浅葱 碧 (仮名

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3/28/2025, 10:05:29 AM

BL&微グロ 意外と読めはするよ!
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小さな幸せ

「翔、何食べたい?」
「……なんでもいい」
「じゃあ適当に作るね」

狭いワンルームのアパート。翔はソファに寝転び、スマホをいじる。隣のキッチンでは、佑斗がカチャカチャと鍋をかき混ぜていた。

この生活も、もうどれくらい続いているだろう。翔はバイトを辞め、ほぼヒモのような生活。佑斗が細々と稼ぎ、翔を養っていた。

「ほら、できたよ」

出されたのはいつものカレー。翔はスプーンを手に取った。

「……味薄くね?」
「え?」
「てか、最近お前の飯まずいんだよな」

佑斗の手がピクリと動く。だが、何も言わずにカレーをすくった。

「そうかな」
「そうだよ。てかさ、お前って俺がいないと生きていけないんじゃね?」

翔はニヤリと笑う。佑斗は困ったように笑い返す。

「そうかもね」

翔は面白くなかった。佑斗はなんでも許してくれる。どんなに酷いことを言っても、笑って受け入れる。翔はそれが気に入らなかった。

「俺、もうお前に飽きたわ」

唐突に、そう言った。佑斗はスプーンを止める。

「……なんで?」
「別に。つまんねぇし」

佑斗は黙り込んだ。少しして、静かに口を開く。

「……誰か好きな人でもできた?」
「まあね」

適当に答える。そんな人いない。ただ、佑斗を試したかった。

佑斗はしばらく翔を見つめ、それからふっと笑った。

「……そっか」

そして、すっと立ち上がり、キッチンへ向かう。翔はスマホを見ながら、適当に飯をかき込んだ。

次の瞬間、視界の端で銀色の光が揺れる。

「え?」

冷たい感触が腹に突き刺さった。

翔は息を呑む。見下ろすと、佑斗が包丁を握っていた。翔の腹に、深く突き立てられている。

「……は?」

痛みが遅れてやってくる。内臓が焼けるように熱い。

「……飽きたって、嘘でしょ?」

佑斗は優しく微笑む。

「だって、翔がいなくなったら、俺どうしたらいいの?」

翔は声にならない悲鳴をあげた。だが、佑斗は容赦なく包丁を引き抜く。そして、もう一度、突き刺した。

「翔がいないと、俺はダメなんだよ」

ザクッ。

「だから、翔も俺がいないとダメになって?」

ザクッ。

「俺のこと、好きでしょ?」

ザクッ、ザクッ。

翔の口から血が溢れる。視界がぼやける。

「ねぇ、翔。言って?」

佑斗が微笑む。翔は震える指で、佑斗の頬に触れた。血まみれの唇を開く。

「……あ、い……し……」

佑斗は満足げに微笑み、そっと翔の髪を撫でた。

「うん。僕も、翔が大好きだよ」

翔の目から光が消えた。

佑斗は静かに、翔の冷たくなった体を抱きしめる。

――これで、ずっと一緒だね。

部屋には、カレーの匂いが微かに残っていた。

- END -

3/27/2025, 10:03:46 AM



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『春爛漫、散りゆく約束』

春が、あまりにも綺麗だったから。
僕は、あの日のことを思い出さずにはいられなかった。

桜が舞う道の向こう、いつものベンチに座っているのは あまね。
白いワンピースに、風がそっと触れるたび、まるで花びらみたいに儚い。

「かいと、おそい。」

ふわりと微笑む彼女の声は、今でも耳に焼き付いている。

僕はその日、遅刻したことを何度も謝りながら、ポケットの中の小さな箱を握りしめていた。
指輪なんて、あまねには似合わないかもしれない。
それでも、春が終わる前に伝えたかった。

「来年も、その次も、ずっと一緒に桜を見よう」

あまねは小さく首を振った。

「かいと、私、もう来年は見れないよ。」

僕は笑って、「また冗談言って」と言いかけたけど
あまねの瞳が、春の陽射しよりずっと静かで、冷たくて
胸の奥がすっと冷えていくのがわかった。

病院のベッドの上で、「最後に見たいものは?」と聞かれて
あまねは迷わず「桜」と答えた。

春爛漫。
花が咲き誇るほど、彼女の命は音を立てて散っていった。

告白の言葉は、間に合わなかった。
あまねが最後に見た桜の色は、僕の涙で滲んでいた。

今、あの日と同じ桜並木の下で
僕は一人、空に向かって小さく呟く。

「来年も、その次も、桜が咲くたび、僕は君を思い出す。」

あまねの好きだった、春爛漫の空は
今日も、何事もなかったように優しい。


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3/26/2025, 12:09:54 PM

『七色の約束』

昔々、とある村に七色の虹を作る不思議な石があった。その石を持つ者は願いを一つ叶えられるとされていた。しかし、その願いは色ごとに異なり、一人が選べるのはたった一つの色だけだった。

ある日、旅人の少年・ルイが村を訪れた。彼は遠い国にいる妹を助けるために強くなりたいと願っていた。村の長老はルイに七色の石を見せ、こう告げた。

「七つの色、それぞれ違う力を持つ。お前はどの色を選ぶ?」

ルイは石を見つめ、七つの色の意味を聞いた。

赤……勇気と力を与える。

橙……知恵と創造の力を授ける。

黄……幸運をもたらす。

緑……大地の恵みと癒しの力を持つ。

青……冷静さと判断力を授ける。

藍……隠された真実を見抜く。

紫……魔法の力を得られる。


ルイは迷った。どの色を選べば、妹を救うことができるのか。

「私は……」

彼は一つの色を選んだ。すると、石は輝き、ルイの体にその力が宿った。


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ルイは選んだ色の力を胸に、妹のもとへと急いだ。彼の妹・エマは大きな病にかかっており、治療法が見つからなければ命が危ういと言われていた。

旅の途中、ルイは自分の中に宿った力を試すことがあった。困っている人々を助け、獣に襲われそうになった村を守り、時には絶望していた旅人に希望を与えた。そのたびに彼の瞳は七色に光り、不思議な力が発動した。

そしてついに、ルイは妹のもとへ辿り着いた。エマの体は衰弱しきっていたが、ルイはそっと手をかざした。すると、彼の手から七色の光があふれ、エマの体を包み込んだ。

「……お兄ちゃん?」

気づけば、エマの頬に赤みが戻り、彼女はゆっくりと起き上がった。病は完全に消え去り、彼女は元気を取り戻していたのだった。

「……よかった」

ルイは安堵の息をつき、エマを強く抱きしめた。


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それから数年後、ルイは再び村へと戻ってきた。

村の人々は驚いた。彼の姿はあの頃の少年のままだったが、瞳には七色の光が宿っていた。そして何より、彼の周りには不思議な優しさと強さが満ちていた。

「ルイ、お前はどの色を選んだんだ?」

村の長老がそう尋ねると、ルイは優しく微笑んでこう言った。

「どれか一つではなく、すべてを選んだんだ」

彼は赤の勇気、橙の知恵、黄の幸運、緑の癒し、青の冷静さ、藍の真実を見抜く力、そして紫の魔法——すべてを自らの力として受け入れたのだった。

村の人々は驚き、そして称えた。

こうして、ルイの名は「七色の英雄」として、村に語り継がれることとなった。

3/25/2025, 10:16:04 AM

記憶の小瓶

海辺の町に、古びた小さな骨董店があった。店主は初老の男で、名前を知る者は少なかったが、人々は彼を「記憶屋」と呼んでいた。

この店には不思議な商品があった。色とりどりのガラスの小瓶に入った「記憶」だ。誰かの忘れた記憶、あるいは手放したいと願った記憶が詰められているという。

ある日、一人の若い女性が店を訪れた。

「失くした記憶を探しています」

彼女の声はどこか切なげだった。

「どんな記憶かね?」

「……わかりません。でも、何か大切なものを忘れてしまった気がするんです」

記憶屋は黙って棚を眺め、一本の青い小瓶を取り出した。

「この記憶が、君のものかもしれない」

女性は慎重に小瓶の蓋を開けた。すると、ふわりと潮の香りが広がり、彼女の瞳に遠い夏の日の光景が映し出された。

――海辺で手を繋ぐ、幼い自分と少年。
――笑顔で約束を交わす。
――「ずっと一緒にいるよ」

けれど、その少年の顔はぼやけていた。

「……この人は……?」

記憶屋は静かに答えた。

「君が忘れることを選んだ相手だよ」

女性の目に涙が滲んだ。なぜ忘れたのか、その理由は思い出せない。でも、胸の奥にぽっかりと空いた穴が、今、満たされていくのを感じた。

「思い出したい」

彼女がそう言うと、記憶屋は微笑んだ。

「ならば、この小瓶を持って行きなさい。記憶というものは、時間とともにゆっくりと輪郭を取り戻すものだから」

女性は青い小瓶を大切に抱え、店を後にした。彼女の胸には確かに何かが戻ってきていた。まだ輪郭は曖昧でも、そこには温かな感情があった。

記憶屋はそっと店の奥に戻り、棚の隅にあるもう一つの小瓶を手に取った。それは、彼女の記憶からこぼれ落ちた、もう一人の少年の想いが詰まった小瓶だった。

「やがて、君も思い出すだろう」

そう呟きながら、彼は小瓶を静かに棚に戻した。

3/24/2025, 10:37:23 AM

もう二度と







「なあ、もう一回やろうぜ!」

僕がそう言うと、アイツは苦笑いして首を振った。

「バカ、何回やっても俺の勝ちだろ?」

いつもの公園、いつもの1on1。僕は一度も勝てなかったけど、それでも諦めずに挑み続けた。

「よし、ラスト1本な」

そう言って、アイツは笑いながらボールを奪い、軽やかにシュートを決めた。

「はい、俺の勝ち」

「くそ……また明日な!」

「おう、また明日」

アイツは笑って手を振り、自転車に乗って帰っていった。

——それが、最後だった。

その夜、アイツは事故に遭った。トラックとの衝突。即死だったらしい。

次の日も、僕は公園に行った。バスケットボールを抱えたまま、ただじっと立ち尽くしていた。

「なあ、もう一回やろうぜ……」

誰もいないコートに向かって呟く。でも、返事はない。

シュートを打つ。ボールはリングに弾かれて、コロコロと転がる。

「……また負けたよ」

風が吹く。桜の花びらがひらひらと舞った。まるで、アイツが笑っているみたいだった。

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