びいどろ

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4/8/2026, 12:16:44 AM

#沈む夕日

沈みゆく夕日を背に、貴方は振り返ることもなく遠ざかっていく。
その背中が、どうしようもなく綺麗で、残酷で、目を逸らせない。

手を伸ばせば届く距離だったはずなのに、指先は空を掻くだけで。
掴みたい、引き止めたい、ここにいてほしい――
そんな願いばかりが胸の奥で渦巻いて、けれど同時に、それをしてはいけない理由も知っている。

貴方に触れてしまえば、きっと何かが壊れてしまう。
今の関係も、この静かな距離も、全部。
だから、ただ立ち尽くして見送ることしかできない。

明日になれば、何事もなかったように朝日は昇って、また貴方に会える。
同じ言葉を交わして、同じ距離で笑い合って。
それでもこの夜だけは、どうしても誤魔化せない。

静かで、息が詰まるほど美しいこの時間の中で、
貴方のことばかりを考えてしまう自分が、嫌になるほど愛おしくて、苦しい。

届かないと分かっているのに、
それでもまだ、手を伸ばしてしまいそうになるのです。

4/1/2026, 12:37:02 PM

#エイプリルフール

エイプリルフールの日は、貴方が嘘を持ってくる日だった。
午後になればネタばらしして、笑い合って終わる
——そんな約束だった。

……もう、何時だっけ。

まあ、いいか。

別に、急がなくてもいいよ。
ただ、少し長いなって思っただけ。

貴方は、外に行きたいって言ってた。
広くて、自由な場所に。

ちゃんと覚えてるよ。
何回も聞いたから。

だから、多分これは嘘なんだと思う。
そうじゃないと、
こんな、静かで、狭くて、声を出してもどこにも届かないみたいな場所にいることの辻褄が合わないし。

花に囲まれてるのも、綺麗だと思う。
でもそれは、ちゃんと空があって、風が吹いてる場所での話で。

こんな、触れたら壊れそうな距離じゃなくて。

ねえ。

まだ、終わらないの。

待つの得意じゃないの知ってるでしょ。
それでも、ずっと待ってるんだよ。

貴方が「嘘だよ」って笑ってくれるの。

もう十分だから。
お願いだから、早く教えてよ。

3/31/2026, 2:26:57 PM

#幸せに

幸せの定義なんて、未だに分からない。

息をしているだけで満たされる人もいるらしいし、
温かいご飯に頬を緩める瞬間だと言う人もいる。
眠りに落ちる安らぎを、それだと信じている人もいる。

でも、どれも少し遠い気がしてならなかった。

ただひとつだけ、確かな形を知っている。
――貴方に、選ばれること。

隣にいてもいいと許されて、
名前を呼ばれて、視線が重なる。
それだけで、世界の輪郭はきっと優しくなる。

それだけで、世界は意味を持つはずだった。

……けれど、それはきっと、貴方の幸せじゃない。

貴方の目が追いかける先にいる人を、
どうしても、綺麗に祝福することができない。

醜いって分かってる。
それでも、この感情だけは捨てられない。

多分、これだと幸せになれない。

だからせめて、
貴方だけは――どうか、幸せでいて。

3/30/2026, 11:16:17 AM

#何気ないふり

貴方は、何気ないふりが上手すぎる。

聞いてしまった。
「あいつ、お前のこと好きらしいよ」って、あんな軽い声で大切な事を。

その瞬間の貴方の顔、ちゃんと見てたよ。
少しだけ困ったみたいに笑って、曖昧に濁して、すぐに話を逸らした。

終わったんだな、って。
言葉にされるより先に、勝手に理解してしまった。

なのに。

どうして、何もなかったみたいに隣にいるの。
どうして、同じ距離で話しかけてくるの。
どうして、その声で名前を呼ぶの。

優しいから、だよね。

貴方は何も切り捨てられない。
誰に対しても、穏やかで、柔らかくて、誠実で。
そんなところに惹かれてしまったから。

ねえ、知ってる?

貴方の周りにいる奴ら、全部、嫌い。
貴方に触れるもの、貴方の名前を呼ぶ声、貴方に笑いかける視線——全部。

特に、「お前」なんて呼び方。
あんな雑な言葉で、貴方を扱っていいはずがないのに。

こんなふうに執着してるなんて、知らなかったでしょ。

ちゃんと壊れ損ねてしまった。
中途半端に残ったまま、腐って、濁って、消えもしない。

でも、貴方は知らないままでいい。
知らないまま、いつも通り笑っていて欲しい。

貴方の何気なさに、勝手に意味を見つけて、
勝手に期待して、勝手に傷ついて。

それでも諦められないのは、
そんな貴方が、この世の何よりも綺麗だから。

3/29/2026, 10:55:15 AM

#ハッピーエンド

物語は、いつも正しく終わる。
選ばれた者同士が結ばれて、それが幸福だと定義される。

では、選ばれなかったものはどうなる。
伸ばした手が届かなかった瞬間ごと、切り捨てられる。
最初から存在しなかったものとして、都合よく消される。

ハッピーエンドとは、そういう構造だ。

だから。
物語の中心にいる貴方は、幸福でなければならない。

知性も、容姿も、何もかもが整っている。
綺麗で、正しくて、
曇りのない感情で愛されるのが、あまりにも似合いすぎている。

――だからこそ。

そんな貴方の隣に、
この歪で、濁って、形すら定まらない感情が並ぶことは許されない。

理解している。
理解しているはずなのに。

それでも、消えない。

排除されるべきだと知りながら、
触れてはいけないと分かりながら、
なお、手を伸ばしてしまう衝動がある。

壊してしまえばいいと、思ってしまう。

その完璧な物語ごと、
その正しく整った結末ごと、
全部、ぐちゃぐちゃにしてしまえば。

選ばれなかったものも、
最初からそこに在ったと証明できる気がしてしまう。

――それでも。

最後に残るのは、やはり願いだ。

どうしようもなく歪んだまま、
それでもなお、貴方の幸福を望んでいる。

壊したいと願うこの感情と、
壊さずにいさせたいという願いが、同じ形で共存している。

そのどちらもが本物だから、
どちらも捨てられない。

だからきっと。

この物語は最後まで、
綺麗には終わらない。

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