「...ん」
俺は電車の揺れで目を覚ます。外はすっかり暗く...はなく、青く光る空が広がっていた。
青色に重なる様に流れる水色。混ざり始めた紺色。パチパチと弾ける銀色の小さな丸。
俺はその風景に見惚れていた。
列車に乗った記憶はない。俺が覚えているのは、スマホに向かって今日の小説を書こうとしていたことだけ。此処は一体何処だろう。
前に見た海の底とは違う、鮮やかな青色。
不思議と恐怖心は無かった。
「綺麗だな......」
まるで星空みたいだ。
俺は窓から身を少し乗り出して、前方を確認する。
驚いた、だって列車が宙に浮いているんだから。
「お客様、危ないですのでお止めください」
後方から声がして、車内に顔を戻す。
「すみませんっ......あの、この列車どこに行くんですか?」
「それは私にも存じ上げません。この列車は、今はまだ行き先が決まっていないのです」
「え?それって大丈夫なんですか?」
行き先が決まっていない、なんて。
俺が恐る恐る聞くと、彼は笑って答えた。
「えぇ、貴方様がいらっしゃいますからね」
俺がいるから?
...あぁ、そういうことか。
「では、引き続きこの『列車』をお楽しみ下さい。貴方様の旅路を終えるまで」
そう言って彼は去っていった。
俺は窓の外を眺める。
次は三月だ。
今月も、綺麗な色でありますように。
お題 「列車に乗って」
2/29/2024, 4:31:48 PM