雪川美冬

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わたしはピアノを弾くことが大好きだった。
自由に好きなように、わたしの心のままに弾けば幼馴染が褒めてくれたから。
だけどピアノのコンクールで初めて賞を取ってから親の期待でわたしはピアノを弾くことを楽しいと感じられなくなった。
少しミスってもアレンジで誤魔化せば「すごいすごい」と褒めてくれた幼馴染と違って、先生は楽譜通りに弾くことを強要してくる。アレンジは楽譜通りに弾けた後だと
コンクールで賞を取れば取るほど、周囲の目が期待が重くて苦しくて辛くて、いつしかストレスになっていた。
中学生になったばかりの頃、急に耳が聞こえなくなった。
音が聴こえなくなった。
わたしは引きこもった。
昔のままただ楽しいと思いながらただ幼馴染のためだけに弾いていたあの頃のままだったら、こんな思いしなくて済んだのに。
コンクールに行ってみたい。
そう言ったのはわたし。でもわたしは参加したいなんて一言も言ってない。
こんなことになるくらいなら、こんなに苦しいのなら、いっそ弾けなければ良かった。
引きこもっているわたしを両親は無理やり病院に連れて行った。
お医者様は心の問題だと言う。
いつか聞こえるようになるかもしれないし、一生このままかもしれない


ある日、幼馴染が心配から家までやってきた。
「一生君の隣で聴いていたいと思うくらい
君の奏でる音楽がボクは好きだよ」
励ましの言葉だったのかもしれない。
けど、わたしは幼馴染のことを叩いてしまった。
無神経だと、人の気も知らないでと、叩いてしまった。
でも、今ではその言葉に感謝している。
昔みたいにキミだけのためにピアノを弾けるから
日弾いている限り、キミはわたしのそばからいなくならないから。

ねぇ、わたしの心を守ってくれているのはキミなんだよ?
キミがいないとわたし、もう、壊れちゃうかもしれない
あの言葉を勝手にわたしはプロポーズの言葉として受け取っていること、キミは知らないと思う。
けど、自分の言った言葉の責任はとってね、わたしの心のために


お題「心の健康」

8/13/2024, 2:00:42 PM