わたあめ

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「僕を守るために怪我をさせてしまってごめんなさい」少年が頭を下げる。
「大丈夫、お前さんが無事でよかった」と老人は優しく話す。
「息子を守ってくださってありがとうございます」少年の母親も少年の隣で頭を下げる。
「いやいや、当然のことをしたまでよ」と老人は穏やかに話す。

 幸い長老の怪我は命に関わるものではなかった。しばらく身体を休める必要はあるが、普段の生活に戻れるだろう。だが,老人は命を失ってもかまわないと思っていた。それは本心からである。
 日々の生活に不満があるわけではない。生きていけるものなら生きていきたい。しかし、若者が犠牲になる事に比べれば自分の命など惜しくもなかった。

 年長者は若者のために犠牲になることは致し方のない事だと考えていた。そして、若者は守られているからこそ自由に、勇敢に冒険ができる。冒険は新しい世界を切り拓くためにかかせない。新しい世界に行かなければ、いつの日か種は絶えてしまうだろう。
 老人自身も若い頃には年長者に助けられてきた。借りた恩を返すのではなく、次に送る。恩返しではなく、恩送り。そんな考えがこの社会にはある。

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お題:ありがとう、ごめんね

12/9/2024, 9:43:52 AM