夜、彼の家のソファでゆっくりしていると、仕事部屋からノートパソコンを持った彼が出てきた。
「あれ?終わったの?」
「いや、ここでやろうかなって」
「ほえー...私邪魔じゃない?」
「別に」
「......私が行こうか?」
「ここでいい」
「あっ......そう...」
彼はテーブルの上でパソコンを開くと、カーペットの上に座って作業を始めた。
カタカタとキーボードを叩く音だけが響く。
私はスマホを見るのを止めて彼を観察する。彼は作業中、肩まである茶色の髪を一つに束ねる。そしてコンタクトから黒縁の四角眼鏡へと変える。
(...あ)
束ね忘れだろうか、左側の髪だけ垂れている。
私はなんとなくの出来心で、その髪に触れた。
(サラサラ~...)
何回かブリーチをかけていると聞いたが、そんなの微塵も感じさせないような触り心地だ。
(髪、綺麗だなぁ...)
なんて事をぼんやりと考えていると、ぱっ、と彼が驚いた様にこちらを向く。
「えっ、わ、ごめん。邪魔だったよね」
「...ううん。ありがと」
「ん?なんで?」
「髪、褒めてくれたでしょ?」
「聞いてたの!?」
「口に出てたよ」
私は頭を抱えた。まさか口から出ていたとは。
「いやっ、髪だけじゃないから!全部!全部綺麗だからっ!」
「そんなに焦らなくても、お世辞なら大丈夫からね」
「お世辞じゃないし!髪だけって勘違いされたくない!!」
「えぇ...?」
「玲人(れいと)は全部綺麗です!異論は認めませ~ん。本人でもで~す」
「.........」
「あ!こいつアホだなって思ったでしょ!!顔に出てます!!」
「アホじゃないよ、漢字の阿保」
「一緒ッ!!!」
彼はパソコンを閉じて隣に座る。
「あ、仕事いいの?」
「うん。明日の分だしね」
「......私、邪魔した?」
「だから邪魔してないって、もう。くらえっ」
「いてっ」
私は彼から拳を肩に軽くぶつけられる。
「勘違いしまくった罰」
なんて笑いながら答える。む、可愛い...
「葉瀬(ようせ)も、髪サラサラだね」
「へへ~ん!でしょー?ほらほら~」
「ん、むふっ、サラサラ」
「ふふふ~」
彼に髪を推すと頭を優しく撫でてくれた。
「...葉瀬も全部綺麗だね」
「ん?本当?ありがと!毎日手入れしてんだよ~?」
「髪もだけど、葉瀬自身もね」
「えぇ?玲人が綺麗だよ~一番綺麗!」
「ふーん、じゃあ」
彼は下から顔を覗き込むように私の顔を両手で押さえる。そして
「その思考回路してる葉瀬も、一番綺麗だね」
と、言った。
「...そう、かなぁ...?」
「うん、そうだよ。一番綺麗な俺が決めたんだから、葉瀬も一番綺麗」
私は既に羞恥心のボルテージは上がっていたが、このせいで更に上がってしまった。
「ぅーゎ......うーわ!キザだ!イケメンだ!破壊神め!!」
「は?破壊神??」
「キザいわぁ~罪だわぁ~」
「えぇ?俺は思ったことを伝えただけだよ?」
「はいそーゆーとこー!!罪!!罪です!!」
「なら葉瀬も罪だね」
「え?」
「葉瀬が最初に言ったんだよ、髪綺麗だなぁって」
「うぐっ!!!」
「でも嬉しかったから許すよ。葉瀬は俺を許してくれないの...?」
彼は私に上目遣いをする。
これは自分の顔がいいと分かっていないと出来ないことだ。イケメンがこの顔をするのは耐えられない。
「......許すぅ...」
「ふふっ、ありがと葉瀬」
「............愛してますぜ、玲人」
「...え、何急に」
「いーじゃないですかぁ~~玲人は?」
「...俺も愛してる、よ?」
「ふふ、ありがと」
「...こ、こちらこそ...」
お題 「ずっと隣で」
出演 葉瀬 玲人
Q,お金より大事なものってなんですか?
「そりゃあ勿論、玲人(れいと)だよね!もし玲人で金銭要求されたら幾らでも払うよ!まぁその前に潰す」
「お前...俺が恥ずかしくなる事をよくもまぁ堂々と......というか怖」
「当たり前じゃん!なんで恥ずかしがるの?逆に玲人は何だよ」
「.........葉瀬(ようせ)だけど...!」
「ほらね!...............ん?あれっ...?」
「私はやっぱり王道に愛とかじゃないかな?ほら、愛はお金で買えないって言うし」
「私は...時間かな」
「え?なんで?」
「だってお金があっても、時間が無ければそれを使う事が出来ないでしょ?お金を使うのは時間があるから出来ることなんだよ」
「流石優雨(ゆう)!凄い!私は思いつかなかったなぁ...」
「考え方は人それぞれだし、希里(きり)の答えもいいと思うよ」
「本当?優雨ありがとう!」
「真人(まひと)との友情!」
「え」
「な、なんでそんな顔するの!!?真人との友情だよ!?大事に決まってるじゃん!!」
「......そんなにか?」
「そ、ん、な、に!!!...友情はお金で買えない、友情は築くものだからね!真人は何?」
「俺は.........なんか陽太(ひなた)がそう言うから、俺も陽太との友情に思えてきた...」
「え!?本当!!?嬉しい!!」
「うーん...お客さんと氷華(ひょうか)の笑顔かなぁ...?お花で喜んでもらえるのを見ると、凄く嬉しいし...氷華はどう?」
「私は......お金かな」
「えっ、なんで?」
「だってお金さえあればお姉ちゃんは花屋を続けられるし、お客さんだってここにお花を買いに来ることが出来る。だから私はお金」
「...つまりは私の為って事...?」
「......そう、だね。うん。うん.........私、お姉ちゃんが一番大事」
「あ、え?お金は?」
「いらない」
「自分の命だよ。お金なんて、私達にとってはただの紙切れなんだから。人間さえ生きていれば、私達は飢えることがない。精々お金は、人間が生きるために必要だから大事ってことくらいかな」
「でもその人間を誘き寄せるには、お金が必要なんじゃないの?」
「それも一理あるね。でもどうせ一瞬でしょ?それに、最低一人でも生きていればいいじゃない」
「...そうだね。確かにいらないかも」
これを踏まえた上で問いに答えなさい。
A,(あなたの答え)
お題 「お金より大事なもの」
出演 葉瀬 玲人 希里 優雨 陽太 真人
言葉 氷華 ブロック・アンノウン
レリーレ・デアガイ
「玲人(れいと)大好きだよ」
そう言葉を投げれば君は恥ずかしそうにこっちを見る。
「何急に...」
「んー...言いたかっただけだよ?」
ふへへっ、と笑うと何やら不服そうにする。
「何々、嫌だった?」
「嫌じゃない......けど」
頬杖をついて彼を見ても、目を逸らされる。と思ったら再び目があった。
「...葉瀬(ようせ)ばっかりずるい」
と、頬を膨らませる。
可愛いなぁ、と見ていると
「俺は...もっと大好きだし、愛してるよ」
なんて爆弾が飛んできた。そして私は肘が机からがくっ、と落ちて机に顔を伏せた。
「ふっ...何今のっ...」
「ふ、ふふっ......」
彼が笑うから連れて私も伏せたまま笑ってみせる。
ずるいのはどっちだよ、ばーか。
お題 「大好きな君に」
出演 葉瀬 玲人
俺は直樹(なおき)君が大好き!
俺の事気遣ってくれるし、俺の好きなお菓子も作ってくれるし、俺の一番の理解者!
この前だって俺がお願いしたら特別にお菓子作ってくれるって言ってくれたんだ!優しいよね~
俺は初めてあった時から直樹君の事が大好きだよ!『軸がしっかりしてて、ダンスがぶれてない...凄いね!』って!!皆は俺の事、顔がいいねとか、イケメンだねとか言ってたけど、見た目じゃなくて中身で見てくれたんだ!あんなの初めてだよ!
メンバーと馴染めなかった俺の手を引いてくれたのも直樹君!居残りの練習に付き合ってくれたのも直樹君!
直樹君は俺の全てなんだよ!俺の人生の半分は直樹君で出来ているって言っても過言じゃないんだ!今、俺がこうして人気があるのも直樹君のおかげ!!ぜーーーっんぶ直樹君!!
でも直樹君は皆に優しいんだ。俺ばっかりじゃない。
誰かが居残り練習する時は必ず付き合ってるし、皆に差し入れでお菓子を作ったり、相談に乗ってあげたりしてるんだ。
凄いよね、だから俺の次に人気がある。人柄が出てるんだよ。
そのせいなのかな、皆にあの優しい笑顔を振り撒いてるんだ。お菓子が上手く出来て嬉しそうな顔とか、ダンスが上達してきて褒めてる顔とか、相談乗ってる時の天使みたいな微笑みとか。挙げるとキリがない。
あのね、直樹君。
俺は直樹君が大好きなんだ。
その笑顔も、優しさも、明るさも、向けるのは俺だけでいいんだよ。俺が特別なんだから。
直樹君、前に言ったよね『海里(かいり)は特別だ』って。
俺も特別だよ、直樹君。
早く俺の物になって.........ね♡
お題 「欲望」
出演 海里 直樹
「...ん」
俺は電車の揺れで目を覚ます。外はすっかり暗く...はなく、青く光る空が広がっていた。
青色に重なる様に流れる水色。混ざり始めた紺色。パチパチと弾ける銀色の小さな丸。
俺はその風景に見惚れていた。
列車に乗った記憶はない。俺が覚えているのは、スマホに向かって今日の小説を書こうとしていたことだけ。此処は一体何処だろう。
前に見た海の底とは違う、鮮やかな青色。
不思議と恐怖心は無かった。
「綺麗だな......」
まるで星空みたいだ。
俺は窓から身を少し乗り出して、前方を確認する。
驚いた、だって列車が宙に浮いているんだから。
「お客様、危ないですのでお止めください」
後方から声がして、車内に顔を戻す。
「すみませんっ......あの、この列車どこに行くんですか?」
「それは私にも存じ上げません。この列車は、今はまだ行き先が決まっていないのです」
「え?それって大丈夫なんですか?」
行き先が決まっていない、なんて。
俺が恐る恐る聞くと、彼は笑って答えた。
「えぇ、貴方様がいらっしゃいますからね」
俺がいるから?
...あぁ、そういうことか。
「では、引き続きこの『列車』をお楽しみ下さい。貴方様の旅路を終えるまで」
そう言って彼は去っていった。
俺は窓の外を眺める。
次は三月だ。
今月も、綺麗な色でありますように。
お題 「列車に乗って」