チリン、チリン。
小さな鈴の音を立てながら僕のそばまでやってくる。
チリリン、チリリン。
急いでいるのかな。いつもより鈴の音が早く鳴ってるよ。
チリーン、チリーン。
おや、何かあったの?鈴の音が寂しそうだよ。
チリン、リリン。
今日はずいぶん楽しそう。スキップのような鈴の音。
いつも僕が先に着く待ち合わせの場所。
君のかばんに着いた小さな鈴の音を今日も楽しみにしている。
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お題:ベルの音
寂しさを感じる時。
それは、仲の良い友人が思い出話に花を咲かせている時。
話についていけないのだ。
写真には確かに若かりし頃の私が写っている。
「一緒に行ったじゃない」と言われれば、確かに行ったような気もする。
こんな話してさ…とか言われるとよくわからない。
その時どんな気持ちだったか…全くわからない。
楽しかったのか、嬉しかったのか、はたまた悲しかったのか。
「昔の事はよく覚えているんだけどね…」という症状ではない。昨日の晩ごはんも明確に覚えているし、仕事を忘れる事もほとんどない。たまにはあるが人並み程度だと思っている。
記憶の容量が少ないのか、記憶の保存期間が短いのか。
なかなかこれという理由が見出せない。
なぜだろう。写真に写る私は本当に私なんだろうか。
どこかで中身が入れ替わってしまったのか。
いつか何かのタイミングで全てを思い出すかもしれない。
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お題:寂しさ
こうさぎのフワリのもとに
こぐまのマリから手紙が届きました。
冬はお外にでかけられません。
ぜひうちに遊びに来てください。
雪がたくさん積もっています。季節はすっかり冬になりました。
フワリは小さな雪だるまを作ります。それを持ってマリの家へ遊びに行きました。
「マリ、遊びに来たよ」
「フワリ、いらっしゃい。まぁ、かわいい雪だるま」
フワリは窓から見える場所に雪だるまを飾りました。
しばらくすると、こりすのスキップがやってきました。
「マリ、遊びにきたよ」
スキップは、クルミのクッキーを焼いてきてくれました。
またしばらくすると、シジュウカラのピピとリリがやってきます。
2人は冬の間に練習した素敵な歌を披露してくれました。
マリははちみつ入りの紅茶を淹れてくれました。
そして、みんなでスキップの焼いたクッキーを食べます。
寒い日だけど、マリのお家はあっかたで、みんなの気持ちもあったかで、とてもとても幸せでした。
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お題:冬は一緒に
『年末ジャンボ 一等10億円』
駅前の宝くじ売り場の前に掲げられた幟に大きな文字で書いてある。
「10億当たったらどうする?」と隣を歩いているマサトが話しかけてきた。
「どうしよう。とりあえず仕事辞めて世界一周とかかな。あと、広い家に引っ越したいかな」と私。
「もうちょっとちゃんと考えろよ」と言うマサトに
「え〜、マサトはどうするの?」と返す。
「10億って、毎月100万使うと1000ヶ月でなくなるんだよ。1000ヶ月は約83年。100歳まで生きるとあと73年。
月100万使うとすると、1日3万円。俺はこれで生きていこうと思う。」とマサトは自信満々で語る。
「1日3万円かぁ、意外と少ないね」と私。
「そうか?まぁ、そうかもな」マサトは少し淋しそうに答える。
「で、年末ジャンボ買ったの?」私はマサトにたずねる。
「年末ジャンボの一等の当選確率、知ってるか?2000万分の1だぜ??買うわけないじゃん」とマサト。
これまでの数分はいったいなんだったんだよ。でも、誰でも一度はやった事あるんじゃない?こんな会話。
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お題:とりとめもない話
「すみません、風邪をひいたみたいなので今日はお休みさせてください。」
貴子は電話の向こうの相手に頭を下げながら、申し訳なさそうに言った。
「はーい、部長に伝えておきますね。お大事になさってください。」
電話の向こうでは、早苗ののんびりした声がする。
聡い早苗のことである。貴子が仮病をつかっている事に気づいているのだろう。それをあえて気づかないふりをしている。そんな早苗の優しさが伝わった。
今日は打ち合わせもないし、急ぎの書類は昨日仕上げて部長に提出してきた。「昨日の自分を褒めてあげたい」と貴子は思った。
数年前に猛威を奮った感染症は『休みを取りやすくする』という恩恵をもたらした。『風邪如きで休むな』という昭和の体質を持っていた貴子の会社ですら、休む事へのハードルは驚くほど低くなった。
いつもよりゆっくりコーヒーを淹れ、丁寧に化粧をする。
家を出る頃にはすっかり陽は高くなっていた。駅までの道もいつもよりやさしい空気につつまれている。
いつもと反対の電車に乗る。ベビーカーを押したママさんや私服の若者、仕事中の人もいるだろうがみんな席に座って思い思いの時間を過ごす。貴子もカバンから読みかけの本を出す。
終点の駅で降り、向かった先は馴染みの温泉旅館だ。日帰り入浴を楽しみにやってきた。
ゆっくりと湯に浸かりながら頭の中を空っぽにする。最近忙しくて余裕がなかった。今日休まなければ心理的に限界を迎えそうだ。それは貴子が長年の会社員生活で身につけた感であった。若干の罪悪感を覚えながら、貴子は誰にともなく呟いた。
「心の風邪を治しにきました」
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お題:風邪