「二人だけで飲みたいとか珍しいね」
拓也(たくや)は着ていたコートを脱ぎ、畳んで横に置く。
「まぁ...ちょっとね」
「ふーん?」
俺は拓也の探る目から逃れるために、メニュー表で顔を隠す。長い付き合いの友にはこうでもしないと心の内を知られてしまうだから。
「んじゃ、どれ頼む?」
俺はメニュー表を見たまま頼むものを彼に伝える。タッチパネルで注文し、しばらくすると頼んだものがやってきた。
その後は各々料理や飲み物をちまちま飲んで、他愛もない話をしていた。
「...で、話したいことあるんじゃないの?」
「んぐ......げほっげほっ...!...は、なに」
「玲人(れいと)が二人で話したいとか相談しかないでしょ」
「.........」
「で、何?」
頬杖をついて、こちらを見る。
「......最近さ、変なんだよね」
「変?」
「なんか、達を見てると、キラキラしてたり、心臓が...」
「え、心臓?」
「心臓が......ばく、って...!」
「......あー」
「え、何!?」
拓也はにやにやと俺の方を見る。
「んー、これは自分で気づかないとな~」
「え、は!?ちょ!」
「じゃあ~ヒントね、ヒント」
「ヒント?」
拓也は目を細めて少し考える。
「えーと、その人に対してだけ!だよね?」
「う、うん」
「その人が他の人と楽しそうにしてたら?」
「え?えー...別にいいんじゃない?」
「そっかぁ...!じゃあその人のことどう思ってる?」
「え、どう?どう...って......」
俺はぼんやり考える。
答えがでない。
でないわけじゃない、でもでない。
「...えっと......」
「...本当はさ」
俺がぐるぐる考えていると、拓也は突然話す。
「本当は答え教えたいけど、まだちょっと早そうだから内緒」
なんだそれ、と軽く笑って俺はぬるくなったウーロン茶を飲んだ。
お題 「胸の鼓動」
出演 玲人 拓也
どうも皆さんこんにちは、玲人(れいと)です。
至急教えて欲しいです。
友達が輝いて見えるのですが、何故でしょうか。
遡ること数時間前。今日はいつもの四人で集まってゲームをする約束をしていた。
いつもと変わらないと思ってた。
「わ、今回私一位だ!...玲人大丈夫?頭痛いの?」
そう言って彼女は俺の顔を覗き込んでくる。
「大丈夫...!その、ちょっとね...!」
頭を抱えていたから心配されてしまったのだろう。申し訳ない。
いつからだっただろう。彼女の周りだけキラキラしていて、目を向けるのが難しくなっていた。
(なんで...)
今、まだ彼女しか来ていない。二人とも早く来て。
「えっと、なんか悩んでる?話聞こうか?」
「だ、大丈夫!!大丈夫だよ!」
「そう...?」
そう言うと画面に顔を戻す。
(ああぁ......なんか後ろに花も見えるよ...もうキラキラしないで...!!)
「玲人」
うぅ、と心の中で唸っていると名前を呼ばれる。そろ、とそちらを向くと頭に、ぽすんと何か乗せられた。
「......?」
それはゆっくり頭を左右する。
「...えっと」
「大丈夫」
彼女はにこっと笑う。
「玲人は頑張ってるよ。何で悩んでるかわかんないけど、玲人は頑張ってる。もしよかったら、私にも相談してほしいな。大切な友達だからね」
ふわりと笑う彼女からキラキラと光が溢れている。
バクッ、と胸から変な音がした。
「......うぐ」
「え、玲人!?」
俺は眩しくて思わず目を瞑って、そのまま胸を押さえて横に転がった。
頭の上で彼女の心配している声が聞こえる。
最悪です。輝いて見えるかつ、心臓が速いまま収まりません。
誰かたすけて。
お題 「きらめき」
出演 玲人 葉瀬
『土曜日、何時集合する?』
通知音と共にやってきたメッセージは、スマホのロック画面に映し出されたままだった。
秋(あき)は作業を中断し、スマホを手にとってメッセージを開こうとする。が、途中でそれを止めた。
「はぁ...」
本来であれば嬉しいはずのメッセージが、どうにか憂鬱で開けそうもない。
それもそう、昨日送り主の拓也(たくや)が見知らぬ花屋の店員と楽しそうに会話していたのを見てしまったからだ。
秋はその光景が忘れられなかった。
自分ではない人とはあんな風に笑うんだなとか、相当仲の良い関係なんだなとか。
(もしかして彼女だったりするのかな)
トーク画面を開こうとする。
昨日会ってた人って誰?もしかして彼女いるの?聞けば彼は答えてくれるだろう。
でもその聞いた事が原因で遊びに行かなくなったら?
その店員のことが気になってしまったら?
「......はぁ」
本日二度目の溜め息を流す。
スマホの操作を止め、机にコトリ、と置く。椅子に深く腰かけて空を仰いだ。
(私ってこんな面倒だったかな...)
秋は拓也からのメッセージを、とりあえず保留しておくことにした。
お題 「開けないLINE」
出演 秋 拓也
俺が少し回想に頭を使うと、ここの人物達は時が止まったように動かなくなる。
(俺の思考から色づいてくのは、俺がこの世界の中心になって......きっとこの子達の会話だって俺が......世界観を考えろ俺...)
「...本当にゼンマイがついてんのかな」
俺の放った一言は、誰にも拾われることなく床に落ちていった。
「よし、次行くか」
ぺちっ、と膝を叩き「よっこらせ」と年老いた掛け声をつけて立ち上がった。
一番後ろの席まで向かい、閉ざされた扉の前に立つ。
扉には黄色いテープが一つ。そこに黒色で『きーぷ あうと!』と書かれていた。
(キープアウト...?立ち入り禁止、だっけ確か。まぁいいでしょ)
俺は扉に手をかける。
「お客様」
すぐ後ろで声がして、俺はびっくりして肩を震わせた。
「この先は立ち入り禁止です。お戻り下さい」
「...す、みません」
ぱっ、と手を離す。
「......この先ってなんで立ち入り禁止なんですか?」
俺は聞いてみた。
「............」
深く帽子を被って、何も話さない。俺は返事を待つようにつられて黙った。
「...この先は不十分な空間です。立ち入るのは危険です」
不十分な空間。
(そうだ、俺はこの以前を覚えてない。何があるのか......)
「......わかりました」
俺は奥に向かうことを止めた。
「それでは、ごゆっくり…」
「ちょっと待ってよ」
「はい、なんでしょう」
「俺、君の話が聞きたいな。それに、俺の話にまだ出てない。どうかな」
帽子から覗く目と合う。
これは、良いという事なのだろうか?
お題 「不完全な僕」
「もしかして、香水つけてる?」
雪(ゆき)は葉瀬(ようせ)にプリを渡しながら尋ねる。
「ん?つけてないけど?」
「マジ?さっきプリ撮った時いつもと違う香りしたから、今日だけ香水つけてたのかと思った。違うのかよ」
葉瀬は何故雪がそう言うのか分からなかった。何か生活が劇的に変わらない限り、匂いなど変化しないはずだが...
「......あ」
「何?なんか心当たりあんの?」
「あー......うん!!!」
「え、何」
葉瀬は何かに気づき、気まずそうに勢いよく返事をした。ただならぬ気配を感じた雪は、焦ってそのまま口から出た言葉を返してしまった。
「......じゅ」
「じゅ?」
「柔軟剤が変わりました!」
「柔軟剤」
相変わらず葉瀬は気まずさ全開の返事をする。雪は不安で思わず復唱した。
「たぶん柔軟剤ですね!」
「へ、ぇ......そ、それは何故...?」
葉瀬は諦めたように笑って、雪を見つめる。そして、深呼吸してこう言った。
「彼氏が出来ました!!!言ってなくてごめんね!!!」
「へぇー......ぇええぇぇ!!?」
てへぺろ、と先程の様に諦めて笑う。
「え、彼氏できたのか!?おめでとう!!って出来たら俺に教えろって言ったよね!?」
「ごめーーんね!!」
「許さん」
「てへぺろ」
「もっと心込めろ。俺の方が可愛く言えるぞ」
「絶対言わないし聞かないよ」
葉瀬は、ちらりと時計を見る。あれから少し話し込んでしまったらしい。
「そろそろカフェ行こうか」
「そうだな。じゃあそこで馴れ初めとか聞かせてもらお。柔軟剤変わったってことはその彼氏と同じ香りなんだぁ~ってことは一緒に住んでるのか!聞くのが楽しみだな~」
「...答えられる範囲の質問でお願いします」
「ええ~どうしようかぁ?」
雪は悪戯っぽく笑っていた。
お題 「香水」
出演 葉瀬 雪