彼女はいつも、俺によそよそしい。
葉瀬(ようせ)は前からの友達だから仲が良いのは知ってる。玲人(れいと)は人柄も良くて、雰囲気も柔らかいから近寄りやすい。
じゃあ俺は?
確かに髪は染めてるし、背は高い自信あるし、どっちかと言えばガサツで、そして感情の凹凸が激しい。
そのせいか彼女は最初、俺を警戒した。
わかってる、第一印象は葉瀬に比べてあんまり良くなさそうだったし。
でも知り合ったからには仲良くなりたいと思うのが俺だから。
彼女の趣味は読書。ゲーム好きの俺とは正反対だ。ちなみに俺は本を読むのが好きじゃない。
でも少しだけ読んでみることにした。
選んだ本が悪かったのか、十数ページで俺の頭はショートした。
今度は彼女が好きだと言ってた人の本を読んでみる。今回はミステリーだったからかスイスイ読めた。でも面白かったけど、感想を聞かれてもどう答えればいいのか分からなかった。
今度はオススメされた本を読んでみる。彼女は軽く要点をまとめてくれて、俺はそこに注意して読んだからか、なんか読めた。まだ感想は難しいけど、いつかは言えるように。
なんでそこまでするのか、って?
前に小説を読んだ事を話したら、驚いてから嬉しそうにしてたから。
その顔が、なんとなく優しい気持ちにさせてくれるから。
彼女の事をもっと知りたいし、俺の事を知ってほしいから。
だから好きじゃなかった本を読み始めた。
なのに。
「なんで他の人に向いちゃったんだよっ...」
俺はベッドでうつ伏せになる。枕が涙で濡れちゃうけど、気に出来ない。
ベッドの隣の棚には、ゲーム機と真新しい本や読み倒された本などが数十冊並べて置いてあった。
お題 「好きじゃないのに」
出演 拓也 秋 葉瀬 玲人
「うわあぁ~雨降ってる...あーぁ......」
雨に罪は無いことは明確だ。しかし、よりによって玲人(れいと)とのデートの日に降ることないじゃないか。今日は町ブラだったのに。
天気予報だって言ってたじゃないか『ところにより雨』って。なんでそれが此処なんだよ。
「玲人傘持ってる?」
「......ごめん、無い」
「だろうと思って持ってきた。折り畳み」
バサッ、と傘を開いて手招きをする。
彼より少し背の高い私が傘を持つことにした。玲人は「俺が持つ」って言ってくれたけど、自分より背の高い人に合わせて傘を持つのは中々筋肉を使う。ましてや彼は私より運動してないため、私が持つのが最適なのだ。
彼は体が弱い。風邪なんか引きやすいから濡れないように傘を傾ける。折角の相合傘なんだから、もう少し寄ってくれてもいいのに。
「......葉瀬(ようせ)、濡れるよ」
「ん、じゃあ玲人もうちょっとこっち寄って」
私は傘を持ち変えて玲人を引き寄せる。玲人は「え」とか「わ」とか短音を発して身を小さくなってしてしまった。
あ~可愛い~...本当にこの人私より年上か?初心すぎる...
「わ...わかったから...!もうちょっと寄るから...!か、肩......恥ずかしい...」
「いいじゃない。楽しいし、このまま行こうよ」
「え!?...お、俺が腕組むから...!それじゃ駄目...!?」
「いいけど......そっちの方が玲人恥ずかしくない?」
「うっ......そ、れでいいから!」
わかった、と言って再び傘を持ち変えると玲人が、きゅ、とくっついてきた。
チラッ、と顔を覗くと真っ赤な顔で「前向け!」と怒られた。
雨の日のデートもいいかなってちょっとだけ思った。
お題 「ところにより雨」
出演 葉瀬 玲人
葉瀬(ようせ)と玲人(れいと)は上を見上げる。その目線の先には観覧車があって、先程拓也(たくや)と秋(あき)を取り敢えず二人きりにした。そして残り組は下で待機していた。
「......いいな」
葉瀬はぽつりと呟く。二人きりにしたはいいものの、そのせいで自分達は観覧車に乗れなかったのだ。
玲人はそれを確かに聞いた。でも自分と二人でいいのか、それが引っ掛かっていた。
「...玲人、乗ろ」
「え?ちょ」
「玲人、観覧車はいいんでしょ?だったら最後に乗っとこうよ。遊園地の醍醐味だよ?」
ほらほら、と葉瀬は手を引く。成すがままに玲人は連れていかれ、ぐいぐいと観覧車に押し込まれた。
スタッフさんに二人で会釈をして、二人を乗せたゴンドラはゆっくり上昇していく。
「おぉー観覧車だ~!」
子供のようにはしゃぐ葉瀬に対し、困惑のまま動かない玲人。
「......あ、ねね。見てみて、さっき乗ったやつ」
葉瀬は窓のそとを指差して玲人に話しかける。
「本当だ。さっき葉瀬がエグい程叫んでたやつ」
「止めろって~忘れろ~」
「あの時、一瞬声が無くなったから本当に吹っ飛ばされたのかと思ったよ」
「ふふっ、疲れて声出すのしんどくなりました」
「ふっ......まぁ生きてて良かったよ」
ゴンドラは更に上昇していく。
「見てみて!夕日!綺麗~」
「綺麗だね~」
「うわ、眩ち」
葉瀬はぎゅっ、と目を瞑る。
「ははっ、光に弱すぎ」
薄目を開けて玲人の方を見る。
夕色に染められた彼の茶髪が、きらきらと光っていた。
葉瀬はその光景にみいられていた。
「...何?」
じっ、と見ていたのに気づいたのか玲人が話しかけてきた。
「......綺麗だなって思って。髪」
「えっ、ぁ、りがと...」
平常心を保ち、素直に伝える。
嬉しかったのか、玲人はその後頻りに髪を触っていた。
夕日はいつまでも輝いていた。
お題 「二人ぼっち」
出演 葉瀬 玲人 拓也 秋
「今日は楽しかったね~」
「あ、あぁ!楽しかったな!」
今日、俺達四人は遊園地に遊びに行っていた。
俺が今この隣にいる人、秋(あき)にちょっとでも俺を気になってほしい、あわよくば告白出来たらと思って実行した。
残りの二人、葉瀬(ようせ)と玲人(れいと)は俺の作戦を知ってた上で来ていた。秋と二人きりで、なんて来れるわけがないため無理に誘ったのだ。
何かとあの二人は俺達を二人きりにさせようとしてきて本当に大変だった。でも嬉しかった。
最終的に秋と葉瀬は帰る方向が同じなのに、玲人の家に忘れ物したから取りに帰るとか言って俺に秋を押し付けていった。
そして結局、俺は告白出来ていない。
「バイキングの葉瀬の叫び声凄かったよね~」
「『降ろしてッ!降ろしてよぉぉッ!!!うわあああぁぁぁッッ!!!』...だったよね」
「そうそう!玲人さんも怖くて叫んでたはずなのに途中から心配してたよ!......葉瀬には悪いけど凄い面白かった...」
はははっ、と笑う横顔を眺める。
「でさー?.........拓也(たくや)?」
秋がそれに気づいてこちらを向く。
今だったら言えるかもしれない。
「あ、秋............す」
「す?」
「......す、...き、な人とか居んの?」
「......え?」
...ちょっと待って俺何やってんだよ!!!あと!!あとちょっとで!!アホかよ俺は!!!なんでそんなの付け足した!!!切れよ俺!!もぉぉぉぉ馬鹿ァァァァァァァァァァァッッ!!!
「好きな...人?なんで?」
「......い、や...俺彼女が出来たら、今日みたいな遊園地に連れていこうと思っててまぁ俺にはまだ彼女は居ないけどこれから出来る可能性はあるから考えてただけで、そういえば秋に聞いたことないなって思ったから聞いただけで皆に聞いてるから深い意味は全然ない」
(ああああぁぁぁバカァァァァァァァァァァァ)
「そうか......すきな人...」
秋は何か考えるように顎に手を当てる。
おかしい。前に聞いたときは『居ないから』だったのに。
「......その、一応...いる...?...かも」
「へぇ、そうなんだ」
...いつから。なんて聞けなかった。
知らなかった。秋にそんな人が居たなんて。
秋は凄い鈍感だからじわじわ攻めてくつもりだったのに。
頑張ろうと、思ったのに。
「...た、拓也は!?拓也は居るんでしょ!?」
「.........うん」
秋だよ、なんて言ったら困るよな。
「だよね」
「...俺、秋の事応援してるから。頑張って」
「え、あ、うん......ありがと。あ、ここら辺でいいよ。またね」
「うん、じゃあまた」
手を振って俺達は別々の道を歩く。
ゆったり、ゆったり、俺は帰り道を行く。
告白する前で良かったかもしれない。
(秋の事......応援しなきゃなぁ...)
胸がズキりと痛かった。逆に告白してしまえば良かったかもしれない。そっちの方が潔かったのかも。
俺はまだ、これを捨てるにはキツいらしい。
お題 「夢が醒める前に」
出演 拓也 秋 葉瀬 玲人
一目惚れだった。
いつもは遅刻寸前の俺が、ちょっとだけ早起きして、ゆっくり大学へ行く。
ふと目に入った花屋さんに、その人はいた。
白い透き通るような肌に映える、赤い唇。艶やかな髪はかき上げられ、きりりとした眉毛が見える。
そして何より、その瞳だ。
愛おしそうに花を見るその姿は、まるでこの地に舞い降りた天使のようだ。
俺は気づいたら花屋さんに入っていた。
いらっしゃいませ、と遠くで女性の声が聞こえる。
俺は彼女を探した。
彼女は青い小さな花の前にいた。
「あ、あのっ」
俺が声をかけると、気づいたのかこちらへ向かってくる。
「俺、貴女に一目惚れしましたっ!!もしよければ俺と付き合ってくれませんか!」
一度に溢れてしまった気持ちを告げると、奥の方で何やら女性達がこちらを見て盛り上がっている。もしかして、ここの店員さんだろうか。
「............」
「...あ、あのー...?」
彼女は驚いたまま、何も言わない。
もしかして振られたのか、そう思っていると彼女の口が開く。そして俺は聞いてしまった。
「俺...男なんですけど、知ってましたか」
衝撃の真実を。
「...え?えぇ!!?」
「やっぱり...」
美しい顔から、男性特有の低い声が何度も再生される。まさか、本当に?
「すみませんッ!!俺知らなくて!!!」
「ぁー...大丈夫です。よくあることなんで」
はは、と苦笑いをされる。
......いや、でも。
「でも、俺......貴方に一目惚れしました!!俺と付き合ってもらえませんか!!」
「無理です」
「なんでぇ!!!」
「なんでって......よく知らない人に付き合ってくださいなんて言われても、はい。わかりました、なんて言うわけないですよね」
「じ...じゃあせめて名前だけでも!!!」
「えぇー...」
「お願いします!!俺ここ通いますから!!」
「......雪(ゆき)です。あなたは?」
「!...海斗(かいと)です!!よろしくお願いします雪さん!」
「...よろしくね」
「あ!俺大学あるんで行きます!!では!!」
俺は急いで花屋さんを出た。
結局、いつもと変わらない時間になってしまったが、今日の遅刻は特別だなと感じた。
「よかったね~雪ちゃん!」
「良くないですよ言葉(ことは)さん......変なのに好かれちゃいました...」
「応援してる」
「氷華(ひょうか)さんまで...」
お題 「安らかな瞳」
出演 海斗 雪 言葉 氷華