雑穀白米雑炊療養

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4/27/2024, 7:09:05 AM

塩水が乾き濃縮された塩田、そこに湖の様に溜まった雨水が夜天を映す。星の降りしきる空は暗く、冷えた夜の大気は呼吸の度に体温を奪う。
流星は願いを叶えるとも言うが、人の死と繋げて考えられる事も多い。落ちる星が自分の星でないよう祈る話もある。もう随分昔に、ここで友と共に見た一つの流星は、その友の星であっただろうか、それとも己の星であっただろうか。流星を見て間もなく戦火に巻かれ、友のその後は知れない。自分はその時に親兄弟をなくし孤児となった。
流星というのはすぐに燃え尽きるか、人の目に触れず確認されないだけで一日に数え切れない程落ちている。落ちる星が人の命なら、目に見える程の降り続ける星ゞは未だ続く戦争によるものだろうか。兵士も一般人も、大人も子供も死んでいく。
自分の願いは自分のものだ、誰かの、自分の外にある星には願わない。ここに居るのは己の未練だ。己が方をつけるべきものだ、頼るものは自分だ。今までもそうだった。友を失くし、家族を亡くし、ただ一人となり頼れるものは己が身一つだった。
流星は燃え尽きても塵を残す。何も残さないわけではないのだ。誰にも知られず消え入ろうと、残るものはたしかに在った。誰にも知られたくなくても、ほんの砂一粒と言えるほどのものだろうと、何も残さずに行くことは出来なかった。たとえどのような姿を取ろうと、生きたことがいずれは他の誰かの道を示す輝きになる。地図も羅針盤も無く先の見えない暗闇でも、星と地形を見定めれば進むべき道がわかる。己の現実と、星から発された光を導に自分は生きぬいた。自分以外の誰にもわからないことだ。
どれもすべてを知られる必要はなく、この先詳しく知られることも無いだろう。それでも、枯れた植物も養分となって巡るように、たしかに在った存在が遺していったものが、多くの存在に役立つように自分は願う。いずれ人を生かすものの一つとなるように。

4/25/2024, 9:54:03 AM

思い付きはしたものの書けなかったので予定は未定として

4/24/2024, 8:49:48 AM

白く、広さの測れない霧に満ちた空間。その内でも一番霧が薄いだろう所に深さの知れない水溜りが ある。その不自然に凪いだ水面に、淀みは乖離することもなく、ドロリと境目の取れないマーブル模 様を浮遊させる。淀み模様は濁った七色の油脂光沢を湛え、凪は麻薬のように遊離感を訴え る。これらは大概いつも変わらず時折蓮の葉と水草のようなものが浮く。己はその水溜り緑の、足場 がまだある場所が基本の立ち位置だ。
己の心は表面の凪と淀みに遮られ感が見えない。底を確かめようと手を突っ込めば、どれほど沈み込 むかもわからない、深く水底近くから伸び出る無数の形の定かでない泥のような叫びの腕が、己を水 溜の底へ引き摺り込もうとする。それ故になかなか見るというのが難しい。だが避けていると淀みが 増していく。腕を見ないよう、触れないように慎重に探れど、水中は一寸先も見えないような濁りに 覆われ良く見えない。探索の際は大概手探りに、溜まりの外郭伝いに潜る。
しかし時折一瞬だけ、極小の一部分のみ曇りが途切れる事がある。その一瞬だけは、深く潜らずと も、ともすれば水面からでも、底の一部を垣間見ることができる。見える水底は瓦礫が積み重なり、 どうやら真の底ではない。泥腕はその瓦礫の中から伸びている。水よりも瓦礫よりも下から浮かぶも の。泥腕を辿るか、開いてみてみれば心底を覗けるだろうか。だが泥腕は底へ底へと引き摺り込む、 あまりに急激すぎるのは自分はまだ息ができない。まずは泥腕の観察が先だろうか。暫くは様子見が 良いか。
今日はまだ潜っていない。模様は今のところ鈍曇りである。

4/22/2024, 2:44:03 PM

生きる。たとえこの生き方が間違いだったとしても。何を知ることも、見ることもなく、ただ生きもせず死ぬことは、己が許さない。
地を這い泥を啜り血を吐いても、それでも死が己を救うことはない。己が己を赦さぬ限り。己を赦せぬ悲劇に浸り続ける限り。
いつの日か己を、この己をも赦せたら、その時こそ真に死ぬことができる。
胸を張っての凱旋となろう。

4/20/2024, 8:28:04 AM

最近足元がおぼつかないような感覚がする。気味の悪い浮遊感がある。
どうも人の気配の掴めない、山奥のこの屋敷は自分の家だ。現在居る部屋は書斎で、この部屋は広さに対してあまり明るくない。照明は最低限、窓はやや大きめの枠のものが一つで、最近は照明もつけられず、その窓から入る光だけが頼りだ。その死角は必然的に暗くなる。そんな暗い部屋の隅の方で学友が蔵書を漁っている。少し前に予知、予言者のバイタル、心理分析と統計がどうとか言っていたので恐らくその手の本を物色しているのだろう。学友は時折本の背表紙を払うような動きをしている。
自分はこの家の人間には避けられ気味で、時折家に来るこの学友以外とはふたりきりで居ることは殆ど無い。仲の良い他者の動きがある空間は割と良いものだなと思う。
「お前は未来を見たいと思うか」
唐突に長く続いた静寂を破られ、嫌に淡々とした空気で問いかけられた。
「急に何だよ」
「気になって」
突然の話に考えあぐねる。自分は特段未来というのに興味はない。ただ未来の事を考えても知りたいことを知れるわけでも、美味い飯が食えるわけでもないので、将来を見越した利害の話以外では余り考えたことはない。未来を見るというのも考えなかった。
やや考える。
そもそも未来は神と同程度に不確定で、考えたとて詰まることが無いような気がする。そうとも言えるような未来を見るとすると、一つ言えるのは、極めて稀有なことに集中の一点の身の上でありながら通常より多くただ一つの自身、その死を経験ないし傍観できることだろうか。それはそれで面白そうな気がする。それが見える時点で一点から逸脱しているかもしれないが。
「死を探すなら見るかもしれない」
やや考えてぼんやり思ったことを言った。余り褒められたことではない。元来自分はあれこれ考えるよりも直観的に思ったことの方が多く出る質だった。
「探そうと思うのか」
さっきから妙に平坦な声色だ。部屋の暗さもいや増しているような気がする。
「探すっていうなら未来を見たらだめじゃないか?」
お前のものだし、と学友は続ける。
「そもそも死って探すものか?最初から持ってるだろう」
いつも聞く声よりも少しトーンが低い。違和感、自分の内に少しばかり困惑があるような気がする。なにか落ち着かない。
「探す、死を探すって言うより自分を探すのか。なんでここに居るのか解らないからか」
困惑は己の脳に混乱をにじませた。何度も同じことをしている気がする。
「俺は随分お前を探した。ここに居るとは思わなかったが」
探す。そこまで探されるほどのことはここ最近はなかった。レポート提出のために情報、意見交換をするため頻繁に顔を合わせている筈だ。それに提出期限にもまだ余裕はある。
ここに居るとは思わなかったと、確かにこの書斎に入るのはほぼ無いが、この屋敷は自分の暮らす家だ、居ると思わない訳はないのではないか。
「もう30年だ。ここに人間がいなくなってからは10年」
学友はいつの間にか中年のような姿になっていた。部屋は長く手入れされていないが如く劣化も甚だしく、本棚の本は疎らになっている。
「聞いた話だと、お前は街に用事足しに行くと言って出たっきり帰ってこなかったそうだ。誘拐か遭難かもはっきりしていない」
確かに家の清掃を任せられていた使用人に外出の旨を伝え屋敷を出た。その後の道中で突然意識を失った。誘拐でも遭難でもない。
「最初からここに居る」
自分は道中の林道で後ろから鈍器で殴られ、頭蓋が陥没し、脳が損傷した。やったのは直接面識のない同級生だった。その同級生は外出を伝えた使用人の息子だ。もう死んでいる、自殺だった。
「自分はこの下にいる」
学友は自分が指し示した所を静かに見た。己の視界が白む。
「わかった」
返事の声を聞いたところで、自分の意識は緩やかに沈んだ。

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