雨。とめどなく降りしきる雨。
そんな雨の中、私は閑散とした街を彷徨った。
全身びしょ濡れで、身体の芯から冷え切って、寒さで震えながら歩く。
「………っ……」
涙を流しても、嗚咽を溢しても、ザーザーと空から降り注ぐ雨にかき消される。
頭を冷やしたかった。
辛い現実から目を背けたかった。
泣いている姿を見られたくなかった。
だから私は家に誰もいない今日、外に出て雨に打たれている。
夜も耽った頃に家を出て、もう何十分何時間、外を彷徨い続けているのかわからない。ただただ無心で嫌な事を目を背けたい現実を雨に洗い流して欲しくて気が晴れるまで外に居続けている。
それなのに、心は洗われない。
今まで堰き止められていた感情が涙となって溢れ出る。
帰りたくなくて
辛くて苦しくて
もう嫌で嫌で仕方がない
それでも雨が降り止むまでにはあの人は帰ってくるから、何事もなかったかのように家に帰って、首輪と鎖を繋ぐしかない。
せっかく外に出られたのに心は檻に閉じ込められたまま
腕にも脚にもお腹にも背中にも身体の至る所に浮かぶ痣。
鎖骨に胸に無数に存在する小さな火傷の痕。
腕や脚や顔にある薄く皮膚を切られた痕。
全部全部、あの人にやられた疵。
破瓜の痛みでさえもあの人に味わわされた。
人間としての尊厳なんてとっくの昔に奪われてしまった。
もう辛くて悲しくて苦しくて限界を超えてて嫌なのにっ、恨んだり憎んだりすることさえできない。あの人の元から逃げ出すこともできない。
なぜなら……恐い、から
外に出たことも知られたらどうなるかわからない。
だから早く帰らないといけない。なのに、足は家から遠ざかるように歩みを進める。
顔を上げて分厚い灰色の雲を見つめた。
むかし、まだ小さな子供の頃。絶望も恐れも真の意味で知ることのなかった頃。無邪気に笑えていた頃。
あの人がまだ居なかった頃、ちょっとした些細な理由で親と喧嘩して家出したあの時に、君と見た虹がとてつもなく綺麗だった事を覚えてる。
あの日、私を探している最中に両親は事故で亡くなってしまった。
引き取られたあの人の家では、地獄のような毎日を送っている。
きっと、罰なのだろう。
両親を死なせてしまった私への神様が与えた罰。
叶うなら、どうかお願いします。
あの日、雨上がりに君と見た虹をあの美しい虹の光をもう一度、君と見られますように。
その願いだけで、その願いを持つだけで、一縷の希望を縋るかのようにして、私は生きていける。
あの地獄に耐え忍ぶことができる。
だから、帰らないと
『君と見た虹』
2/23/2025, 4:56:17 AM