約束』
春が、あまりにも綺麗だったから。
僕は、あの日のことを思い出さずにはいられなかった。
桜が舞う道の向こう、いつものベンチに座っているのは あまね。
白いワンピースに、風がそっと触れるたび、まるで花びらみたいに儚い。
「かいと、おそい。」
ふわりと微笑む彼女の声は、今でも耳に焼き付いている。
僕はその日、遅刻したことを何度も謝りながら、ポケットの中の小さな箱を握りしめていた。
指輪なんて、あまねには似合わないかもしれない。
それでも、春が終わる前に伝えたかった。
「来年も、その次も、ずっと一緒に桜を見よう」
あまねは小さく首を振った。
「かいと、私、もう来年は見れないよ。」
僕は笑って、「また冗談言って」と言いかけたけど
あまねの瞳が、春の陽射しよりずっと静かで、冷たくて
胸の奥がすっと冷えていくのがわかった。
病院のベッドの上で、「最後に見たいものは?」と聞かれて
あまねは迷わず「桜」と答えた。
春爛漫。
花が咲き誇るほど、彼女の命は音を立てて散っていった。
告白の言葉は、間に合わなかった。
あまねが最後に見た桜の色は、僕の涙で滲んでいた。
今、あの日と同じ桜並木の下で
僕は一人、空に向かって小さく呟く。
「来年も、その次も、桜が咲くたび、僕は君を思い出す。」
あまねの好きだった、春爛漫の空は
今日も、何事もなかったように優しい。
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『七色の約束』
昔々、とある村に七色の虹を作る不思議な石があった。その石を持つ者は願いを一つ叶えられるとされていた。しかし、その願いは色ごとに異なり、一人が選べるのはたった一つの色だけだった。
ある日、旅人の少年・ルイが村を訪れた。彼は遠い国にいる妹を助けるために強くなりたいと願っていた。村の長老はルイに七色の石を見せ、こう告げた。
「七つの色、それぞれ違う力を持つ。お前はどの色を選ぶ?」
ルイは石を見つめ、七つの色の意味を聞いた。
赤……勇気と力を与える。
橙……知恵と創造の力を授ける。
黄……幸運をもたらす。
緑……大地の恵みと癒しの力を持つ。
青……冷静さと判断力を授ける。
藍……隠された真実を見抜く。
紫……魔法の力を得られる。
ルイは迷った。どの色を選べば、妹を救うことができるのか。
「私は……」
彼は一つの色を選んだ。すると、石は輝き、ルイの体にその力が宿った。
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ルイは選んだ色の力を胸に、妹のもとへと急いだ。彼の妹・エマは大きな病にかかっており、治療法が見つからなければ命が危ういと言われていた。
旅の途中、ルイは自分の中に宿った力を試すことがあった。困っている人々を助け、獣に襲われそうになった村を守り、時には絶望していた旅人に希望を与えた。そのたびに彼の瞳は七色に光り、不思議な力が発動した。
そしてついに、ルイは妹のもとへ辿り着いた。エマの体は衰弱しきっていたが、ルイはそっと手をかざした。すると、彼の手から七色の光があふれ、エマの体を包み込んだ。
「……お兄ちゃん?」
気づけば、エマの頬に赤みが戻り、彼女はゆっくりと起き上がった。病は完全に消え去り、彼女は元気を取り戻していたのだった。
「……よかった」
ルイは安堵の息をつき、エマを強く抱きしめた。
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それから数年後、ルイは再び村へと戻ってきた。
村の人々は驚いた。彼の姿はあの頃の少年のままだったが、瞳には七色の光が宿っていた。そして何より、彼の周りには不思議な優しさと強さが満ちていた。
「ルイ、お前はどの色を選んだんだ?」
村の長老がそう尋ねると、ルイは優しく微笑んでこう言った。
「どれか一つではなく、すべてを選んだんだ」
彼は赤の勇気、橙の知恵、黄の幸運、緑の癒し、青の冷静さ、藍の真実を見抜く力、そして紫の魔法——すべてを自らの力として受け入れたのだった。
村の人々は驚き、そして称えた。
こうして、ルイの名は「七色の英雄」として、村に語り継がれることとなった。
記憶の小瓶
海辺の町に、古びた小さな骨董店があった。店主は初老の男で、名前を知る者は少なかったが、人々は彼を「記憶屋」と呼んでいた。
この店には不思議な商品があった。色とりどりのガラスの小瓶に入った「記憶」だ。誰かの忘れた記憶、あるいは手放したいと願った記憶が詰められているという。
ある日、一人の若い女性が店を訪れた。
「失くした記憶を探しています」
彼女の声はどこか切なげだった。
「どんな記憶かね?」
「……わかりません。でも、何か大切なものを忘れてしまった気がするんです」
記憶屋は黙って棚を眺め、一本の青い小瓶を取り出した。
「この記憶が、君のものかもしれない」
女性は慎重に小瓶の蓋を開けた。すると、ふわりと潮の香りが広がり、彼女の瞳に遠い夏の日の光景が映し出された。
――海辺で手を繋ぐ、幼い自分と少年。
――笑顔で約束を交わす。
――「ずっと一緒にいるよ」
けれど、その少年の顔はぼやけていた。
「……この人は……?」
記憶屋は静かに答えた。
「君が忘れることを選んだ相手だよ」
女性の目に涙が滲んだ。なぜ忘れたのか、その理由は思い出せない。でも、胸の奥にぽっかりと空いた穴が、今、満たされていくのを感じた。
「思い出したい」
彼女がそう言うと、記憶屋は微笑んだ。
「ならば、この小瓶を持って行きなさい。記憶というものは、時間とともにゆっくりと輪郭を取り戻すものだから」
女性は青い小瓶を大切に抱え、店を後にした。彼女の胸には確かに何かが戻ってきていた。まだ輪郭は曖昧でも、そこには温かな感情があった。
記憶屋はそっと店の奥に戻り、棚の隅にあるもう一つの小瓶を手に取った。それは、彼女の記憶からこぼれ落ちた、もう一人の少年の想いが詰まった小瓶だった。
「やがて、君も思い出すだろう」
そう呟きながら、彼は小瓶を静かに棚に戻した。
もう二度と
「なあ、もう一回やろうぜ!」
僕がそう言うと、アイツは苦笑いして首を振った。
「バカ、何回やっても俺の勝ちだろ?」
いつもの公園、いつもの1on1。僕は一度も勝てなかったけど、それでも諦めずに挑み続けた。
「よし、ラスト1本な」
そう言って、アイツは笑いながらボールを奪い、軽やかにシュートを決めた。
「はい、俺の勝ち」
「くそ……また明日な!」
「おう、また明日」
アイツは笑って手を振り、自転車に乗って帰っていった。
——それが、最後だった。
その夜、アイツは事故に遭った。トラックとの衝突。即死だったらしい。
次の日も、僕は公園に行った。バスケットボールを抱えたまま、ただじっと立ち尽くしていた。
「なあ、もう一回やろうぜ……」
誰もいないコートに向かって呟く。でも、返事はない。
シュートを打つ。ボールはリングに弾かれて、コロコロと転がる。
「……また負けたよ」
風が吹く。桜の花びらがひらひらと舞った。まるで、アイツが笑っているみたいだった。