こうさぎのフワリとこぎつねのフウタは大の仲良し。
今日も風の丘で遊びます。
「何して遊ぶ?」とフワリ。
「かくれんぼしよう!」とフウタ。
フワリはちょっと不満そう。
それでもフウタとかくれんぼ。
まずは、フウタが隠れます。
フウタの黄金色の毛並は秋の森に溶け込んだ。
フワリは10まで数えてから駆け出した。
フワリはフウタを探す。秋の色に変わった草原を。
フワリはフウタを探す。大木にあるウロの中。
フワリはフウタを探す。風が集めた落ち葉の山を。
やっとフウタを見つけて、フワリはちょっとほっとする。
次はフワリが隠れます。
フワリの真白な毛並は秋の森では目立ちます。
フウタは10まで数えて駆け出した。
「フワリみーつけた」
すぐに見つかったフワリはちょっと不満そう。
「雪が積もったら、またかくれんぼしようね」
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お題:雪を待つ
遥か昔、灯りは愛でした。
長い時間をかけて火を起こし、愛する人に温かい食事を用意しました。
愛する人を寒さから守るため、永い夜も灯りの側で見守りました。
旅人は灯りを頼りに愛する人の元へ向かいました。
大切に扱われた灯りは暖かくやさしく私たちを包み込みました。
今では灯りを見る事がほとんどなくなりました。
スイッチひとつで電気がつき、お店で食べ物が提供されます。一年を通して快適な室内で生活します。寝ても起きても変わりません。
誰の手のひらの中で完璧なナビを持ち、迷う事なく目的地へ辿り着けます。
私たちは灯りを探さなくてはならなくなりました。
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お題:イルミネーション
「パーマかけたんだね。すごく似合ってるよ」
という茉莉奈の問いかけに
「ありがとう」
と笑顔を見せる彩を見て茉莉奈はほっとした。
昼過ぎに茉莉奈が訪れた時、彩は目の下に隈をつくり部屋着姿で佇んでいた。部屋はカーテンも締め切ったまま雑然としていた。唯一ベビーベッドの周りだけはきれいに保たれていた。
茉莉奈が口を開くと「今寝たばかりなの」と怒ったように一言放った。
それで茉莉奈は自分の口に人差し指をあてたまま、彩に言った。「わかった。私が見ているから彩は着替えて出かける準備して」何を着ればいいかわからないという彩とクローゼットに行き、白いセーターと茶色のサテンのスカートを選ぶ。去年会った時に彩が着ていてとてもかわいらしいと思った組合せだ。
支度を整えた彩に「これ秋紀から。自由が丘の喫茶店に行ってほしいって」と言って茉莉奈は白い封筒を渡す。秋紀は彩の夫で今、単身赴任をしている。茉莉奈と彩と秋紀は皆同じ大学のサークルだった。
今日はどうしても彩に頼みがあるというので、茉莉奈に子どもを預けて出かける事になった。
彩は産まれたばかりの拓馬と離れるのが怖かった。自分がいない間にないか起こるんじゃないかと。ただ、「彩にしかたのめない」と言われ、「茉莉奈に子どもの面倒は頼んだから」と言われてしまうと何も言い返せなかった。
自由が丘の喫茶店で席に座り、封筒を開ける。そこには秋紀の几帳面な字が並んでいる。
ひとりで拓馬の面倒を見させて申し訳ないだとか、いつもありがとうだとか、よくある文章なのに泣けてきた。そして、美容院の予約時間が書いてある。封筒にはお金も入っていて、今日は自分の為に時間とお金を使って欲しい、そう書いてあった。
彩は茉莉奈がお湯を注ぐティーポットを見ながら呟いた。
「なんでうまくできないんだろう」
窓から差し込む柔らかい西陽がティーポットに反射している。ティーポットの中では赤い茶葉がゆらゆらと心地よさそうに揺れている。茶葉につられるように身体を揺らすと腕の中の拓馬も心地良さそうにしている。
茉莉奈はティーポットのお茶をカップに注ぎながら言った。
「彩がこのティーポットで拓馬がカップ。ティーポットが空っぽなのに一生懸命カップを満たそうとしていたんだね。本当はティーポットにお湯を入れないといけないのにね。
でもね、拓馬を見て。彩が帰ってきて本当に安心してるし、彩に抱かれてとても幸せそう。拓馬のカップは愛で満たされてると思うよ。だから、うまく言ってるよ」
部屋中にローズヒップのやさしい香りが漂う。
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お題:愛を注いで
小学生の頃はいつも自分の事ばかり考えていた。自分が何が好きなのか、何が心地良いのか。誰と一緒にいると楽しいのか。
だから、他の人が自分を変わっていると思っていることも知らなかったし、自分の一言で誰かが傷ついていた事も知らなかった。言ってくれたら良かったのに。そしたら,直せたかもしれないのに。だけど、周りのみんなも幼かったからきちんと言葉にせず、離れていった。気がついた時には私の周りに友だちはいなかった。
中学生になる時に、これからはみんなに合わせようと決めた。周りの事を気にし出すと、人の視線が気になった。人が自分の事をどう見ているのか、それが怖かった。
自分がどのグループに属するのか、どこにいれば変に思われないか。目立ち過ぎず、かといって全く知られない存在ではない。
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お題:心と心
「僕を守るために怪我をさせてしまってごめんなさい」少年が頭を下げる。
「大丈夫、お前さんが無事でよかった」と老人は優しく話す。
「息子を守ってくださってありがとうございます」少年の母親も少年の隣で頭を下げる。
「いやいや、当然のことをしたまでよ」と老人は穏やかに話す。
幸い長老の怪我は命に関わるものではなかった。しばらく身体を休める必要はあるが、普段の生活に戻れるだろう。だが,老人は命を失ってもかまわないと思っていた。それは本心からである。
日々の生活に不満があるわけではない。生きていけるものなら生きていきたい。しかし、若者が犠牲になる事に比べれば自分の命など惜しくもなかった。
年長者は若者のために犠牲になることは致し方のない事だと考えていた。そして、若者は守られているからこそ自由に、勇敢に冒険ができる。冒険は新しい世界を切り拓くためにかかせない。新しい世界に行かなければ、いつの日か種は絶えてしまうだろう。
老人自身も若い頃には年長者に助けられてきた。借りた恩を返すのではなく、次に送る。恩返しではなく、恩送り。そんな考えがこの社会にはある。
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お題:ありがとう、ごめんね