hot eyes

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一目惚れだった。

いつもは遅刻寸前の俺が、ちょっとだけ早起きして、ゆっくり大学へ行く。

ふと目に入った花屋さんに、その人はいた。

白い透き通るような肌に映える、赤い唇。艶やかな髪はかき上げられ、きりりとした眉毛が見える。

そして何より、その瞳だ。

愛おしそうに花を見るその姿は、まるでこの地に舞い降りた天使のようだ。


俺は気づいたら花屋さんに入っていた。

いらっしゃいませ、と遠くで女性の声が聞こえる。

俺は彼女を探した。


彼女は青い小さな花の前にいた。
「あ、あのっ」
俺が声をかけると、気づいたのかこちらへ向かってくる。
「俺、貴女に一目惚れしましたっ!!もしよければ俺と付き合ってくれませんか!」
一度に溢れてしまった気持ちを告げると、奥の方で何やら女性達がこちらを見て盛り上がっている。もしかして、ここの店員さんだろうか。

「............」
「...あ、あのー...?」

彼女は驚いたまま、何も言わない。


もしかして振られたのか、そう思っていると彼女の口が開く。そして俺は聞いてしまった。


「俺...男なんですけど、知ってましたか」


衝撃の真実を。
「...え?えぇ!!?」
「やっぱり...」
美しい顔から、男性特有の低い声が何度も再生される。まさか、本当に?
「すみませんッ!!俺知らなくて!!!」
「ぁー...大丈夫です。よくあることなんで」
はは、と苦笑いをされる。

......いや、でも。

「でも、俺......貴方に一目惚れしました!!俺と付き合ってもらえませんか!!」

「無理です」
「なんでぇ!!!」

「なんでって......よく知らない人に付き合ってくださいなんて言われても、はい。わかりました、なんて言うわけないですよね」

「じ...じゃあせめて名前だけでも!!!」
「えぇー...」
「お願いします!!俺ここ通いますから!!」

「......雪(ゆき)です。あなたは?」
「!...海斗(かいと)です!!よろしくお願いします雪さん!」
「...よろしくね」
「あ!俺大学あるんで行きます!!では!!」

俺は急いで花屋さんを出た。

結局、いつもと変わらない時間になってしまったが、今日の遅刻は特別だなと感じた。




「よかったね~雪ちゃん!」
「良くないですよ言葉(ことは)さん......変なのに好かれちゃいました...」
「応援してる」
「氷華(ひょうか)さんまで...」


お題 「安らかな瞳」
出演 海斗 雪 言葉 氷華

3/15/2024, 6:20:04 AM