雪川美冬

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8/22/2024, 11:05:54 PM

ツンデレのツンは愛情の裏返し。ツン要素が強いほど素直に甘えてデレることのできない不器用でかわいい人なのだ。
僕の幼馴染はツン要素が9割のツンデレだ。
「はぁ?自惚れんないで、お前なんか嫌いよ」
だからこのツン要素しかない言葉も幼馴染なりの愛情の裏返し。でなければわざわざ一緒に登校するために迎えに来たりはしないだろう。
嫌いだと宣う相手を迎えに行く理由は嘘か、打算以外ないだろう。
そして僕は圧倒的に前者としか思いたくない。
「僕のこと嫌いなら先行けばいいのに」
「お前がわたしと一緒に登校したいと思って迎えに来たのだけど、違う?違うなら別に後々一人寂しく自分の言葉を悔やみながら登校すればいい」
うん、かわいい
そっか、僕が一緒にキミと登校したいのか。そうかそうか
「ごめん、ほんとはキミと一緒がいいです。でも迷惑かな?って」
あからさまな安堵の表情かわいい。
「迷惑なんて幼馴染なんだから今更よ。くだらないこと言ってないで早く準備して。わたしをいつまで待たせる気?」
ああー、本当に可愛い僕の幼馴染。
ちょっと上からなのも照れ隠しだよねかわいい。
そうなこんなで準備も終わり登校中。高校生にもなって幼馴染と登校なんてすれば周りからは揶揄いの眼差しで見られて冷やかされる。
でも僕はそこんとこちゃんと徹底している。
「女王さま、なんか飲みたいもんある?」
自販機の前を通れば問いかけ不機嫌顔でいらないと返された。
「前から思っていたけど、お前はわたしのこと高飛車で幼馴染を下僕としか扱ってない女にでもしたいの?」
「え?僕キミの為なら下僕にでも奴隷にでもなんにでもなるけど」
 あ、ちょっと照れた。
「じゃ、じゃあわたしがお前のこと……」
 これはそろそろデレるか?
「永遠に臣下としてそばに控えさせてあげるわ。感謝しなさいよ」
 わかりにくいがこれは恐らく、『永遠に一緒に居よ?」ってことなのではないか?
「一つ忠告よ。元来、女王様の臣下というのは高い教養が必要になるの、このままじゃ不釣り合いよ。釣り合いの取れる存在になりなさいね。これは命令」
うん、かわいい。
今日からキミは僕の幼馴染兼僕の女王さま。キミが認めたんだから撤回なんてさせてあげない。

8/17/2024, 5:15:48 PM

久方ぶりに帰った実家。
小さい頃から使っていた部屋に入って片付けを始める。
中学や高校の制服、教科書
本棚に入りきらない漫画と小説
わがままを言って貰った父の形見のラジカセ
昔好きだったゲームや好きなアーティストのCD
大好きな部活の先輩から卒業式に貰った造花の花束
子供の頃にクレーンゲームでとったたくさんのぬいぐるみ
初めてのバイト代で買ったノートパソコン
推しのライブチケットとたくさんのチェキ
たくさんの思い出とわたしの青春を詰め込んだ部屋
家出した時から何も変わっていない部屋
脱ぎっぱなしのパジャマも
飲みかけのアイスココアも
溢れかえったゴミ箱も
いろんな種類のお菓子が入った箱も
全部全部、あの日から時間が止まってしまったかのようにそのまま
家出した日、まさか母も姉も弟もみんな強盗に殺されちゃうなんて思いもしなかった。
ここに帰らなければ、いつまでも現実を見なければ、今もまだここで3人が暮らしているんだって思い込めた。
先日祖母がこの家を売るから必要なものを取りに来るように言った。
だからわたしは重たい腰を上げてここに戻ってきたけど、やっぱり来なければよかった。
この部屋にあるものは別にどうでもいい。けどこの家にある母の部屋も姉の部屋も弟の部屋も父の仏壇も、何もかも、わたしは捨ててほしくない。
いつまでも、捨てないでこのまま取っておいてほしい
そう、願ってしまうのだ


お題「いつまでも捨てられないもの」

8/16/2024, 11:23:27 AM

長い黒い髪に赤ピンクのインナーカラー
左耳につけたイヤーカフ
ぱっちり二重の大きな瞳
高い鼻
小ぶりな唇
口元に浮かぶエチチなホクロ
小さい顔
紫外線から守られた白い肌
ヒールで盛った少し高めの身長
ほっそりとしたほどよくには筋肉のある身体
女性らしさを強調する豊満な胸
色彩豊かに彩られた爪
黒を基準とした椿の花模様が描かれた麗しい和装姿
赤ピンクのインナーカラーをチラリ見せるように結われた髪に椿の花が咲き揺れるかんざし
腰元に帯刀された刀身長めの重たい刀
彼女は一変の隙も見せることなく敵を一刀両断してしまう。
彼女は口を開くと相手を貶すことしかしない
彼女は身内贔屓がひどい
彼女は何があろうと身内だけは守ってくれる
彼女は正しくボクの憧れであり誇りだった。
彼女の弟子でいられることが何より誇らしかった。
そんな彼女は今、失意の絶頂にいる。
彼女の師匠であり養父でもあった人が病気で亡くなってしまったからだ。
綺麗に整えられていた長い髪はボサボサ
いつでも色褪せることのなかったインナーカラーも色落ちしてきている
イヤーカフは外されて
ぱっちり二重の大きな瞳は半分までしか開けられず
小さい唇は乾燥してカサついて
ケアを欠かさなかった肌を放置して
ベットから出ることがないからヒールで背を盛ることもなく
筋肉は削げて脂肪へと変わり
爪も一切の色が無くなって
かんざしは机の上に
刀は壁に立てかけられ
和装はクローゼットの中に終われる。
彼女が引きこもって丸二年になった。
彼女の養母も養父の遺体と共に姿を消して帰ってこない

ボクの誇らしかった彼女はもうどこにもいない

お題『誇らしさ』

8/16/2024, 10:51:56 AM

カンカンと音を鳴らして踏切が閉じた。
しばらく待てばガタンゴトンと電車が走る音が聞こえてくる。
「なに、してるの…?」
プオーンと大きな音を立てながら電車は走る。
「まっ、待って。ダメ!!」
わたしが手を伸ばして彼女の腕を掴もうとしたら彼女はわたしの手を叩いた。
「……ばいばい」
そして人が一人簡単に電車によって弾き飛ばされた。

そこからの記憶は一切ない

気づけば精神科の病院でメンタルケアを受けていた。
わたしの口は重く閉ざされていて何も答えることはできない。
ただ空な目をして透明なキミを眺めているだけ。
キミはいつもボクを指差しながら薄っすら笑みを浮かべている。
何も話してくれない。
手を伸ばしても触れられない。
ただじっとそこにいるだけ。
わたしは毎日キミに話しかけた。
そんなわたしに先生は渾身的に話しかけた。
ある日病院を抜け出して夜の海を見に行った。
「キミは海が好きだったよね」
月明かりが照らす青い青い海
「自殺するなら入水自殺するのかと思ってた」
押しては引いてをくる返す漣の音
「キミが死んだのはわたしのせいだって言いたいの?」
そこで初めて透明なキミはいつもと違う動きを見せた。
首を一度だけ小さく縦に振って、ボクの問いに肯定した。
「キミが死んだのはキミのせい。自殺したのはキミ自身」
わたしは靴を脱いで海の中に足を付けた。
「だからわたしがこれからすることもわたしの責任」
一歩足を前へと進ませた。
「キミはどんな気持ちで線路に入ったの?」
また一歩足を進ませる。
「怖かった?」
一歩、また一歩、進めば進むほどわたしの足を撫でる水嵩が増えていく。
「わたしは、ちょっと怖いかもしれない」
腰近くまで海の中に入れば、少し大きな波が出てきた。
体の力を一瞬でも抜けば波に攫われてしまうんじゃないかと、それが怖くて足を踏ん張らせて連れ去られないように必死だった。
「ダメだね。ごめんね待たせて、すぐに逝くから」
その時わたしの背を遥かに超える高い高い波がわたしの視界を埋めた。
「夜の海は青くて怖くて……きれい」
わたしの体全てを波が覆い隠す。
波が岸までたどり着いた頃にはわたしの姿は夜の海の中へと消えた。



お題『夜の海』

8/13/2024, 2:00:42 PM

わたしはピアノを弾くことが大好きだった。
自由に好きなように、わたしの心のままに弾けば幼馴染が褒めてくれたから。
だけどピアノのコンクールで初めて賞を取ってから親の期待でわたしはピアノを弾くことを楽しいと感じられなくなった。
少しミスってもアレンジで誤魔化せば「すごいすごい」と褒めてくれた幼馴染と違って、先生は楽譜通りに弾くことを強要してくる。アレンジは楽譜通りに弾けた後だと
コンクールで賞を取れば取るほど、周囲の目が期待が重くて苦しくて辛くて、いつしかストレスになっていた。
中学生になったばかりの頃、急に耳が聞こえなくなった。
音が聴こえなくなった。
わたしは引きこもった。
昔のままただ楽しいと思いながらただ幼馴染のためだけに弾いていたあの頃のままだったら、こんな思いしなくて済んだのに。
コンクールに行ってみたい。
そう言ったのはわたし。でもわたしは参加したいなんて一言も言ってない。
こんなことになるくらいなら、こんなに苦しいのなら、いっそ弾けなければ良かった。
引きこもっているわたしを両親は無理やり病院に連れて行った。
お医者様は心の問題だと言う。
いつか聞こえるようになるかもしれないし、一生このままかもしれない


ある日、幼馴染が心配から家までやってきた。
「一生君の隣で聴いていたいと思うくらい
君の奏でる音楽がボクは好きだよ」
励ましの言葉だったのかもしれない。
けど、わたしは幼馴染のことを叩いてしまった。
無神経だと、人の気も知らないでと、叩いてしまった。
でも、今ではその言葉に感謝している。
昔みたいにキミだけのためにピアノを弾けるから
日弾いている限り、キミはわたしのそばからいなくならないから。

ねぇ、わたしの心を守ってくれているのはキミなんだよ?
キミがいないとわたし、もう、壊れちゃうかもしれない
あの言葉を勝手にわたしはプロポーズの言葉として受け取っていること、キミは知らないと思う。
けど、自分の言った言葉の責任はとってね、わたしの心のために


お題「心の健康」

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