「真人(まひと)!こっちこっち!」
彼は手招きして、真人を呼び寄せる。
「今日アイス食べて帰るんでしょ?新作?だっけ、ボリボリ君のミント味!」
どんな味なんだろーな!と彼は笑う。真人はその様子をただ眺める。
「真人が誘ってくれなきゃ、ミント味は見逃してたね~ありがとう真人クン!☺」
彼は歩きながら真人の隣でくだらない話を続ける。真人もそれに何か言うことなく、聞いている。
「でねー、小島がー...あ、真人靴紐縛る?じゃあ俺先に行ってるネ😁」
彼は真人に手を上げて、横断歩道を渡り始める。真人はそれを見て己の靴紐を縛ろうとする。
すると、横断歩道を渡っているはずの彼がこちらを振り返って笑う。
「なんで止めてくれなかったノ?」
彼は冷たく笑って言った。
「君がアノ日、俺ヲ止めてくれたラ死なずに済んだのに」
彼の目には光が宿っていない。
「君ガあの日、アイスを食ベニ俺をサソわなきゃ死ナズにスんだノに」
彼の体がゆっくりと溶けていく。
「キみガ」
オレノトモダチじゃなきゃヨカッタノニね
「っは...!.........は......は...」
真人はバチッと目が覚めた。いつもの天井が見える。息も出来るし、声も出る。左からうっすら月の明かりが入っている。
首を触ると、じっとりとした汗をかいていたのがわかった。
もう何度目だろうか。彼の、陽太(ひなた)との分岐点を見るのは。
戻れないと分かっているからこそ、真人は後悔して後悔して夢を見る。
一つでも何かが違えば彼は死なずに済んだのだろうか、と無限に続く問いに解を求めている。
いわば無理数を整数にしようとする事と同じ。
不可能なのだ。それも一生。
死んで陽太に聞いたってきっと分からない。パラレルワールドにでも行かない限り、きっと。
「............」
真人は横を向いて、部屋を見渡す。
質素な棚に、机の上にあるノートパソコン、布団を敷いて床で横になる陽太___...?
(...あ、そうか。アイツは帰ってきたんだっけ)
数日前の陽太を思い出す。幽霊から蘇ったらしい陽太は、突然真人の前に現れた。流れで部屋に押し入り、結局共に住むことになった陽太。
はっきり言って可笑しな話だ。陽太は一度死んでいるのだから。きっと、コイツは陽太じゃないはずなんだ。
だけど、真人はそれでも良かった。もう一度会えるなら、たとえ本物の陽太でなくても。
(おかしいよなぁ…俺も、お前も...)
真人はぼんやりと考える。残念ながら今の彼には、正常な判断は無理そうだ。
今の水分不足な真人には水を飲むことを勧める。そうすればきっと、彼だって今の状況がおかしいことに気づくから。
でも一度離れ離れを経験した彼は、気づいたとしても目を瞑るのだろう。残酷だね。
お題「はなればなれ」
出演 真人 陽太
葉瀬(ようせ)は眩しさで目が覚める。キョロ、と目を動かすとカーテンの隙間から太陽が見えて、思わず目を瞑る。
何時だ、と昨日スマホを置いた辺りを手で触る。固い感触がしてそれを持ち上げ、電源をつける。時刻は午前6時ちょっと前。
まだ寝られる、とスマホを閉じて、光が差し込むカーテンを閉めようとする。
しかし、ベッドから出ることは出来なかった。
後ろにくっついた彼が、葉瀬のお腹に手を回していたのだ。おかげで葉瀬はベッドから動けない。
仕方なく寝返りを打って、彼を正面から抱きしめるように眠る。寝返りを打つ時は慎重に。
そうやって自分と同じくらいで、肩幅が少し大きい彼を抱き枕代わりにした。
葉瀬はそのまま、瞼を閉じて意識を落とした。
お題 「一筋の光」
出演 葉瀬 玲人
「雪(ゆき)くん持ってきたよ~」
園芸用の土を運んできたリサの髪は、いつもと違って長い髪を高く結っていた。
「あ、リサ。ありがとう、そこ置いといて」
雪とリサは袖を捲り、軍手をしている。委員会の仕事で花壇を作ることになったのだ。
「先生も急に言うなんて酷いよー私今日アイス食べに行こうと思ってたのに~」
「さっさと終わらせるぞ」
「そうだね」
二人は先生から聞いたやり方で、花壇の土を作っていく。
「そういえば、お花ってどこにあるの?」
「今はまだ校舎にあったはず、後で俺が取ってくるよ」
「わかった、よろしくね!」
「...ふぅ、こんなもんかな」
「やった、次はお花だね」
「そうだな…って、うわ!」
視界にうにょりと動く、ピンク色の生物が写った。雪はざりっ、と身を引く。
「...うわ、ミミズ...」
俺ミミズ嫌いなんだよなー...と顔を背けようとした時だった。
バチッ
リサが花壇にスコップを振り下ろしていた。
丁度、雪がミミズをみた辺りに。
「......リサ、そこミミズが...」
「何?」
先程となんら変わらない顔を見せる。
「...あ、ミミズ?土の栄養になるし、大丈夫だよ」
スッ、とスコップを退けるが、そこにミミズは居なかった。
(...土の中、だよな?そうだよな)
雪は自分にそう言い聞かせて「花取ってくる」とその場を離れた。
「...土の中かな。つまんな」
と、リサはその土を少しいじった。
お題 「子供のように」
出演 リサ 雪
「やぁやぁ真人(まひと)クン~✋」
手を上げて軽く走ってきたのは少し疲れた顔をした陽太(ひなた)だ。
「なんでこっち来たんだよ」
「いやぁーちょっと疲れたから休憩がてらに」
ぼけっと立っていた真人の隣に当たり前の様に立った。
「でもすぐあっち行けるよな」
「真人もきっと行けるよ」
「俺は元から居るから戻れないんだよ」
「えー悲しい😢」
「まぁ俺の分まで頑張ってくれよ」
そう言って軽く笑うと陽太は「よっしゃ陽太クンいっちょやったるで~」と軽く肩を回した。
「あ、来た」
「はい、いってらー」
陽太は味方からボールを受け取る。
「佐々木ぃ!!食らえッッ!!!」
振り上げられた腕を勢いよく振り下ろすと、とんでもない速さで佐々木に向かってボールが飛んで行った。
「ギャアッ!!!」
バゴンッと音を立てて佐々木の肩にボールが当たった。
「いってぇ!次俺陽太当てるから!!」
「当てれるものなら当ててみな!!」
じゃあ、また!と陽太は真人に手を振る。
「真人も頑張ってこっち来てね!!」
「だーかーらー俺元々外野だから戻れないって!」
話聞けよ!と戻る陽太の背中に向かって言い放った。
お題 「束の間の休息」
出演 真人 陽太
「真人(まひと)~アイス買ってこ~」
そう言ってコンビニを見る陽太(ひなた)。
「悪。金欠」
「マ?」
「ま。あんな頻繁に食ってたら、金欠なるだろ」
真人は悔しそうに「金がねぇ...」と呟いた。
「じゃあ俺のやつ半分あげる。二つに分かれるやつとかあるじゃん?」
「おま、そこまでして食いたいのか」
「ノンノン真人くん。俺はそこまで食い意地無い」
コンビニに入り、陽太は目当ての二つアイスを探す。真人は、ぼけっとそんな陽太を見ている。
「じゃあなんでそこまで食いたいわけ?陽太ってもしかしてアイスマニアだった?」
「発想が面白いね真人クン。アイスマニアは考えてなかったよ」
お、見っけ~と陽太はショーケースを開けてそのままレジへと持っていく。
「...やっぱ俺も食うんだし払う」
「はい駄目~真人は払っちゃ駄目です~残念でした~俺に奢られてくださ~い」
陽太はササッと会計を済ませてしまった。
二人は土手に座って、夕日を眺めてアイスを頬張る。
「うんめー」
「...なんか悪いな」
「悪くなーい」
「...でもなぁ...」
食べてはいるが、浮かない顔をしたままの真人に陽太は言う。
「じゃあ真人クンが大学生になって、バイトして、金銭的余裕ができたら!...奢られてあげるよ?」
「奢ってよ、とかじゃなくて奢られてあげるかよ」
「だって~真人は俺のワガママに付き合ってくれてるんだから、このくらい当然なんだけどね」
「ワガママじゃねぇけど」
「え?」
「俺はそれに好きで付き合ってるわけだしなぁ」
もにょもにょとアイスを食べる真人を見る。
「ほ、へぇふぅん?」
「なんだその返事」
「真人って意外と緩いんだなぁって」
「緩い...?」
「わは」
黄昏時にアイスを食べる二人であった。
お題 「たそがれ」
出演 陽太 真人