お題「言葉はいらない、ただ・・・」
失恋をした。
10年も温めた初恋だった。
まぁ、だからどうというわけでも無いけれど、事実としてわたしは失恋をした。
ザーッザーッと降り注ぐ雨の中わたしは涙を隠すために傘を刺さずに立ち尽くした。
冷たい雨が10年もの間温めていた想いを冷やすかの様に体温を奪っていく。
夏の暑さ諸共、熱を奪って冷やしていく。
「バーカッ」
雨の音がくぐもり、冷たい雨が体に触れることがなくなったと思った途端頭の上から声が聞こえてきた。
「稚拙な言葉でしか人を嘲られない馬鹿が一体何しにきたの?」
目元を擦って涙を拭いた後で上を向けば幼馴染が傘を差し向けていた。
「ん?失恋した可哀想な子を慰めに、かな?」
「知らないの?『バーカッ』って言葉に人を慰める意味は無いこと」
「知ってるよ。でもまぁ、思ったよりも元気そうでよかった。雨の中泣いて立ち尽くす姿見てさ、あまりにらしく無いから落ち込んでるのかと思ってた」
傘を持つ反対の手でタオルを持ち顔や髪を軽く拭き上げてくれる幼馴染と他愛もない言葉を言い合う。
それだけで少し気持ちが楽になった。
「風邪引くよ?帰ろ!」
「放っておいてくれていいのに」
手を引き歩き出す幼馴染に向かって独りごちれば「バーカッ!!」ともう一度言われた。
わたしより成績悪い癖に
「好きな子のこと放っておくわけないでしょ?傷ついてる今がチャンスだと思って近づいたんだから。だからとっとと絆されてよ」
「…は?」
目を丸くして驚くわたしにしてやったりと笑う彼女
「はぁ?!」
わたしに傘を預けて傘の中から出る彼女は頬を赤く染めながら雨の中、手を差し伸ばした。
「絆されてくれる?」
「わたしたち、女の子同士で……」
「好きにそんなの関係ないでしょ?」
雨に佇む彼女は失恋という傷をあまりの驚愕から忘れさせた。
あっという間にわたしの心を満たして心臓は早鐘を打ち続ける。
戸惑うわたしに彼女は「覚悟しててね」と小悪魔チックな笑みを浮かべた
お題「雨に佇む」
もし、そうこれはもしもの話。
もし、好きな人が知らない人にLOVEの付く手紙をもらっていたら、どうする?
わたしは取り乱す。
友達に鬼電かまして
意味もなく歩き回って
変な妄想を繰り広げて落ち込んで
布団の中で大声を出して
そして一晩経つと無性に虚しくて気持ちは凪いでるのになんか落ち着かなくて、やるせない気持ちになる。
しばらくすると手紙を送っていた相手についてとことん調べ始めた。
名前、学年、趣味、特技、好きなもの、嫌いなもの、誕生日、身長、体重、スリーサイズ(推定)、誰と仲がいいのか、どんなタイプの人間なのか、住所、連絡先、SNS関連、その他etc
全部一日かけて調べて感じたことはやっぱり虚しさとやるせなさだった。
自分は告白する勇気も無くて、ただただ遠目から眺めているだけの癖して、勇気を持って伝えた人に対して何邪魔しようとしているんだろう?そんな権利も資格も何一つ持っていない癖に
お題「やるせない気持ち」
ツンデレのツンは愛情の裏返し。ツン要素が強いほど素直に甘えてデレることのできない不器用でかわいい人なのだ。
僕の幼馴染はツン要素が9割のツンデレだ。
「はぁ?自惚れんないで、お前なんか嫌いよ」
だからこのツン要素しかない言葉も幼馴染なりの愛情の裏返し。でなければわざわざ一緒に登校するために迎えに来たりはしないだろう。
嫌いだと宣う相手を迎えに行く理由は嘘か、打算以外ないだろう。
そして僕は圧倒的に前者としか思いたくない。
「僕のこと嫌いなら先行けばいいのに」
「お前がわたしと一緒に登校したいと思って迎えに来たのだけど、違う?違うなら別に後々一人寂しく自分の言葉を悔やみながら登校すればいい」
うん、かわいい
そっか、僕が一緒にキミと登校したいのか。そうかそうか
「ごめん、ほんとはキミと一緒がいいです。でも迷惑かな?って」
あからさまな安堵の表情かわいい。
「迷惑なんて幼馴染なんだから今更よ。くだらないこと言ってないで早く準備して。わたしをいつまで待たせる気?」
ああー、本当に可愛い僕の幼馴染。
ちょっと上からなのも照れ隠しだよねかわいい。
そうなこんなで準備も終わり登校中。高校生にもなって幼馴染と登校なんてすれば周りからは揶揄いの眼差しで見られて冷やかされる。
でも僕はそこんとこちゃんと徹底している。
「女王さま、なんか飲みたいもんある?」
自販機の前を通れば問いかけ不機嫌顔でいらないと返された。
「前から思っていたけど、お前はわたしのこと高飛車で幼馴染を下僕としか扱ってない女にでもしたいの?」
「え?僕キミの為なら下僕にでも奴隷にでもなんにでもなるけど」
あ、ちょっと照れた。
「じゃ、じゃあわたしがお前のこと……」
これはそろそろデレるか?
「永遠に臣下としてそばに控えさせてあげるわ。感謝しなさいよ」
わかりにくいがこれは恐らく、『永遠に一緒に居よ?」ってことなのではないか?
「一つ忠告よ。元来、女王様の臣下というのは高い教養が必要になるの、このままじゃ不釣り合いよ。釣り合いの取れる存在になりなさいね。これは命令」
うん、かわいい。
今日からキミは僕の幼馴染兼僕の女王さま。キミが認めたんだから撤回なんてさせてあげない。
久方ぶりに帰った実家。
小さい頃から使っていた部屋に入って片付けを始める。
中学や高校の制服、教科書
本棚に入りきらない漫画と小説
わがままを言って貰った父の形見のラジカセ
昔好きだったゲームや好きなアーティストのCD
大好きな部活の先輩から卒業式に貰った造花の花束
子供の頃にクレーンゲームでとったたくさんのぬいぐるみ
初めてのバイト代で買ったノートパソコン
推しのライブチケットとたくさんのチェキ
たくさんの思い出とわたしの青春を詰め込んだ部屋
家出した時から何も変わっていない部屋
脱ぎっぱなしのパジャマも
飲みかけのアイスココアも
溢れかえったゴミ箱も
いろんな種類のお菓子が入った箱も
全部全部、あの日から時間が止まってしまったかのようにそのまま
家出した日、まさか母も姉も弟もみんな強盗に殺されちゃうなんて思いもしなかった。
ここに帰らなければ、いつまでも現実を見なければ、今もまだここで3人が暮らしているんだって思い込めた。
先日祖母がこの家を売るから必要なものを取りに来るように言った。
だからわたしは重たい腰を上げてここに戻ってきたけど、やっぱり来なければよかった。
この部屋にあるものは別にどうでもいい。けどこの家にある母の部屋も姉の部屋も弟の部屋も父の仏壇も、何もかも、わたしは捨ててほしくない。
いつまでも、捨てないでこのまま取っておいてほしい
そう、願ってしまうのだ
お題「いつまでも捨てられないもの」