空が泣く、傷の空ろが泣いている。
「そうか、無能か。無能とな…」
枝葉に止まった閑古鳥が金切り声を上げている。暇を余して早贄を稚拙に模倣しようとしているが、そもそもその習慣習性のない種族にはできるものではない。鬱血は大分吐き出したがまだ全てではない。自罰の奨励は是非を問うべきものではない不毛さだ。それを称えるのは的を外したナポレオンのようだろう。あるいはネルソンか。幾世紀も称賛を流すのは意図的で装飾性の高いコラージュかもしれない。
「中途半端に有能よりただの無能であるほうがよほど幸せかもしれない。まあ無能というのもナンセンスな表現かもしれないが」
能のない素振りもお役目なのだろう、演目の完遂には一つ欠けても足りはしないのだし。しかし傷口に塩を塗り込むのは皆好きだろう。思慮深くあっても無思慮であっても生きた先の大輪を見るのだから。だからこそ草木を育み育てるを誠心誠意、誠実に真心のまま、嫌味でない傑作を演じきれる。
「しかしほんの少しの裂傷を自ら裂いて広げようとするのは頂けない。君があまりやりすぎては諸共に死ぬのだが」
閑古鳥が居住まいを正す。
「不幸は安心するんだ、もう先がないから諦めがつく。そこまででなければ肯定できるものが何も無い、そこまでだったら泣きたいだけ泣けるような気がするんだ。知りもしないからこう言える。…怖いんだ、本当に。いつ足元が崩れるかわからない、引きずり込まれるのが怖いんだ。屑は地獄に落ちるって、みんな言ってたんだ。それが怖い、だがそうでないのも怖い。みんなから聞いていた道理と合わないんだ」
「それは伝聞を思い込んでるだけだ」
「でも本当に分からないんだ…どこか納得してないところもあるんだ、なりたくないのも本心だし、とても嫌なんだが」
長らく深呼吸。
「何回目だ?前を悔いるのか今回を嘆くのか、何やってるのか俺もお前もわかってない。いつまでやるんだ?」
「…まだ良くわかってないので」
閑古鳥に少年は暫し呆れた。
死んだ音の転調を取る幻。生き死にを誤認した目、死んだという錯視と生きているオカルトの幻を未詳のものに加工して冷や汗を流し泥を啜る。鼓膜を破る過呼吸と性感が全身を痙攣させ血液が滞留する。手指の痺れと目の霞は引き返さない。嘔吐と怒声は凝固する。瀉血を吐瀉に変化し未詳細へ化学反応させる。球状の四角形をした球形は中心点の無形の正形、天頂は全方十字の交差点に取り、矛盾しない矛盾をまとめて濾過しようと試みる。シミュレーションの透過すべきが澄んでいるならば瞳の姿は必要ないと信奉する。
私の当たり前。他人に毒を流す。自分を腐らせる。見えるものに、見るものに、虫が。影で笑われるような気がする。それはないと解ってはいるが所在ない不安に急き立てられる。被害妄想だけならばいっそ思い込めれば楽ではあるのかもしれないが、虫が湧く、腐らせるのは看過できない。私にとってトラウマなのだ、それは。
目が覚めて誰もいないような孤独に一瞬怯む。ただ一瞬過るだけの恐れに過ぎず、誰も居ないわけではないことは直ぐに分かる。そしてそれは幻ではない。
幻であってほしく、かつ実際には本当に幻であるのは、先の虫、そして自分の居る場がズレて、戻れなくなることなのだ。
これは私の強烈な恐怖と感情的な、願望の再生に過ぎない。己は、己が己を虐げることを許している。真に復讐を望むものは、とうに過ぎ去ったときの人間であり、現在に振り向けることは八つ当たりに過ぎない。ならば、其処に残る私が恨む者は、己以外に存在しない。残念な自家発電だな。
暑い。日に焼かれた肌に汗が流れる。音量を上げたラジオから遍くへ知らす声が、数多落命を抱え日 と一幕の終わりを告げる。空は抜けるように青かった。
世界は汚れていると無垢に謳う。自罰を人に被せ、今も自己否定を繰り返す。悦に入るマゾヒズム。わからぬ価値を幻に定る、はぐらかしのための安酒と薬と自慰。薄々理解している。動くための自を見出すのも嫌悪のうちにできず板挟みに。
覚悟も無く無垢に蹲る。