hot eyes

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8/7/2024, 9:18:32 AM

それは、本当に偶然だった。

いつも通り営業していた時のこと。
「いらっしゃいませ」
背が高く、髪色が明るい男性がやって来た。
「あの、友人の誕生日に『いつもありがとう』って花束を渡したいんですけど、オススメの花ってありますか...?」
「ございますよ、少々お待ちください」
言葉(ことは)はカウンターの下から、本を取り出して見せた。
「『感謝』の意味が含まれている花はこの辺りですね。白いダリアはよくブーケの主役などに使用されてるんですよ」
「へぇ.........ん?」
男性は少し目線を上げると、驚いた顔をした。

「...もしかして、言葉ちゃん?」
「えっ、えぇ、そうですけど...」
「やっぱり!俺だよ俺!拓也(たくや)!ほら、高校の時一緒だった!」
「拓也君っ?」

言葉も驚いて目を丸くする。なんとその男性は高校時代、同じクラスだった拓也だったのだ。
「久しぶり!元気だった?」
「うん元気だよ、拓也君は?」
「俺も元気だよ。いや、まさかこんな所で会うとは」
「私も驚いたよ」
まさか拓也君が覚えてるなんて、と心の中で思った。
高校時代、彼はクラスの中心的な存在だった。運動が得意で勉強もそこそこ出来る、サッカー部に所属していてファンが居たと聞いていた。そんな彼に憧れていたのも事実だ。

でも私の事なんてすっかり忘れて、いや名前すら知られていないと思っていた。

「そっか、花屋さんなんだ...」
「拓也君は何をしているの?」
「俺は...仕事内容はちょっと言えないけど、まぁ在宅ワーク中ってところかな」
「そうなんだね......あ、花束のことなんだけど」
「あっ、ごめん。花束.........うん、いいね。このダリア?...を使った花束お願いしてもいい?」
「うん、任せてね」
言葉は自信ありげに言って、花を包みに行った。

花を包み終え、花言葉を一通り説明すると拓也は大事そうに花を抱えた。
帰り際に「また来るね」と手を振って去っていった。


それから拓也は言葉がやっている花屋に何度も足を運んだ。

友達のお祝い、母へのプレゼント、とその度に花を買いに来ていた。
「いつもありがとう」
「こっちこそありがとう!俺、言葉ちゃんのおかげで花言葉にちょっと詳しくなったんだよね~」
「そうなの!なんだか誇らしいな」
そう言うとお互い笑顔になった。

たわいもない話をして、二人で笑う。
(拓也君の笑った顔......素敵、太陽みたい)
これが最近の言葉の楽しみになっていた。

そうやって拓也が通い始めて二年が経とうとしていた。花屋は沢山あるのに、わざわざここに来てくれているのは自分と同じく話すのが楽しみになっているからなのかな、と考えたいた。

(今度拓也君が来たら、お茶でも誘ってみようかな)

なんてことをぼんやりと考えていた。

しかし、拓也は突然お店に来なくなった。
今月は仕事が忙しいのかな、などと考えていた。

来る日も来る日も、拓也をお店で待ち続ける言葉。

そうして数ヶ月が過ぎてしまった。
(...もしかして事故にあったのかな...まさか病気に...?もう来てはくれないのかな...)

そう不安に考えていると、軽快にベルが鳴った。

「いらっしゃいませ......あ」

背の高い、見慣れた明るい髪に言葉はパッと顔を明るくする。
「拓也君...!久しぶ、り......」
手を上げて声をかけた時、言葉は拓也の隣にいる女の人に気がついた。

「久しぶり、言葉ちゃん」
「え、えぇ......えっと、隣の方は...」

「俺の彼女なんだ」
拓也はニコッと笑う。

「初めまして、秋(あき)です」

秋は軽く頭を下げる。言葉も連れて頭を下げた。
「可愛いだろ~?料理めっちゃ得意なんだよ」
「ちょ、誰にでもそれ言うの止めてよ...!恥ずかしいじゃん...!」
「えー、だって事実だからさ」
「じっ......だとしても止めてよ...」
「すみません」と秋は言葉に謝る。

「あ、そうだそうだ。言葉ちゃん花束お願いしてもいい?」
「...ぁ、うん。何か希望あるかな?」


「向日葵、お願い出来るかな。出来れば三本」


三本の向日葵。これを知らない花屋はいない。
「わかった、三本ね」
「ありがとう」
「...三本ってなんか意味あるの?」
秋が拓也に聞く。
「ん?内緒!葉瀬(ようせ)に聞くといいんじゃね?」
「......なんか変な意味じゃないよね?」
「違うって!俺はちゃーんと意味知ってて選んでるから!」

言葉は、ちらりと二人の様子を伺う。
(初めて、見たな。拓也君のあんな顔)
「......お待たせしました」
「あ、言葉ちゃんありがとう!また来るね」
「うん、また」

軽快にベルが鳴る。

店を出た二人はなにやら仲良さそうに帰っていく。
(...彼女、いたのね)

カウンターに手をついてしゃがみこむ。


期待しなきゃよかったな、と言葉は一人小さく丸くなっていた。


お題 「太陽」
出演 言葉 拓也 秋

8/2/2024, 7:00:20 AM

「明日って何か予定ある?」

隣に座っていた葉瀬(ようせ)が突然話しかける。

「明日?...ちょっと用事済ませるくらいかな」
「じゃあ早く終わる?」
「うん、まぁ......え、何?」
「えっとね」

葉瀬は距離を詰めて玲人(れいと)にスマホの中身を見せる。
そこにはページいっぱいに『花火大会~2024~』と書かれていた。

「明日花火大会やるらしくて、良かったら一緒に行きたいなーって。屋台とか出るらしいし」
「...うーん......」
「あ、嫌だったり用事長引きそうだったら無理しなくていいよ。ここからでも十分見えるし」

玲人は返事を迷った。正直、人混みは嫌いだ。あのごった返すような中を歩きたくはない。すごく面倒だ。
それに最近は一歩外へ出ただけで灼熱の暑さに見舞われる。

そう、玲人の脳内には大きく『行きたくない』の文字が表示されていた。しかし。

(...でも、葉瀬が誘ってくれてるしなぁ...たまには行ってみてもいいのかなぁ。夏祭りでーと...とか、そういうのやってこなかったし)

と、二つが葛藤していた。しかしそんな葛藤を壊したのはやはり、葉瀬であった。

「.........玲人、人混み苦手でしょ?無理して行く必要ないよ」
「...いや、それどっちだよ。一緒に行かなくていいの?」
「えぇ~......じゃあ...絶対行こうよ?」
「疑問系かよ」
「うっ...っじゃあもし明日晴れたら、絶対行こうね!!」

はい、約束!と玲人の手を使って半ば強引に指切りをした。
「よし!じゃあ明日絶対ね!」
「晴れたらね」
「うん!私お風呂入ってくるわ。絶対だよ!」
「はいはい、絶対絶対」

脱衣所へ向かう葉瀬を横目に、玲人はスマホを開く。

そして明日の用事と行っていた乾電池の購入を、ネットショッピングで済ませた。

(外出るの嫌だし、人混みも好きじゃないけど......ま、絶対って言われたら仕方ないか)

と一人楽しみにしていた。

お題 「明日、もし晴れたら」
出演 玲人 葉瀬

8/1/2024, 9:11:58 AM

「書けない...」
パソコンを前に自室で頭を抱えていた。

俺は趣味で小説を書いている。誰かに見て貰おうとかで始めたわけではない。ただの自己満足だった。

しかしある時、この話を誰かに見てほしい。読んで感想が欲しいと思うようになっていた。
そこで俺は、一日一つお題が出るアプリを使って話を投稿し、読んで貰おうと思っていた。

最初は順調だった。毎日、一つ話を書いて満足していた。

しかしそれも最初の内だけだった。それだけでは満足がいかず、もっと読みたいを求めるようになった。

あ、増えてる。もっと増えてる!と。


だが、最近は伸びも悪く、良い話を書けている気がしなかった。

「もっと面白い話にしないと......あれ、こっちの方が反応良いからこういう話の方がいいのかな...」

数字ばかり気にして、純粋に書きたいという気持ちを失いつつあったのだ。


(...駄目だ。これじゃ可笑しい)


俺はどんどん自分を追い込んだ。

(もっと、もっと面白い、良い話を)


だから、

「もう、駄目だ」

一人になったのだ。



「...ん」
そして目を覚ますと、俺は列車の中にいたのだった。


お題 「だから、一人でいたい。」

7/31/2024, 9:05:28 AM

「雪(ゆき)さんの名字ってなんですか?」
「.........朝岡...」
「朝岡雪さん!素敵なお名前ですね!なんか青っぽい感じがして...」
「.........」
「あ、次です!雪さんの好きな食べ物ってなんですか?」
「......なんでも良いだろ...」
「いえ!やっぱり定番中の定番ですよね、これは聞いておかないと!」

俺は心の中でため息をつく。もう二週間もこれだ。俺がバイトの休憩中、この海斗(かいと)という男に質問責めされる。
最初は、健気だなぁとしか思わなかったが、二週間も続けば嫌気が差してくる。

「次はですね...」
「なぁ」

俺の呼び掛けに反応するようにこちらを向く。

「ちょっとしつこいんだよ。初対面にしては馴れ馴れし過ぎないか」

ぴたり、と彼の動きが止まる。

しばらくしたのち、彼が先に口を開く。

「そう、ですよね…...すみません、一人で盛り上がっちゃって...」

彼は段々とうつむきかげんになる。

「あの......もう来ませんから!!!すみませんでした!!」

「え?は、ちょ」
俺が止める間もなく、彼は店から出ていってしまった。

(...少し、冷たくしすぎたかも)

俺は少しだけ後悔したが、切り替えて店の作業へと戻っていった。


お題 「澄んだ瞳」
出演 雪 海斗

7/29/2024, 8:31:51 AM

「あ、ねぇ型抜きやってる。しない?」
「珍しいね。うん、やろう」

俺達は一人一枚ずつ、傘模様の型を取っていた。
「.........」
「.........」
やっている間は二人とも集中して無言のままだった。

俺が傘のハンドル部分を取っていた時、ぺき、と音がして割れた。
「あ」
「わっ」
俺が思わず声を出すと隣の肩がビクッ、と動き、ぺき、と音がした。
「......割れちゃった」
「...なんかごめん」
「ん?あぁ!お嬢ちゃん惜しかったね!またやってくれよ!」
ほれ!と屋台の人は飴をくれた。
「うぅ......悔し...」
「あはは…」

俺達は飴を放る。昔ながらの苺味が口の中に広がった。
「お、射的ある。次あれやろ~」
「ん、いいねー」
彼女が指差す屋台に、二人で向かっていった。

お題 「お祭り」
出演 玲人 葉瀬

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