しそわかめ

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5/23/2024, 12:57:11 AM

また明日。

最終コマが終わった、19時13分。今日は朝から怒涛の5コマ連続で、流石に疲れを自覚していた。
「いや〜、流石に面談入れんのマズったなぁ」
「ほんと、俺も気をつけよ。流石にしんどい笑」
そんじゃなくても小テストにプレゼンの発表回まで今日だったのだ。本当に頑張ったと思う。
「あー、甘い物食べたい。」
「わかる。例えば?」
「例えば…、生クリーム。」
「単体かよ。シュークリームでも買ってこうぜ」
「お、いいね。」

そのまま駅に向かって、シュークリームを買って。
近くのベンチに座って、喋りながら味わった。
「じゃ、またな!」
「おう、また明日。」

そんな平和な、晴れた夜。
きっと明日も楽しい、ね。

5/10/2024, 2:07:51 PM

モンシロチョウ

Cafe Zeffiroの店先には、ちょっとした花壇がある。定番のマリーゴールドから、ボリュームのあるユーフォルビア、朝顔のような花をつけるペチュニア、ちいさな薔薇のようなカリブラコア、料理に使えるローズマリー、バジル、ラベンダー。
春先から初秋まで、色とりどりの花々が、Cafeで安らかなひとときを求める人々の目を楽しませている。

「奏斗〜、土どこしまったん?」
「セラフが知ってる〜」
「後ろだな、持ってくるか」
カフェがお休みの、とある昼下がり。目に新しいエプロンをつけて、軍手をして、小さなスコップを握って。セラフと雲雀のふたりは、せっせと庭いじりをしていた。

やはりこれだけの量だ。流石に全くお手入れをしない、というわけにもいかず、とは言え雲雀ひとりで作業するには余りにも膨大だ、ということで、セラフに協力を仰いだ次第である。
四季凪と風楽はそれを傍目に見ながら、テラス席で書類仕事に追われている。

「あ、モンシロチョウ。」
暖かな陽気、それを囲む親しい友人。
まるで平和の象徴と言わんばかりに、真っ白なモンシロチョウが空を駆けていった。

今日の夕食はみんなでイタリアンパーティ。でっかいビザでも食べよう。そう思いながら、セラフは手を動かしていた。

5/9/2024, 8:23:39 AM

一年後

「セラ夫、今日は早めに事務所に戻ってきてくださいね。」
昨日の大雨強風はどこへやら。今日は眩い青が煌めき、雲もひとつとない。最早恨めしい程の快晴である。
今日も今日とて迷い猫を探しに、さぁ街へ繰り出そうと扉を開けたところで、なぎちゃんが不意に呼び止めた。
「事務所じゃなくてゼフィロ直帰でもいいです。」
そこは任せるので連絡だけください、いつも通り。そう言いながら、猫の書類をまとめている。
「…なんかあったっけ?今日。」
「え?…まぁ、はい。」
「ふーん?、…?」
「別に忘れてるならそれで大丈夫ですよ。」
むしろ面白くなる。そう顔で語りながら、なぎちゃんがさぞ面白いというように微笑んだ。
「まぁいいや。行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
事務所のちょっと重めの扉を押して、ちょっともやもやを抱えながら。迷子の子猫に想いを馳せた。

「…ちょっと遅くなっちゃったな。」
あれから、目的の猫はすぐに見つかった。…見つかりはしたのだか。なぜか異様に逃げられるわ、逃げた先が交通量がとても多い大通りで肝を冷やすわ、あーだ、こーだ。
そんなんでいつもより少し心をすり減らし、無事猫を依頼先に届け、今に至る。
既に日は傾いて、橙色の先に濃紺が顔を覗かせていた。
これは、ちょっとだけ怒られそう。
怒るというか、心配をかけるというか。3人して心配だ、という顔を惜しげも無く体現して、こちらが顔を覗かせた瞬間にぱぁっと安心した!!と顔に出るのだ。少しだけ、なけなしの良心が痛んだり、痛まなかったり。
そんなこんなで、とても遠い道のりに感じた帰路を抜け、見慣れたゼフィロの扉の前に立った。明かりもついているし、何やら騒がしい気配もする。…帰ってきたなぁ、なんて。

「…たーだいまぁ〜」
声と共に、ぱぁぁん!!!と軽い、火薬の音。その音が余りに軽いから、特段身構えることもせずに音の発生源を目で探る。
…奏斗、ひば。それからなぎちゃんの手元。
それは拳銃でもなんでもなく、ごく普通の、市販のクラッカー。
「…なに?おめでたい日?」
その呟きに被せるように、3人の笑い声が響きわたる。
「ははは、何って!」
「ねぇ、アキラ!!」
「ふふ、ほんとに、、ねぇ」

「「「誕生日、おめでとう!」」」

『今日の主役』の襷と、謎のパーティサングラスと、テーブルいっぱいのご飯と。
「そういや、そうだなぁ。」
そういや今日は、5月の某日。久しく祝われることなんてなかった、それ故にほとんど意識していなかった、自身の誕生日。
「ほら!なにぼーっとしてんですか!」
「もうお腹すいてんのぉ!お前が帰ってこないから!!」
「はよ食べるかー!ほら、セラお!!」
「へへ、…うん。食べるかぁ!」
これからまた1年。vltでの、日々が始まる。

また来年もこんな時間が流れればいいなぁ、なんて思いながら、促されるままに席についた。

Happybirthday. 5.12.

5/6/2024, 5:01:08 PM

明日世界が終わるなら

教室の窓側、最後列。所謂勝ちポジなるその位置で、奏斗は頬杖をつきながら窓の外を眺めていた。
今日も今日とて、眩しいほどの晴天。いつの間にやら常連になった眩しい青を背負いながら、世界は暑さに揺蕩っている。これが俗に言う蜃気楼と言うやつかな、なんて雑に思考に耽りながら、校庭で一際目立つビビットピンクを目で追っていた。まぁぴょんぴょんと元気なこって、先程の神妙な顔が嘘のようだ。はっきりとは見えないが、きっと今もあの人懐こい笑みを惜しみなく体現しているのだろう。

『明日世界が終わったら、どうする?』
そう、神妙な面持ちで呟いていたのがほんの数分前の彼だと、一体誰が想像できるだろうか。隣のクラスのバスケ部員に連れて行かれる直前、赤点の小テストを眺めながら、まるでそこにある問題文を読み上げるような自然さで。
『明日終わるにしろ、その赤点は変わんないだろ。』
『だよなぁ〜。…奏斗、ここ何?』
egoisuta、利己主義者。この物語の主人公は、これのお陰で破滅に突き進んでいく。自分を信じ、他人を蹴落とし、全ては利益があるか否か。そうやって、やがてひとりぼっちになった。
次はarrogance。慢心。慢心とポジティブは紙一重。緊張しているからと言って、なにも不安がないように振る舞うのは偏に慢心では無い。そんなことを、誰かが言っていたっけ。
『僕は多分、死に急ぐかな。』
何もかもが終わる瞬間なんて、きっと恐ろしくて耐えられない。ならいっそ、自分の命にさえ自分で引き金を引いてしまいたい。
『それはさせんからなぁ。別の考えといて。』
その言葉と、中途半端な赤点の小テストを置き去りに、彼は校庭に消えていった。バスケットボールを担いで。

校庭の雲雀と目が合う。ニカッと笑って、ぶんぶんと大きく腕ごと降って。奏斗〜!って声が今にも聞こえてきそうだ。
思わず笑って、小さく手を振り返す。そういや、放課後にバンド練があるとか言ってたな。ちょっとイタズラしに行こうか。

5/6/2024, 4:59:35 AM

君と出逢って

牡牛座流星群。毎年10月から11月の何日か、夜の9時から深夜まで、1時間に大体10個程度。いつの日からか、この流星群が、下記の楽しみのひとつになっていた。
一昔前、職業柄、夜空を眺める時間が圧倒的に多かったあの頃。もう何度目かになるタッグを組んで、ほんの少しの世間話を挟むようになっていた頃。いつもの様に、今日は牡牛座流星群が見えるはずですよ、なんて。その言葉に導かれるまま、何気なしに東の空を見上げた時、幾重にも連なる白い導線が、地上に降り注ぐかのごとく光り輝くのが見えた。今も詳細に思い出せる。あの景色、温度、君の息遣いと、俺の手にあった鉄の冷たさまで。

「なぎちゃん。今日何の日か知ってる?」
「えー、10月13日…。何かありましたっけ?」
「正解はねぇ、さつまいもの日」

もう日が落ちる。5時前の、少し影が指す事務所。そのソファーに沈みながら、事務作業に勤しむ相方を眺める。
「…冷蔵庫に、スイートポテトと大学いもがあります。」
晩ご飯の後に、空を見ながら食べようよ。

夜の世界から抜け出して、君と作りあげた僕らの世界。この場所からは、昼の喧騒も夜の星空も、どちらもとてもよく見える。
君と出逢って、夜空を見上げて。そこで初めて、いつもそこにあった光に気がついた。君が月明かりだと言うのなら、俺はその下で、いつまでも君を見上げていたい。

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