「......課題が終わらない...」
陽太(ひなた)は机の前で頭を抱えていた。
「だから早めに終わらせとけって言ったのに」
真人(まひと)は向かい側に座ってその様子を眺めていた。
「うぅっ...やろうとはしたんだよ!でもぉぉ」
「休みが終わる二日前にこれだけ残ってるとか、マジで絶望だな」
「もう無理だぁぁぁぁ諦めるぅぅぅ」
陽太は投げだし、床に寝そべった。
はぁ、と溜め息をつく真人。
「わ、わかったよ。やるよ、ごめんって」
「...終わった課題は?」
「え?」
「丸つけぐらいならしてやるよ」
「え!?本当に!!?」
「ハーゲンダッツ一個な。.........冗談だからそんな顔するな。いつものアイスでいいよ」
「真人ぉぉぉぉ神様ぁぁぁぁ」
「陽太、お前は口じゃなくて手を動かせ」
「あ、ハイ」
「...お......終わったぁぁぁぁ!!!」
最後の一問を書き終えると、陽太は両手を天井に向けて背伸びをした。
「良かったな」
「あれもこれも全部真人のおかげだよぉぉぉ!!!ありがとうな!!」
「俺丸つけてただけだけどな」
「だとしても、すげー助かった!!...そうだ!」
そこまで言うと、陽太は部屋を出て階段を駆け降り、急いでまた戻ってきた。
「これ、お礼!」
そう言って差し出してきたのはハーゲンダッツ。
「え、いいのか?それに俺が食べて...」
「おーっと?真人だけが食べるなんて言ってないよ?」
反対の手からもう一つのハーゲンダッツが出てきた。
「共犯になってくれよな」
「ん~幸せ~」
「...そういえば、夏休み明けたらテストあるけど陽太大丈夫か?」
「...............ハーゲンダッツ美味しいなー」
「おい」
お題 「現実逃避」
出演 陽太 真人
ねぇ、あの二人さ仲良くなったんだって。
俺は友達として凄く嬉しいことだよ。
でもさ、葉瀬(ようせ)はどうなの?ずっとあの二人のこと見てるけど。
本当は嫌なんじゃないの?拓也(たくや)と秋(あき)ちゃんがくっつくの。
俺、前に秋ちゃんと葉瀬が話してたの偶然聞いちゃったんだ。葉瀬も拓也が好きなんでしょ?今ではよくわかるよ。
だって今、凄く悩んでる顔してるよ。
俺、葉瀬のそんな顔見たくなかった。それが他の人に向けられてほしくなかったよ。
葉瀬は今どう思ってるの、なんて俺には聞く勇気がないからさ、出来ればタイミングが合った時に葉瀬から話してほしい。
ごめん、俺って凄く我儘だよね。
二人が仲良くなってくれて嬉しい。
秋はまだ自覚はしてないっぽいけど、拓也の事絶対好きだよね。拓也はわかりやすい。
両思いなのは凄くいいけど、ここにも居るんだよ。秋の想い人。
ね、玲人(れいと)。
前に聞いたタイプってさ、秋の事でしょ。わかりやすいなぁ。特徴一致じゃん。優しくて、綺麗で、可憐って、まんまかよ。
拓也の事、応援したい。でも私の好きな人の事も応援したい。
秋が羨ましいな。残念だけど、拓也の事は憎めないな。
好きな人の好きな人の好きな人?だから。これじゃよく分かんないな。複雑複雑。
ねね、玲人は今、この状況をどう思ってるの?って聞けたら楽なんだけど。
玲人も秋じゃなくて、私にすればいいのに。
なんて、欲張りかな。
お題 「君は今」
出演 玲人 葉瀬 秋(名前) 拓也(名前)
「実はさ、今日下駄箱にこれが入ってたんだ」
お昼休み、屋上でご飯を食べながら陽太(ひなた)は俺の前に一枚の封筒を見せる。
「...それが何?大事な物なの?」
「も~🐄真人(まひと)クンわかってないなぁ~(^o^;)そんなんじゃ駄目だゾッ❗陽太クンがメッ❗してあげるヨ☺️」
「無視して良い?」
「ごめんって!冗談だよ!」
俺は慌てる陽太を横目で見る。
「それで?...その手紙がなんなの?」
「これね、ラブレターだったんだよ。しかも匿名の」
「へぇ」
「もっと乗り気で!!SAY COME ON!それでそれで~!?」
「......それでそれでー」
「心のこもってない返事っ......まぁ宜しい。手紙にね『好きです。もし付き合ってもらえるなら、昼休みに校舎裏に来てください。』って書いてあったんだー」
「...今昼休みだけど良いの?」
「うん。俺、誰か分からない告白は最初から振るって決めてるんだ」
「なんで?」
「だって、誰から貰ったか分かるからこそ!その人から愛を受け取ったって感じるんだ~」
「の割りには誰からの告白も受けてないくせに」
「ギクッ。だ、だって好きな人いないし...」
「なんだそれ。じゃあそのラブレターの愛、俺に半分わけろよ。あと適当に彼女作れよ」
「それは駄目!俺の美学に反する!」
「めんどくさ」
「まぁ真人も告白されたら分かるよ。誰か分からない愛なんて、受け取っても手から溢れてるように感じる状況」
...それが、まさしく今なのか。
俺は今日の昼休み、大学の中庭に呼び出された。目の前で頬を赤らめた女性が何か言っている。
「あの...だから......私と付き合ってください!」
“誰か分からない愛なんて、受け取っても手から溢れてるように感じる状況”
本当、まさにその通りだ。
「...ごめん、付き合えない。というか君は誰?」
「お前、また振ったのかよ~真面目だよな~」
実(みのる)が俺に話しかける。
「一回くらい女の子と遊んでみたいとか無いわけ?それに、別に一回くらいならいいんじゃない?まぁお前が振ってくれるお陰で俺は女の子と良い感じになれるんだよなー.........っておい、無視すんな」
「......そういう実こそ、恋人大事にしないといけないんじゃないのか?いつか捨てられるぞ」
「それはないな。俺がいくら遊んでもアイツ怒んねぇし」
実は自信満々に答える。
「...俺、次の講義あるから行く」
「お、じゃーなー」
俺はコイツみたいにだけはなりたくない。
陽太の美学に、俺も反したくはないから。
お題 「Love you」
出演 真人 陽太 実
「え!?雪(ゆき)いつの間にアイツと別れたの!?」
「シィーッ...!!声が大きい...!」
「あ、ごめん」
居酒屋の一室、私は久しぶりに雪と飲みに来ていた。雪と私は友達で大学のサークルの飲み会で知り合った。偶然隣に座ってて、話すと似た者同士だったから意気投合したのがきっかけだったはず。
ちなみにアイツというのは雪の彼氏......現在は元カレである。名前は実(みのる)。
「...でも、あんなに言っても別れてくれなかったのになんで?...あ、ごめん。言いたくなかったらいいよ」
「ううん、聞いて欲しくてさ.........俺さ、大学で話してた時の実が超タイプでさ、もう本当に付き合いたいぐらいだったんだよその当時。でもな」
雪がグラスを回すと、氷がカラカラと音を立てる。
「…確かに葉瀬(ようせ)に言われた通り、夜遊びが超酷かった。でも俺好きだったから許してたんだよ...」
「あ、雪の悪いとこ出たよ。自分に悪いことされても、好きな人には強く言えないとこ」
「うぐっ...」
「で、それで?」
「......許してたんだけど、この前の一年記念に俺とした約束守ってくれなくて。俺、気づいちゃって。『あーあ、俺が好きなのは付き合ってる実じゃなくて、憧れてた実だったんだな』って。そこからなんか...さ...」
雪はそのまま机に顔を突っ伏した。
「......そのまま別れよう、って言って飛び出してきちゃった」
「あー、雪の良いところ出たよ。そうと決めたら思い切るところ。私は好きだよ」
私はそう言って突っ伏したままの雪の隣に座って、背中をとんとん、と優しく撫でた。
「...未練あるんだけど......」
「忘れなーーあんな屑野郎。男なんてね、星の数ほどいるんだから。雪は顔も良いし、何でも出来るし、きっと次は上手くいくよ」
「......本当か?」
「逆になんだと思ってるんだよ。私より顔良いんだから、ふんだんにそれ使いなー」
そうやって暫くぽんぽんと撫でていると、雪は落ち着きを取り戻したのか机から起き上がった。
「お?」
「...メイクする」
「ん?」
雪はすっ、と立ち上がる。そして
「俺メイクしてめっちゃ顔良くして実に『あんな素敵なやつに振られちゃったんだ』って思わせる!!」
と高々に宣言した。
「おー!なんでそうなったか分からないけどそのいきだー!応援するよー!!」
「流石俺の友達!!今日は飲も~!!」
「いえーい!」
なんでこうなったのか分からないけど、雪が元気になってくれて良かったと思った。
お題 「同情」
出演 葉瀬 雪
「う゛......寒...」
買い物帰り、突然吹いた風に彼女はスーパーの袋を持って身を縮こませている。
「...あ、見てみて~」
彼女はしゃがむと一枚落ちた葉っぱをつまみ上げる。
「玲人(れいと)とおんなじ色~」
そうやって見せてきたのは茶色の乾燥した葉っぱ。俺の髪色と似ていた。
「似てるね~」
「でしょ~持って帰る」
そう言って彼女は葉っぱをコートのポケットに突っ込んだ。俺が気づいた時には遅く、彼女のポケットから、クシャッと音がした。
「ん?」
ポケットから手を取り出すと、それはまぁ粉々でばらばらと溢れ落ちてきた。
「...!......!...!」
あまりにもショックだったのか口をぱくぱくとさせるだけで、なんだか可哀想に見えてきた。
「せ...折角拾ったのにっ......」
「あ、はは......」
「うわぁ、コートのポケットが......」
次にコートのポケットを見て絶望していた。
「乾燥した落ち葉は割れやすいんだよ」
「......忘れてた...」
「こういう乾燥した落ち葉で焼き芋とか焼いてたよね」
「あぁ、懐かしい」
「懐かしいっていつの時代だよ」
「弥生」
「そこは縄文じゃないのかよ」
軽口を叩きながら並木通りを歩いた。
そこで再び風が吹く。
「うぇっ、寒」
「うぐっ」
マフラーに顔を埋め、また身を縮めている。この時だけ、俺は身長で彼女に勝てる。
「......寒い」
「そうだね」
「.........手繋いで帰った方がいいんじゃない?」
「......え?」
驚いて俺が向くと、頬を赤くした彼女がいた。じっ、とこっちを見つめてくる。これは、稀に見る彼女のデレ隠し。普段こんな風に甘える事がないからちょっと嬉しい。
「...そうした方がいいかもね。はい」
「え、本当?わーい、寒いからポケットに入れるね~」
彼女は嬉しそうに俺の手を取ってポケットの中に二人分の手を入れた。
ガサッ、と音がした。
彼女は静かにポケットから二人分の手を出し、俺のコートに入れた。
「わーあったか~」
「今無かったことにしたよね?」
「ん?」
「いやおい」
ツッコミを入れて、俺達はそのまま並木通りを歩いていった。
お題 「枯葉」
出演 玲人 葉瀬