カンカンと音を鳴らして踏切が閉じた。
しばらく待てばガタンゴトンと電車が走る音が聞こえてくる。
「なに、してるの…?」
プオーンと大きな音を立てながら電車は走る。
「まっ、待って。ダメ!!」
わたしが手を伸ばして彼女の腕を掴もうとしたら彼女はわたしの手を叩いた。
「……ばいばい」
そして人が一人簡単に電車によって弾き飛ばされた。
そこからの記憶は一切ない
気づけば精神科の病院でメンタルケアを受けていた。
わたしの口は重く閉ざされていて何も答えることはできない。
ただ空な目をして透明なキミを眺めているだけ。
キミはいつもボクを指差しながら薄っすら笑みを浮かべている。
何も話してくれない。
手を伸ばしても触れられない。
ただじっとそこにいるだけ。
わたしは毎日キミに話しかけた。
そんなわたしに先生は渾身的に話しかけた。
ある日病院を抜け出して夜の海を見に行った。
「キミは海が好きだったよね」
月明かりが照らす青い青い海
「自殺するなら入水自殺するのかと思ってた」
押しては引いてをくる返す漣の音
「キミが死んだのはわたしのせいだって言いたいの?」
そこで初めて透明なキミはいつもと違う動きを見せた。
首を一度だけ小さく縦に振って、ボクの問いに肯定した。
「キミが死んだのはキミのせい。自殺したのはキミ自身」
わたしは靴を脱いで海の中に足を付けた。
「だからわたしがこれからすることもわたしの責任」
一歩足を前へと進ませた。
「キミはどんな気持ちで線路に入ったの?」
また一歩足を進ませる。
「怖かった?」
一歩、また一歩、進めば進むほどわたしの足を撫でる水嵩が増えていく。
「わたしは、ちょっと怖いかもしれない」
腰近くまで海の中に入れば、少し大きな波が出てきた。
体の力を一瞬でも抜けば波に攫われてしまうんじゃないかと、それが怖くて足を踏ん張らせて連れ去られないように必死だった。
「ダメだね。ごめんね待たせて、すぐに逝くから」
その時わたしの背を遥かに超える高い高い波がわたしの視界を埋めた。
「夜の海は青くて怖くて……きれい」
わたしの体全てを波が覆い隠す。
波が岸までたどり着いた頃にはわたしの姿は夜の海の中へと消えた。
8/16/2024, 10:51:56 AM