玲人(れいと)はソファに座って、今日買ったものの箱を開けていた。そこに丁度通りかかった葉瀬(ようせ)は背後から覗き込んで話しかける。
「何それ?」
「駅前にあるお菓子の店で買った」
箱の中には6つの、それぞれの形をしたチョコレートが入っていた。
「美味しそう。いいな~」
「1個あげる。どれがいい?」
「いいの?...じゃあこの六角形のやつ」
「ん、口開けて」
葉瀬は言われた通り口を開ける。玲人がチョコレートを摘み、その開いた口に放り込んだ。
「ぁ......ん、まっ」
葉瀬は口を押さえて目をキラキラとさせる。
「え、これどこで買ったの?」
「内緒」
「えー、じゃあ私の分も買ってきてよ。お金渡すからさ」
「気が向いたらね」
「えー!お願い!」
葉瀬は手を合わせて、ね?と首を傾げる。玲人は笑って、やれやれとその頬をむにむにと摘まむ。
「可愛い彼女のお願いなら仕方ないなぁ」
「ふふん、やったね。ありがと」
玲人は頬を摘まむのを止め、わしわしと頭を撫でる。
「わ、ちょ、髪がっ」
やめろぉ~...と言いながら手は頭の横にあり、玲人の手を掴む気はなさそうだった。
「...葉瀬口開けて」
「んぇ」
髪が乱れた葉瀬は訳も判らないまま口を開く。その口に再びチョコレートを放り込んだ。
「ん、ん」
「美味しい?」
葉瀬は手で口を押さえてコクコクと頷く。玲人はそんな葉瀬を見て頬を緩める。
玲人はあと何個口に入れられるかな、と昔の彼女を思い出しながらチョコレートを摘まむのだった。
お題 「愛情」
出演 玲人 葉瀬
騒がしい居酒屋の、奥の個室で男女二人が話し合っていた。
一人はビールジョッキ片手に机に肘をついて、もう一人はレモンサワーをちびちび味わって飲んでいた。
ビールジョッキを持った方の女性は、レモンサワーを飲む男性に尋ねる。
「雪(ゆき)ぃ......彼氏とどんな感じ?」
「それなりにやってるよ」
「どこまで行った?キスした?」
「うわぁド直球ぅ。言わねぇよ」
顔色一つ変えず返事をし、レモンサワーを飲むのは雪。
なんだよ教えろー、と少し赤くなっているのが葉瀬(ようせ)。彼らは大学時代のよき友人で今でもこうして関係が続いているのだ。
「いいねぇお熱いねぇ、お熱ですかぁ?」
「おっさんかよ。乙女なんだからもっと可愛く言え」
「きゃー!尊い!」
「なんか違うな」
「人に言わせといてなんだその態度はぁ!」
「葉瀬が始めた物語だろ?」
むすっ!と頬を膨らませる葉瀬の顔は、お酒のせいで少し赤くなっていた。
「それで?俺を誘ったのってそういう話じゃないよな」
どうした、と一度レモンサワーから口を離して聞く。葉瀬は机に顔を伏せて無言になる。
「............」
「なんだ、俺に言いにくい話か?」
「いや.....」
「言ってみろ言ってみろ。言え言え」
「.......あー...のさ」
「何?」
くいっ、と雪はレモンサワーを一飲みする。
「............恋愛って、どうやってる?」
「...え?冷たっ!!」
雪は驚いてレモンサワーから口を離してしまい、膝にビチャッ、とかかる。
「あー...!...今恋愛って言った?」
「言った」
「本当!?」
「む、私が恋愛しないように見えるのか」
「違う違う。葉瀬ってそういう話、大学の時無かっただろ?」
「...そうだっけ?」
葉瀬は顔を上げて頬をつく。雪は興味津々で葉瀬に質問を始めた。
「それでそれで?恋愛に関する相談か?」
「うん」
「そうかそうか...聞きたいことは何だ?なんでも聞け」
「...この恋愛をさ、どうすればいい?」
「......ん?」
「どう、すればいい?伝えたらいい?でもまだ好きかよく分かんないんだけど...」
「.........あー」
雪は気づいた。葉瀬は恋愛初心者なんだな、と。葉瀬の頬の赤さは酒のせいだけではないだろう。
「そんな急に思うことなのかな、好きとか。なんかの気の迷いとかじゃないのかな?もっと仲良くしたいだけで、別に恋愛ではないのかな...」
「待て待て葉瀬」
葉瀬の思考がどんどん悪い方に向いていく前に、雪は止める。そして人差し指をぴん、と立てて話し始めた。
「まず、好きに早いも遅いもない。好きだと思うならそれは好き。好きかわからなくても、特別な気持ちなら特別な気持ちって名前でいい」
「...へぇ」
「次に、恋愛は迷うもの。今まで無かった気持ちなら尚更。無理に名前をつける必要はない」
「ふんふん」
「最後に、無理してその気持ちを伝える必要はまだない」
雪は指を上げるのを止め、手をもとに戻す。
「友達でいたいならそれでも構わない。付き合いたいなら付き合えばいい。それは、葉瀬が決めることだからな」
「そう、なんだ...」
そう言うと雪は嬉しそうに笑う。
「でもなぁ~葉瀬から恋の話が聞けるなんてな」
「あ、はは...」
「じゃあ今度は馴れ初めでも聞こうかな!」
「え、は!?」
「葉瀬だけ話すのもあれだからさ、俺も話すよ」
「そういう問題じゃ」
「葉瀬が言わねぇなら俺から先に話しちゃおっかな~」
「待って私が先に言うから!」
お題 「どうすればいいの?」
出演 葉瀬 雪
「たぁだぁいまぁ」
ちょっと不思議なイントネーションで、扉を開けたのは葉瀬(ようせ)だった。
「おかえり。...なんか機嫌良さそうだね」
「うふ」
にやっ、と笑う葉瀬の手には紙袋がぶら下がっていた。
「何それ?」
「アロマキャンドルだよ」
あとで開けてみてね、と言って葉瀬は手を洗いに行った。玲人は手渡された袋をまじまじと見る。可愛い包装が施された二つのそれは、葉瀬にも玲人にも似合わない物だった。
「...リンゴ?これ本当にアロマキャンドル?」
玲人はアロマキャンドルを取り出して見つめる。袋から出したアロマキャンドルは本物のリンゴそっくりで思わず、悪戯か?と葉瀬を疑った。
「ふふん、そう言うと思ってました~」
葉瀬は、その言葉を待ってました!と言わんばかりに嬉しそうにする。
「そのお店さ、本物そっくりに作ることで有名なんだよ」
「へー...にしてもなんで急に?」
葉瀬の突拍子もない買い物には大体理由がある。前にも急にミカンやキウイフルーツを買ってきて玲人を困惑させていた。
「ん、と最近玲人忙しくてあんまり寝れてないでしょ?リラックスして寝てほしいってなって、アロマキャンドルとかどうかなって思ってさ」
葉瀬はさも当然かのように理由を述べた。
「...はぁ__ぁぁ...」
葉瀬の思いの大きさに玲人は上手く言い表せず、頭を抱えて大きな溜め息をついた。
「...もしかして何も無い方が寝られる感じ?それだったら、えっと、誰かに譲るとか」
「しなくていい...その、嬉しくて」
玲人は顔を手で隠し、目線が下がる。
「ふふっ、そっか!私も嬉しいなぁ」
葉瀬も両手で口元を覆い、笑う。
「...そういえば、なんで二つあるの?」
「実はこのアロマキャンドル、山口さんが旅行行ってきたらしくてお土産に貰った」
「...ん?俺のために買ってきたんじゃないの?」
「あぁ、ははっ」
「『ははっ』!?は!?俺のためはついで!?」
「...うふっ」
「おい!」
なんだよー!!と玲人は頬を膨らまし、葉瀬をぽこぽこと殴る。そんな玲人を見て葉瀬は笑う。
「うそうそ、冗談!貰ったのは本当だけど、私も玲人のために買ったから!」
あはは!と葉瀬は悪戯っぽく笑った。
「もー...」
「ふふっ、今日使う?」
「あー...いや。今日は貰った方にしよう。感想はやく伝えた方がいいし。これは明日にしよう?」
「なんで明日?」
「えっと...明後日二人とも休みだよね?」
「うん」
玲人は楽しみそうに笑って葉瀬に言う。
「明後日はゆっくり寝られるから、明日にしよう」
「...え?えっ」
「お昼まで寝てられるでしょ?」
「あっ、あー、そういうことね...」
ははは、と顔をひきつらせながら葉瀬は笑った。
玲人はリンゴのキャンドルを抱え、首を傾げてそんな葉瀬を見ていた。
お題 「キャンドル」
出演 葉瀬 玲人
「今年はお正月に帰省するの?」
夕食中、玲人(れいと)は葉瀬(ようせ)に聞く。
「んー...今年はいいかな。去年したし」
「何か言われなかったの?」
「めっちゃ帰ってくるように説得されたけど、仕事が忙しいからって誤魔化した」
「そっか」
「ん」
葉瀬は何事もなかったかのように夕食を食べ進める。
「...あ、今年も鍋しよ」
「鍋?うん、いいよ。後で二人の予定聞いておこうか」
「あ、うん。それもいいんだけどさ、二人でもしたいな」
「ふたり」
少し照れる玲人を見て葉瀬は微笑む。
「いいでしょ?初めて鍋やった時は四人だったから」
「そっか...葉瀬ちゃんの初鍋...懐かしいね」
「ね、皆私のお皿にどんどんお肉入れるから消費するの大変だったんだよ~?」
「だって葉瀬ちゃん全然食べないからさ」
「どのくらい食べていいかあんまり分かんなくてさ」
「だから俺らでどんどん入れたんだよね」
玲人は思い出して笑う。
「またやろうね、四人でも二人でもね」
「うん」
お題 「たくさんの想い出」
出演 葉瀬 玲人
「もうすぐ冬だね」
玲人(れいと)は空を見上げながら言う。拓也(たくや)と秋(あき)にじゃんけんで負けて、二人はコンビニまで歩いていた。
「寒くなってきたよね~」
「ねー、葉瀬(ようせ)ちゃんはこの冬何かするの?」
「え?......んー、いつも通り...?」
葉瀬がぼんやり空を見つめて答える。玲人はパッと葉瀬の方を見る。
「いつも通り...!?え?もっと何か無いの?スキー行くとか、スケートするとか、おせち爆食いするとか!」
「おせち爆食いだけ何か可笑しくない??」
「気のせい」
「そっかー」
葉瀬は、む、と考えたが特に思い浮かばないらしく何も言うことは無かった。
「...冬って、楽しいこといっぱいあるじゃん。折角ならしようよ。そういうこと」
玲人は葉瀬をチラリと見て話す。「おおー、いいねー」と葉瀬は未だに上の空だ。
「話聞いてる?」
「聞いている聞いている」
「じゃあ俺が何て言ったか分かるよね」
「わかるわかる。何かしようぜ、って言ったよね」
「要約しすぎじゃない?」
「大体いっしょでしょ?」
それでも葉瀬は上の空から戻ってこない。
「......冬さ、四人で鍋しない?」
唐突に発した玲人の言葉に、葉瀬はパチッと現実に戻る。
「四人で?」
「そう、四人で」
「...私そういうのやったこと無いから、わかんないんだけど...」
「俺らで教えるから大丈夫」
「...鍋って何鍋するの?闇鍋?火鍋?」
「初めての鍋が闇鍋とか火鍋はまずいよ」
ちゃんこ鍋とか寄せ鍋にしよ?と玲人は微笑む。
「食材とかさ、一緒に買いに行こうよ。初めてなんでしょ?」
「うん」
「じゃあ帰ったら二人にも話して、日程決めよう」
そう言うと二人は早足でコンビニへと向かったのだ。
お題「冬になったら」
出演 葉瀬 玲人